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父親の浮気発覚から1年後に生家を失ったけど質問ある?(15/20)

『伯母との対決』
父親の浮気発覚から1年2ヶ月後

上記のnoteの続きです

▼疑心暗鬼

母と一緒に2階の荷物をまとめていると、伯母夫婦が祖父母の引越しの準備の手伝いにやって来ました。伯母たちの顔など見たくもなかったので、これまでのように玄関まで出迎えて挨拶することはしませんでした。

あの人たちは、ボクの生家を奪ったのです。顔を見たくなければ、声も聞きたくありません。それでも伯母たちが話を始めると、聞きたくもない声が2階にまで届きました。

耐えきれなくなったので気分転換に外に出たのですが、そこで嫌な光景を目にしました。なんと伯母夫婦のクルマがご丁寧に、わざわざ我が家の車庫の前、入り口に被るように停めてあったのです。

伯母たちは、ウチのクルマが使えないように嫌がらせをしたのでしょうか? たまたまそうなっただけなのでしょうか? 疑心暗鬼に陥りました。

普段だったら「嫌がらせか?」などと、いぶかることはありません。相手を疑った自分の心の狭さに情けなくなるのですが、相手が伯母たちだったからこそ、疑念が湧いてしまったのです。

少し心にヒビが入りましたが、これはまだまだ序の口でした。

▼傍若無人

気を取り直して引っ越し作業を再開すると、1階からガチャガチャという音と伯母たちの愚痴が聞こえてきました。

ようすをうかがってみると、祖母のために廊下やトイレに設置した手すりを取り外そうとしていました。おそらく、千葉の家に持って行くためだと思われます。ところが、手すりは身体を支えるためのものですから頑丈に取り付けられており、一般的なドライバーでは外すことはできません。それに対して伯母たちは、文句を垂れながら作業をしていたのです。

手すりが簡単に外せないと諦めた伯父は風呂場へ向かい、今度は祖母のために作った浴槽台に文句を言い始めました。

「これで6万円もするのかよ。業者はぼったくってるな~」

無知蒙昧とは、まさにこのことです。何も知らないくせにケチをつけないで欲しいです。この浴槽台は、我が家の浴槽のカタチに合わせて作った特注品です。価格は6万円ですが、介護保険の適用で1割負担となり、6,000円で購入しました。

※浴槽台とは、浴槽に沈めて使用する腰かけ、または浴槽内の踏み台にもなる介護用品です。

またしても心にヒビが入りました。

ボクも母も、伯母夫婦の傍若無人な振る舞いにイライラしていたとき、階下から祖母の声が聞えてきました。

▼伯母との対決まで あと7時間

時刻は14時過ぎ。階下から、ボクの名前を呼ぶ祖母の声が聞こえてきました。祖母は自宅での介護が始まったころから、なぜかボクと母の名前を“さま付け”で呼ぶようになりました。とくに、1階から2階に向かって呼びかけるときは、いつも“さま付け”でした。

「おばあちゃん、どうしたの?」

階段を下りながら、下から2つ目の段に腰を下ろしていた祖母に声をかけました。

「お母さんは、上にいるの?」

「うん」

「いつ引っ越すの?」

「あと1週間くらいかな……」

「元気でね。今度、千葉へ遊びにおいでね」

「うん、そうだね……」

最後まで気遣ってくれる祖母に心を打たれました。たとえ離れ離れになっても祖母には会いに行きたいのですが、そこには伯母たちも住んでいるわけですから複雑な気持ちです。

「お父さんはどうするのかねぇ?」

「別々に暮らすよ」

「(慰謝料とか)取れるものは取っちゃいな!」

「そうだね(笑)」

祖母は「本当よ~」と言いながら、手で何かをつかみ取るジェスチャーをしました。

「お前は勉強のできる子だ。お前はちゃんとした会社に入るんだよ」

「わかったよ」

「それで、お父さんはこの家に残るの?」(2回目)

「オヤジも引っ越すよ」

「(慰謝料とか)取れるものは取っちゃいな!」(2回目)

「そうだね(笑)」

「お前さんの成績は1番だ。それで、お父さんも引っ越すの?」(3回目)

「そうだよ」

「(慰謝料とか)取れるものは取っちゃいな!」(3回目)

「うん……」

「今度、千葉へ遊びにおいでね」

こんなにボクたちのことを心配してくれている祖母が、これから何も知らされないまま千葉へ連れて行かれると思うと無性に腹が立ってきました。

意を決したボクは、祖母に真実を打ち明けることにしました。

▼真実と嘘

ボクたちが住んでいる家は、祖父母が頑張って建てた家です。とくに祖母は必死にお金をやり繰りしたそうです。その苦労を聞いていたボクは、この家を祖母に黙って、もしくは誤魔化して売り払い、千葉へ連れて行こうとする伯母たちのやり方がどうしても許せませんでした。

