見出し画像

ディズニーパークはラテン語の宝庫 Vol.2

記事「ディズニーパークはラテン語の宝庫」がかなり好評でしたので、第2弾を作成しました。まだ前回の記事を読んでいない方は、下のリンクからどうぞ。

https://note.com/latina_san/n/nc5e8d881eb15

ディズニーパークにはまだまだ様々なラテン語があり、ただ古典の作品から文をそのまま引用するだけでなく、パークの文脈に合わせたものや元のラテン語をギャグとして変えたものまで数々の引用の仕方があります。この切り口でのパークの解説はかつて無かった物なので、どなたにも新しい発見があると思います。また、ディズニーに興味がなくてもこの記事を読めばディズニーランドの奥の深さが分かり、ディズニーの方に興味が出てくると思います。順番はあえてランダムにしました。ではどうぞ。

1. ヒューイ・デューイ・ルーイのグッドタイムカフェのダイニングエリア 

第1弾に続き、こちらもトゥーンタウンから始めます。ここにある看板に、"E Pluribus Toonum"と書かれていますが、これはアメリカ合衆国のモットーと考えられ、アメリカのコインにも書かれているE Pluribus Unum「多数からー」をもじったものです(多様な人で構成される一つの国という意味です)。このフレーズはアメリカ合衆国の国章にも書かれており、その国章はフロリダディズニーのマジックキングダムにあるアトラクションHall of Presidentsの看板にもあります。このフレーズは、FGOのプレイヤーなら知っているはずです。これは1部5章のタイトル「第五特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム」にもなっています。元のラテン語の発音はエー・プルーリブス・ウーヌムですが、英語ではイー・プルーリバス・ウーナムと発音されます。ちなみに、これに似たフレーズはあの「アエネーイス」を書いたウェルギリウスが書いたといわれる詩"Moretum(チーズペーストの作り方)"にも出てきます。数々の材料を混ぜ合わせることで"color est e pluribus unus (102行目)「多色から一色に混ざり合う」と書かれています。もし一国の標語がチーズペーストのレシピから取られたものだとしたら、かなり面白いです。 

2. ミステリアスアイランド

ミステリアスアイランドのマンホールに、Mobilis in Mobiliとラテン語で書いてあります。これはノーチラス号の標語です。ちなみにここのキャストさんに「モビリス」と挨拶すると、「モビリ」と返してくれます。意味は「動中の動」です。ディズニーファン2019年9月号をはじめ様々なところで「変化を以て変化する」という訳が見られますが、ちょっと訳しすぎかなあと思います。mobilisは「動かすことのできる、活発な、柔軟な、変わりやすい」という形容詞の名詞化なので、「変化する」という動詞ではないからです。ラテン語を直訳すれば、「変わりやすいものの中(あるいは上)にある変わりやすいもの」です。このフレーズの解釈は様々あります。 ちなみに船長の名前「ネモ」はラテン語で「誰でもない (no one)」という意味で、ファインディング・ニモの「ニモ (Nemo)」とは英語の発音が同じです。

また、ノーチラス号の名前はラテン語で「オウムガイ」という意味で、これは古典ギリシャ語ναυτίλος(nautílos)「船乗り」にさかのぼれます。なぜ船乗りかというと、漏斗と呼ばれる器官から水を吹き出し、それを推進力にして水中を進むことができるからです。またオウムガイはガスの詰まった殻の内部の容積を調節して浮き沈みし、この仕組みは潜水艇と同様であるため、ジュール・ヴェルヌな『海底2万マイル』にて潜水艇にこの名前をつけました。ちなみに、2万マイルというのはここでは水深ではなく、海底を移動する距離です。20000マイル潜ったら地球の直径を超えてしまいます。

3. オムニバス

東京ディズニーランドのプラザを一周するバスです。バスはバスでも「オムニ」って何だ?と思われる方が多いですが、じつは「バス」という言葉が"omnibus"というラテン語を略したものなのです。omnibusは「みんなのために」という意味です(ラテン語omnibusのbusの部分は得に意味はなく、単に「~たちのために」や「~たちに対して」という意味を作る複数与格の曲用語尾です。"みんな"をomnesといい、"みんなのために"が"omnibus"です)。フランスにvoiture omnibus「皆のための乗り物」という乗合馬車があり、ここから様々に変化して、現在のbus「バス」に至ります。ちなみにフランス語でtrain omnibusは「各駅停車の列車」という意味です。omniの部分はラテン語omnis 「全ての」が元で、「オムニムーバー」(ホーンテッドマンションやバズ・ライトイヤーのアストロブラスターのように全てのライドが一続きに動いており止まることなく進むライドシステム)のオムニもこれが元です。

4. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト! 

