見出し画像

ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた (pianoland mateより)

 「ウルトラマン」「ウルトラセブン」は多分欠かさず見ていたと思う。我が子たちが小さい頃も何度目かの再放送があり、長男はウルトラマンやセブン、次男は怪獣を愛で、おもちゃ箱に入りきれないそれらが際限なく増えていくのが悩みの種だったことを思い出す。
 ところが、この本を読んで私は衝撃を受けた。「ウルトラセブン」を見て、こんな風にクラシック音楽に出逢ってしまって本まで書いてしまう人がいるなんて! 読み始めたら止まらない、それは久々に楽しい読書時間だったのだ。
 そのことを、ピアノの先生方のための季刊誌『pianoland mate』vol.110に書いたので、noteにも転載することにした。


画像1

『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』
青山 通 著 新潮文庫


 筆者である青山さんは、7歳の時に「ウルトラセブン」の最終回で使われていた音楽に大きな衝撃を受ける。その感動が忘れられず、放送後7年経ったある日、その曲がシューマンのピアノ協奏曲であることを突き止める。そして、親に頼み込み、何とかLPを購入するのだが……曲は同じであっても別人の演奏だったことに痛く落胆、今度は、それが誰の、いつの演奏であるかをつきとめるために多くの録音に出逢いながら、いつのまにか音楽の真髄に触れる経験を積んでいく。

 自分の「好き」に正直に生きるって本当に素敵なことだなぁ。青山少年は勉強しようなんてつもりもなく、ただ「ウルトラセブンのあの音楽を知りたい」という探究心に駆られただけだ。そうして、それがいつの間にかクラシック音楽を聴くという別次元の豊かな耳を手にいれ、音楽出版社に勤務するようになった。何かに夢中になるとき。そこに、生きている喜び、生きている意味がある。「これが好きだったから、今の自分がある」と言えるのは、なんて幸せなことだろう。

 親として、子供の「好き」を応援する大切さも改めて考えた。それがどんなに親から見て解せないことであっても……ということも強く思った。夢中になれるものを持った子供は、最強の大人になれるかもしれないのだから。

 ピアノ弾きである皆さんにとっても、もちろん面白い本であることは間違いない。青山少年が求めていた録音に辿り着くまでの軌跡は、読んでいて追いかけたくなるだろう。ピアニストや指揮者、オーケストラ、録音時期の違いによって演奏がどれほど異なるかの描写は心に残る。ここではあえて誰の録音かは書かないので、読んで体験して欲しい!

 また、ウルトラセブンを愛した元少年がお宅にいらっしゃる方にもお薦めしたい。マニアックな話が山ほどあって、夫婦でそれぞれに楽しめる本というのもなかなかないのではないか。

 それにしても、恐るべし、ウルトラセブン。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?