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ピアノランドフェスティバルのリハーサルで感じたこと

久しぶりに、noteを書いてみようと思った。
忙しくてそのままになっていたけど、このnoteの佇まいが好きだ。
今日は、音楽好きな人なら誰でも興味がある「リハーサル」について
ピアノランドメイト会員への配信するLioko's letter に書いたものを
リライトしたものを見ていただこうと思う。

『ピアノランド』は1991年から音楽之友社で発行し続けているピアノ教本で、
毎年親子のためのコンサート「ピアノランドフェスティバル」を開いてきた。
その23回目の公演を前に、ピアニストの小原孝さんと、
次男の作曲家樹原孝之介と3人でリハーサルを行った後に書いたもの。
コンサート自体は8月11日から配信で公開される。


Dear Friends 「100年後にも伝えたい❣️」


昨日、小原孝さんと樹原孝之介とリハーサルをしました。
改めての大発見はなんと言っても、音楽は作曲者と演奏者と聴く人、
3者の会話だということ。

今回の初演作品を数えたらなんと15曲(追記 16曲でした!)あるのですが、作曲者の考えを小原さんがどのように受け止めてくれたのかがよくわかるリハーサルでした。
奏者としてリハーサルする場合は「お互いの解釈を確かめ合う」ことが中心になりますが、ピアノランドフェスティバルのリハーサルの場合は常に初演作品があり、「作者と奏者の考え方を確認し合う場だ」ということ。特に、今年は曲数が多いのでそのことを強く意識しました。

玉手箱のようなリハーサル

小原さんは、楽譜という限られた情報の中から、いつも、素早く、深く音楽の本質に触れることのできるピアニストです。
それは、膨大な経験と磨かれたセンスからくるもので、他の人が一朝一夕に真似できるものではありませんが、これこそが、私が小原さんと演奏し続けてきた理由でもあるなぁと思いました。

もちろん、「この曲は子どもにとってこういう難しさがあるから狙いはここにある」とか、「ここはこうしてね」とかの希望は伝えますが、小原さんからも沢山インスパイアされることがあります。その、音楽での会話こそが喜びなのです。
言葉ではなく、感じ合って演奏するという喜び、曲を理解してもらえた喜び、共に伝えられる喜び、作者の予想とは違うものが飛び出してくる喜び。リハーサルは、玉手箱のようでした。

10月に発売予定の楽譜『ピアノランドプラス  四季のうた』から10曲の、とても繊細で骨太で凝った連弾曲たち。
今回は、私がメロディを弾き歌いしながら、その凝った伴奏パートを小原さんに演奏していただくのですが、彼は一度合わせただけで曲のエッセンスを理解して、細部に至るまで魔法のように意志のある音色で支えてくれます。
リハーサルは練習ではなくて、設計図を建築物にしていくプロセスだとつくづく思います。


この組み合わせは……凄い!

そして、今回は、連弾組曲集『時の旅』から組曲「美しい時間」、1曲目の「ゆらぎ」を、小原さんと孝之介の連弾で聴いていただきます。
これまでに小原さんと私、孝之介と私という組み合わせで演奏したことがあるのだけれど、この、師弟コンビによる演奏はどちらとも異なる新しい解釈で、メチャメチャ納得の素敵な演奏でした。曲の形が新たに彫刻のように浮かび上がって、これは、作曲者としての大きな喜びでした。

バレエでもお芝居でもミュージカルでもそうだけれど、この役をこの人がやったことで生まれる「特別な何か」、というのがあります。
コロナ禍では「代役」という形で様々な組み合わせが世の中に現れたけれど、そのことで、個々の演奏者や役者のかけがえの無さが際立ったと思う。
まさに、小原さんがセコンド(連弾で左側に座り主に伴奏パートを受け持つのだけれど、私の曲ではそうとも限らない)、孝之介がプリモ(連弾で右側に座り主にメロディパートを受け持つのだけれど、私の曲ではそうとも限らない)を演奏するとき、作曲者の私が知らない地平線のようなものが見えました。
それを、「作品の可能性」と呼ぼう!

おそらく、ちいさい頃から小原さんのレッスンを受けてきた孝之介だからこそ汲み取れる何かがそこにあり、互いに遠慮なく、臆せず、自分の解釈を披露し合う表現が生まれたのでしょう。面白かったし、それは感動的であったし、また聴きたいし、できればこの組曲「美しい時間」全曲をこのデュオで聴きたい。

ピアノランドフェスティバル2022
左 樹原孝之介 右 小原孝
写真:ヒダキトモコ


100年後を考えて曲を書く

「ピアノランドフェスティバル」の意義は、子どもたちが普段演奏している『ピアノランド』をピアニストと作曲者が本気で演奏する以外にも、「昔のヨーロッパの曲ばかり弾くのだけがピアノ演奏会ではない、ということを子どもたちや親御さんに伝える」ということも含んでいます。
西洋に倣うばかりではなく、東洋の日本という国に生まれた私自身のアイデンティティを持って音楽を作っていく、生み出していく、100年後にも伝えていく、という姿勢を伝えること。それを自ら実践し続けることを大切にしてきました。

今年は、『ピアノランドプラス』という『ピアノランド』に続くシリーズの第一弾を発表する大切な節目でもあり、子どもたちに、時代と共に作品が生み出されていく必然性や素晴らしさを、そして、いつも受け手であるばかりではなく発信する側に立つことの大切さも伝えたいと思うのです。


可能性は、いつも開いておく 

音楽室に肖像画が飾ってある作曲家ばかりではなく、今、子どもたちが夢中になっているゲーム音楽を作ったり、ミュージカル音楽を作ったりすることも、決して夢ではなく子どもたちの未来の可能性の一つです。

子どもたちが自然に曲作りに親しみ、曲の構造に興味を持つようにと書いた『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』で伝えたことを、実際に先生方が実践されて、多くの子どもたちが作品を生み出して報告してくれるようになりました。
それは、なんて嬉しいことでしょう。
たとえプロになってもならなくても、音楽を作る楽しさを味わえたことは人生の大きな経験、宝となるでしょう。


型破りな小原さんだからこそ

32年前、クラシックのピアニストとしては型破りなスタートを切った小原孝さん。クラシックやポップス、民謡もロックも、なんだって編曲してレパートリーにして自信のアレンジで客席を魅了してしまう小原孝さん。

だからこそ、先生と一緒に歌って弾ける『ピアノランド』、しかも輸入一辺倒だったピアノ教育の世界に全曲書き下ろしで挑んだことに共感してくださって長く一緒に活動することができたのだと思います。
これからもお互いに自分の道を大切に歩きながら、また来年もピアノランドフェスティバルで共演できることを楽しみにしています。

多分、8/4に収録したピアノランドフェスティバルの編集が着々と進んでいる頃。
命懸けで書いてきた曲、企画したフェスティバルを客観的に見るのは嬉しいような怖いような、でも、やっぱり楽しみです。

よかったら、Lioko's letterを毎週読んでね!

例えばこんな風に、樹原涼子が日々思ったことや、お勧めのコンサートや音楽の勉強について、週に1回くらいのペースでピアノランドメイト会員にLioko's letter のメール配信をしています。
興味があったら、入会いただければ幸いです。
Lioko's letter の他、年に4回の会報ピアノランドメイトや、会員が受講できる勉強の機会が沢山あります。

http://pianoland.co.jp/pianoland/mate


最後にもう一度、このリハーサルの後行われた、ピアノランドフェスティバル、ぜひ、配信をお楽しみください!
8月11日〜9月30日まで、何度でもご覧になれます。


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