「あのね、おばあちゃん。この家は売られるんだよ。この家を売ったお金で千葉に新しい家を建てることになっているんだよ……」

「そうなのかい!?」

すると次の瞬間、伯母が血相を変えて目の前に現れ、鬼の形相で言いました。

「何を言ってるの!」
「変なことを言わないでちょうだい!」

「おばあちゃんを不安にさせたら駄目でしょ!」

伯母は真実を隠すのに必死でした。

「おばあちゃん、大丈夫よ! この家は残るのよ!」

伯母は、そのまま祖母を部屋へ連れて行ってしまいました。

あまりにも突然の出来事にボクは困惑し、祖母に本当のことを話すべきではなかったのだろうか、と自問自答しました。

ボクは、祖母のことを想って真実を話しました。
伯母は、祖母のことを想って嘘を話しました。

いいえ。伯母は、祖母を思いやってなどいません。上っ面だけの、その場限りの安心を祖母に与えているに過ぎません。自分たちに都合の悪いことを隠そうとしているだけです。

どうすることもできず、ボクは2階に戻って母に相談しました。

「さっきの話、聞いてた?」

「うん、聞こえてたよ」

「どうすれば良いんだろうね……」

またしても、心には深いヒビが入りました。

▼伯母との対決まで あと6時間

15時ごろ。先の一件でますます1階に降り難くなったボクは、悶々とした気持ちで2階にいました。自分の住んでいる家なのに自由に過ごせないなんて、おかしな話です。

伯母たちのことを母に相談しましたが、「ああいう人たちなのだから仕方がない。根本的なところがズレているのだから」という結論に至りました。以前にも書いたように、「自分こそが正しい」という人たちですからね……。

そんなとき、伯母のトゲトゲしい声が2階にまで聞えてきたので、ボクは気になって階段を途中まで降り、耳をそばだてました。

「せっかくおばあちゃんを説得したのに!」

声は、台所から発せられているようでした。

「あの子が『この家は売られる』なんて言うから、まったく……」

すると、同意しているのか、受け流しているのか、叔母の相づちがかすかに聞えてきました。

「悔しいんじゃないの~? 家が売られるもんだからさ!」

伯母の嫌味は最高潮に達していました。

「あたしが『おばあちゃんに変なこと言わないで』って言ったら、あの子、無視したのよ!」

40歳近く歳の離れた相手に陰口を叩かれたことなど初めてで、ボクの心臓は破裂しそうなほど高鳴っていました。胸に手をあてなくても、その強い鼓動が感じられるほど。同時に、キリキリとした胃の痛みも感じました。

伯母を無視したつもりはありませんでした。伯母が無視されたと感じたのであればボクに非がありますが、あたかも自身が被害者であるかのように一方的に陰口を叩くのは、また別の問題だと思います。

自分の気に入らない人間を一方的に悪者に仕立て上げることが好きな伯母ですが、今回の標的はボクというわけです。

とりわけ悲しかったのは、伯母が新しい家を買ったら孫の部屋も作らないといけないことを、ボクの耳に届くようにわざとらしく大声で言ったことでした。

その瞬間、1年前に父に砕かれ、少しずつ直りかけていたボクの心は、再び砕け散りました。

▼伯母との対決まで あと5時間

16時ごろ。伯母に悪者にされ、陰口を叩かれ、怒りは頂点に達していました。けれど同時に「どうして自分がこんなことを言われなければならないのだろう」と思うと悲しくなって、動けなくなりました。

伯母の陰口は、母にも聞えていました。

「ここでお母さんが口を出すとまたややこしくなるから、お父さんが帰ってきたら、さっきのこと相談しなさい。あの人の弟でも、あなたの父親なんだから……」

父は、自分の息子が姉から酷いことを言われたと知って、黙っていられるでしょうか。ボクが以前、伯母から口撃を受けた際には助けてくれませんでした。しかし、それでも今回は父に頼るしかありませんでした。

▼伯母との対決まで あと数分

21時ごろ。母は、帰宅して1階にいた父を2階に呼び出しました。

あれだけ嫌っていたのに、自身に嫌なことがあったときにだけ、こうして父を頼ろうとする自分が情けない……。

父がソファーに腰を下ろしたのを見計らって、口を開きました。

「今日、伯母さんに悪口を言われたんだよ」

「なんて言われたんだ?」

「おばあちゃんに家を売ることを話したら、『変なことを言うな!』とか、『この家が売られて悔しいんでしょ?』とか、『無視された』とか……」

「……」

父は黙って話を聞いていました。

「どうしてお義姉さんに、この子の悪口を言われなきゃならないの!?」

「わかった、お父さんが伯母さんと話してみるから……」

そう言って、父は1階に降りていきました。

父が先ほどのことを伯母に話しているのだと思うと、手が震えてきました。心臓はバクバク鳴っているし、手足とつま先は血の巡りが悪くなっているのか、冷たくなっていました。

すると数分後、伯母の怒り狂った、おぞましい声が1階から聞こえてきました。かと思いきや声はピタリと止み、今度は ドス! ドス! ドス! ドス! と、何者かが階段を上ってくる音が聞えてきました。

まるで、幼い子どもがふてくされて、わざと大きな音を立てるような……。

▼伯母との対決

ボクにも母にも階段を上ってくる者の正体は明らかで、目線はすでに階段の出口に向いていました。

ドスン!

階段を上りきった伯母は、鬼の形相で、仁王立ちでこちらを見下ろしました。

「ちょっと! 私が何か悪いこと言った?」

「ボクの悪口を言っていました」

「それは、あなたがおばあちゃんに変なことを言うからでしょう?」

「変なこと? 言ってませんけど?」

すると、伯母は狂ったように叫び出しました。

「おばあちゃんは認知症なのよ! 認知症! 病気なの! わかる? それなのに、『家を売る』なんて言ったらダメでしょう!?」

答えになっていませんし、認知症だから何なの? という話です。

「とりあえず、座って話をしましょう?」

近くにいた母が声をかけましたが、伯母はまったく聞く耳を持ちません。

「私に文句があれば、この子じゃなくて私に言ってもらえますか?」

母の正論に、伯母は何も言い返せませんでした。

「ボクが伯母さんのことを無視しましたか?」

「したでしょう? 違う?」

「していません」

「あらそう、ゴメンなさいね!」

そう言って伯母は階段を下りて行きましたが、その後も1階からはトゲトゲしい声がしばらく聞えてきました。


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