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青柳いづみこ「花の物語、花の音楽」を聴いて

演奏会に行くのは、心の栄養補給みたいなものだ。
だから、心にダイレクトに入ってきて欲しい演奏会を選んで行く。
今日、青柳いづみこトーク&コンサート「花の物語、花の音楽」に出かけてとても幸せな気持ちになったから、
noteに書くことにした。


青柳いづみこ先生のこと

ピアニストの青柳いづみこ氏について
一言で紹介するのはとても難しい。
ある1年のいづみこ先生の活動を日記にまとめたことがあるので、
そちらをご覧いただけばその一端がわかる。


ピアニストがファンになってしまう演奏家である、というだけではなく、
ドビュッシーの研究家でもあり、
数え切れないほど本を出版している作家でもある。
自分の演奏だけに興味がある演奏家ではなく、
(もちろん、そういう芸術家がいて当然で、それはそれとして)
若くして成功している音楽家のインタビュー集を出して
音楽を目指す若い人たちを応援、啓発したり、
年にいくつもの企画を立て、
国内外の素晴らしい音楽家と共演して
ピアノソロだけではない音楽の魅力をピアノファンに伝え、
ピアノ指導者のためのセミナーやレッスンを行ったりと、
とにかく活動の幅が広く縦横無尽で、
愛と自由さに溢れる素敵な方だ。

私自身は直接レッスンを受けたことはないけれど、
勝手にわが師と仰いでいるので、
都合のつく時には必ず演奏会に伺い、
オフィシャルに原稿を書くときには青柳先生、
直接お話しするときは「いづみこ先生」、と呼ばせていただいている。

私が発行しているピアノランドメイト(季刊誌)では、
いづみこ先生との対談を連載していて現在進行中、
とても評判がいい。

今日の演奏会のことを話そうと思っていたのに、
いづみこ先生のことを書き始めると
推しの話をして終わらないオタクみたいになる。


今日のコンサート、「花の物語、花の音楽」を聴いて

花にまつわるピアノ曲を集めた演奏会。
と言うとちょっとありきたりな感じがするかもしれないが、
いづみこ先生が選んだ曲たちはとてもイケてる。
9月に行けなかった迎賓館で行われた演奏会と同じプログラムなので、
楽しみに出かけた。

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代官山ヒルサイドプラザのホールは、真っ白で天井が高く、
黒くどっしりとしたベーゼンドルファーとのコントラストがいい。
白い壁面の正面左の上の方には、美しい花の絵が次々に映し出され、
音楽を楽しげに彩って、なんとも気持ちの良い空間だ。

いづみこ先生は、古今東西の花を題材にした曲を編んで、
その花にまつわる神話や物語、
ご自身の、そして作曲家や作家たちのエピソードを紹介しながら、
次々に曲を演奏していく。
あたかも花の展覧会のようで、
会場は花の香りで溢れんばかりだ。

実際の花はそこに咲いているわけではないのに、
作曲家たちが自然から得た感動が匂い立つように
いづみこ先生の指から溢れる音楽は
たおやかで美しく、様々な色を見せてくれる。

その繊細さは、水彩画のよう。
濃く、淡く、儚く、力強く、
時間とともに流れていく音の形は、
まるで咲いては枯れていく花の命のように
強烈な印象を聴く人の心に刻みつけながら、
その白い空間に浮かんでは消えていく。


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花の曲に託されたこと

作曲家が記した楽譜は、
五線紙に黒い玉や白い玉が並び、
それが様々な線で束ねられているだけで、
楽譜を達者に読める人にしか「花」は見えないのだけど、
こうして名手の手にかかると
色鮮やかに、風に吹かれる様まで見えるように、
その国の景色や土の色まで想像させるように、
音楽が力を得て歌い出す。

幸せだなぁ。
今日の作曲家さんたちは、いづみこ先生に演奏してもらえて。

花は花でも、作曲家によって捉え方は様々で、
ジェルメーヌ・タイユフール作曲の『フランスの花々』の「バラ」と

レイナルド・アーンの『当惑した夜鶯』の「ブリダの薔薇」とは
まったく異なったイメージで胸に迫ってくる。
こうして「花」をテーマに編まれた音楽会だからこそ
感じられることもある。

タイユフールを演奏する前にサン・ティグジュベリの「星の王子さま」で
王子さまが大切にしていた一輪の薔薇の花の話をされて、
その薔薇はティグジュベリの奥さんのことを表しているのだと
そして、奥さんは彼との愛憎を本に書いているのだと聞いて、
ああ、なるほど……と子供の頃にはわからなかった気持ちになったり、
いづみこ先生の話にはいつも心を揺さぶられる何かがついてくる。

