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クラスター・BCG・集団免疫…仮説についての考え方--コロナウイルス騒動を生き抜くための武器2

謎の国ジパング、をめぐるさまざまな仮説

緊急事態宣言後の自粛下だが、わたしは業務上の必要で通勤している。そこですれ違ったおじさんが大きな声で電話をしていた。

いわく、「日本人はBCG打ってるから全然大丈夫だよー」

通りすがりの8割おじさんならぬ、通りすがりのBCGおじさんの出現である。

ついにここまで来たか、とわたしは思った。なるほどBCG仮説なるものがインターネット上で流行しているのはよく知っていたが、この仮説がかなり楽観的な色彩とともに世間話のタネにまでなっているのをみると、さすがに漠然とした不安をおぼえてくる。

わたしを含め、日本中の、いやもしかしたら世界中の人が不思議に思っている。これまで毎日満員電車で通勤するなど、日本人はいつもどおりの生活を送っていたのに、なぜ欧米のような悲惨な状況になっていないのか。

この理由は分かっていない。分かっていないが、仮説はある。

そして、この謎の国ジパングの謎を解くことは、これから先の打ち手を考える上で、有用かもしれない。

本当に感染が広がっていない、という仮説

まず1つの可能性は、なにかしらの理由で感染自体が広がっていなかった、というものである。

感染症の感染しやすさは、単純化するとと主に3つの要素で決まる。
1.1回の接触あたりの感染確率
2.人と人との期間あたりの接触頻度
3.ウイルスが感染力を持つ期間

これに沿って考えると、日本にいたウイルスは感染力が弱かったのかもしれない。あるいは日本人はよくマスクをし、清潔好きで家では靴を脱ぎ、ハグや握手もしない、といった生活スタイルで、接触頻度が低かったのかもしれない。
両方が組み合わさって、感染が広がりにくかった可能性も高い。

このような、通常では感染が広がりにくい状況の中で、1人が多数の人に感染させる特殊な状況を押さえにいくクラスター対策を行ったことで、劇的な効果を上げたと考える。これがまさに、クラスター対策奏功仮説である。

ダイヤモンドプリンセス号での感染が連日報道され、日本人は欧米人より、新型コロナウイルスのことをずっと自分事として意識していたので、接触頻度が低かった可能性もある。
その傍証として、1月以降インフルエンザがまったく流行らなかった、ということが挙げられることもある。

クラスター対策奏功仮説は一番奇をてらっていない、オーソドックスなものである。説得力は十分にある。ただ一方で疑念もある。

たとえば、3月下旬になって流行の拡大が始まったことの説明がつきにくい。1月2月に特段飲み会が自粛されていた、といったこともないはずで、病院などでのこのウイルスの感染力をみると、本当にこんな程度のことで抑えられるのか、謎は残る。
欧米から輸入したウイルスの感染力が強かったから、というのは一つのあり得る答えである。

ウイルスの感染力については、屋形船クラスターを起源とするとされる永寿病院での爆発的な感染力をどう考えるか、という問題がある。
ウイルスの起源や性質について、RNAのゲノム解析の結果が待たれる。

感染が重症化や死亡につながっていない、という仮説

もう1つの仮説は、感染はしているが重症化しにくく、致命率も低い、というものである。これにも2通り考え方があり、1つはウイルスの毒性が弱いこと、もう1つは日本人の防御力が高いことである。

新型コロナウイルスはそれなりの頻度で変異が入るため、大きくわけて2-3種類、細かくわけると相当な種類の型があり、それぞれに毒性や感染力にバリエーションがあると考えるのはおかしなことではない。
当初入ってきていたウイルスは弱毒性で感染力も弱かった、一方で3月に欧米から輸入されたウイルスは強毒性で感染力も強かったために、感染の拡大が始まった、という弱毒ウイルス仮説は一定の説得力がある。

そして冒頭のBCG仮説は、日本人の防御力に関する仮説である。BCGワクチンを接種された人(および結核に罹患して治癒した人)は免疫力が全体に高いために、新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくい、というものである。これもメカニズム上否定はできない。

またさんざん論じられているように、結核がほぼ撲滅されBCGを打たなくなった国で死亡者が多く、日本のようにいまだ結核が流行しておりBCGを打っている国、特に「日本株」を打っている国では死亡者が少ない、という相関が観測されている。

さらには集団免疫仮説というものがある。これは弱毒性ウイルスの存在と組み合わせて考える。つまり、日本では11月か12月などの早期に弱毒性のウイルスが輸入され、知らない間に流行が広がっていた。そこで、すでに多くの人が免疫を得ていたので、3月に強毒性で感染力の強いウイルスが輸入されても、それほど感染が広がりを見せていない、という説である。

実際、Oxford大学の疫学者の研究チームは、イタリアやイギリスではすでに集団免疫が獲得されつつあるのではないかというシミュレーション結果を出しており(あくまで異端の説ではあるが)、この説にも一定の説得力はあるように思われる。

さて、ここでみなさんは改めて疑問を持つだろう。
どの仮説も聞いたことはある。どれもそれぞれに説得力はありそうな気がする。ではどれが正しいのか?と。

「正しい」仮説の選び方

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