カリフォルニアディズニーにあるアトラクションです。この中にある見開きの本に、ラテン語が書かれています これは、この場所に前にあった「トワイライトゾーン・タワー・オブ・テラー」というアトラクションにあった小物です。本の見開きには新約聖書のヨハネ福音書の18章のラテン語訳が書かれています。左上から、15節の途中の"Discipulus auten ille erat"と始まり19節まで、右のページは10節から15節の途中まで(左上に続く部分まで)書かれています。聖書で"cum lesu"「イエスと」となっている部分は、ここでは文字をぼかして宗教的な意味を無くそうとしています。小物一つにまでささげるこだわりが感じられます。

5. アメリカンウォーターフロント(SIGILLUM CIVITATIS NOVI EBORACI / EXCELSIOR)

前者はニューヨーク市の標語で、後者はニューヨーク州の標語です。
どこにあるかご存知ですか?前者はニューヨーク市水道局(タワー・オブ・テラーとトイストーリーマニアの間にあるトイレの建物)の上にある旗の中、後者はレストラン櫻とMaurice of Broadway(エレクトリックレールウェイの駅があるデランシーストリートとニューヨーク・デリがあるブロードウェイがぶつかる角)のビルの上にある旗に書かれています。前者の意味は「ニューヨーク市の市章」、後者は「より高い」です。コーヒーチェーン店の店名にもなっています。

6. ファントムマナー 

ディズニーランドパリの幽霊屋敷「ファントムマナー」の看板の下にNon omnis moriarとラテン語で書いてあります。意味は「私が完全に死ぬことはあるまい」で、ホラーティウスの『歌集』3巻30歌からの引用です。東京ディズニーランドのトゥーンタウンにあるcarpe gagemが同じ詩人のフレーズcarpe diemをもじったものというのは前回の記事で書きましたが、ディズニーはホラーティウス好きなんですかね。ディズニーシーのS.S.コロンビア号の前に広がる広場Horatio SquareのHoratioもホラーティウスの英語綴りなので。余談ですが、ファントムマナーのアトラクションポスターには、看板の下にラテン語でnulla fides frontiと書かれていて、見かけを信じることは出来ないという文脈で使われるフレーズです(英語にしたらno trust in the appearance)。

7. キャンプウッドチャック

ウッドチャックキッチンの外のベンチのエリアに、Fortuna Favet Fortibus「運命の女神は勇敢な者たちに味方する」というラテン語が書かれています。これはドナルドのおじのスクルージ・マクダックのモットーです。ディズニーシーのマクダック・デパーメントストアの前にある噴水の中に積まれているコインにも、このモットーが入っています。以前このお店の装飾にあった新聞記事ではこのフレーズをFortune Favors the Fortunate「運命の女神は幸運なものたちに味方する」と訳していましたが、Fの頭韻は見事に訳に反映できていても意味がズレてしまいます。


8. トード氏のワイルドライド

カリフォルニアのディズニーランドにある、『イカボードとトード氏』というアニメに出てくるカエルのトード氏が出てくるアトラクションの入り口に掲げられた紋章にはラテン語でToadi Acceleratio Semper Absurda「トード氏の加速はいつもばかげている」と書かれています。ちなみに2019年12月11日のディズニーランド公式ツイッターではこのラテン語にA Speeding Toad is Always Absurdという訳を載せていましたが、ラテン語を見る限りAbsurda(女性単数主格)はAcceleratio(女性単数主格)にかかりToadi (男性単数属格)にかかるわけではないので、誤った英訳です。また、パリにあるディズニーランド・パークにはToad Hallというレストランがあり、No Consumus Froglagusというラテン語もどきが書かれています。意味は「我々はカエルの足を食べない(We don't consume frog legs)」であると想像できます。なぜ「我々」かというと、ラテン語で-musは1人称複数で頻繁に使われる動詞活用語尾だからです。ちなみに、ラテン語で「我々は費やす」はconsumimusなので(英語consume「消費する、食べる」の語源)、せめてconsumusではなくconsumimusと書いてほしかったです。


9. シアターオーリンズ

幕にラテン語でDum Vivemus Vivamusと書いてあります。ちょっと惜しくて、正しくはDum Vivimus Vivamus 「私たちが生きている間は、(めいっぱい)生きよう」です。これはよく知られたラテン語のフレーズで、エピクロス派の標語とされます。真ん中の語はvivemusではなくvivimusであるべきです。vivemusだと未来時制なので「私たちが生きるであろう間は」という変な意味になってしまいます。これは休園期間中に直らないかなあと思っています。

10. MEMENTO MORI 

フロリダディズニーのホーンテッドマンションのグッズショップです。全体の意味は「(いつか)死ぬことを忘れるな」ですが、英語memento「記 念品」とかけた洒落になっています。幽霊屋敷のグッズショップにぴったりの店名です。ちなみに、ホーンテッドマンションの屋根裏に登場する花嫁の名前Constanceは、ラテン語constans「(人柄が)堅実な」が語源です。また、待ち列にあるFrancis Xavierの墓石に書かれている"requiescat"はラテン語で「お休みくださいますように」です。このお墓に書かれている名前Francis Xavierはあの有名なフランシスコザビエルではなく、このアトラクションで使われている曲Grim Grinning Ghostsの歌詞を書いたFrancis Xavier Atencioです。

番外編: パパダキス・フレッシュフルーツ

この記事を書くにあたってどうしても書きたかったのですが、ディズニーシーにあるパパダキス・フレッシュフルーツに以前あった3つ並んだ看板の真ん中にAMBROSIAL「この上なく美味な」と書いてあったのですが、この語源はギリシャ神話での神々の食べ物「アンブロシア」なのです。
これは、店のオーナーがギリシャ系の移民であることをふまえているのです(パパダキスというのはギリシャ系の名前なので)。ディズニー恐るべし。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。このように、世界のディズニーリゾートにラテン語は沢山ちりばめられているのです。まだまだ私の紹介していないラテン語はいっぱいパークにありますので、ぜひ探してみてください!また、サポートを必要としておりますので、よろしければご支援もお願いいたします。

読んでいただき、ありがとうございます。よろしければ、サポートいただけると泣いて喜びます。パトロンさん募集中です。