演奏家は指が達者に動けばいいのではなくて
人間が築き挙げてきた音楽以外の文化はもちろん、
動き続けている世界の様子や、人の心の機微や
いろんなものを感じたり言い切ったり迷ったりする能力もまた
必要なのだと改めて思う。

自分が作曲しているから強く思う。
音楽の背景にある何か、作曲家が言いたかった何か、
言葉にできずに音に託した何かを
汲み取ってくれる演奏家が弾いてくれたら……と。
曲たちはいつも
その日を待っているのだと。


いろんなことをひっくるめたいづみこ先生の美意識に、
私は参っちゃうのです。
いわゆるクラシックの王道プログラムとはまったく違う、
本当に好きなものを大切に演奏していくという意識が
素晴らしいと思う。

この素晴らしさがわかる人が来てくれればいいのよ、と思う。
そして、わかる人を増やしたいから、
たくさんの人に声をかけて出掛ける。
みなさんも、お近くで青柳いづみこ先生の演奏会があったら、
ぜひ聴いてみてくださいね。


演奏会はいつも、夫と友人たちと出掛ける

演奏会というのは、私にとって心の旅だ。
いつ、誰の演奏を聴きに、どこへ、誰と行って分かち合ったかが
とても大事だ。

いい演奏会は、
大事な誰かと一緒に聴くのがいい。
あのときはこうだったね、とともに思い出す喜びもまた
格別だから。

今回も、一緒にピアノを勉強している仲間と待ち合わせていて、
外に出たらみんなが待っていてくれた。
そして、いずみこ先生ご推薦の『プルーストの花園』の詩画集を
I さんが見せてくれた!
なんて素敵なんでしょう。

コロナ禍8ヶ月目の代官山で
台風が来なかった幸せを味わいながら
音楽仲間がいる幸せを思う。


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ちょうど蔦屋に車を止めてきたから、
帰りに探したのだけれど、古い本なのでもう扱っていなくて、
でも、代わりに素敵な画集を2冊もみつけた。
すごく重いのだけど、夫がいて車だから
ルンルンと帰ってきた。

こうして、一つの喜びは、また新たな喜びに繋がっていく。


マスクをしている写真も、きっと後になったら懐かしいのだろうか。
トップの写真は、コンサートの後に蔦屋で食事をしたときのもの。
夫に撮ってもらうのは緊張感がなくて、
ちっともよそ行きの顔にならない。


帰り道


日本の作曲家の花にまつわる曲もよかった。
奥村一「花に寄せる3つの前奏曲」、
八村義夫「彼岸花の幻想」。
夫は、彼らの音楽からは時の経過を感じ、
時間とともに変化していく花の命を思った……
というようなことを
帰りの車で話してくれた。

彼は長いことCMの音楽プロデューサーの仕事をしていたから、
音楽について語り合うのは
とても楽しい。
夫婦が長持ちしているのは、
同じものに興味がある、というのもあるのかな。

あ、今日はそういう話じゃないんだ。


子どもの観客がいると、ちょっと嬉しくなる

今日、会場に小学生の女の子が来ていた。
ゲストの平井千絵さんが演奏するセヴラックの「夾竹桃の下で」という
長い曲の中に舞曲的なリズムが折々出て来るのだけど、
そこでどうしても身体が動いてしまって
お母さんが足を動かさないようにと注意している。

会場はコロナのせいで隣の椅子との間は広くとってあり、
席は後ろの方だから、私はちっとも気にならなかった。
踊っていいなら私だって踊りたいくらいだったから、
いいのよ、あなたの動きはとても自然で、褒めてあげたいくらい。
そう思いながら、
ああ、このお母さんも子供と一緒に演奏を聴くという時間を
とても大切に思っているのだなぁと嬉しくなった。

私も、息子たちを連れて数え切れないくらいの演奏会に行ったけれど、
やはりクラシックの演奏会では、最後まで緊張していたなぁ。
周りの大人に「ぼうや、よく聞けたね〜」と褒められるようになった頃には
ホッとしたものだ。

今日の女の子も、きっと、音楽が大好きな素敵な人になるだろう。
クラシックファンのみなさん、
未来のクラシックファンが増えるためにも、
子どもたちが演奏会に行くことに
少し寛大になっていただけますように……。
(もちろん、時と場合、演目によりますね)

演奏会の形も、これから、どんどん変わっていくのだろうなぁ。
いづみこ先生の演奏会は、いつも唯一無二。
本当に台風が逃げていってくれてよかった!

さぁ、私もまた今日から頑張ろう。


2冊の画集、これから楽しもうっと


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さ、今夜は演奏会の余韻に浸りながら、
ゆっくり画集を味わおう。


青柳いづみこ先生の演奏会情報はこちらから。

ピアニスト・文筆家 青柳いづみこ Official Website


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