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卒業


このnoteは浦島坂田船春ツアー2023 彩 のネタバレを含みます




私の青春は、浦島坂田船と共にあった。




ありふれた日々も いつしか誇れるように


大学1年生、春。
浦島坂田船の曲に背中を押されながら歯を食いしばって受験を乗り越えて、私は晴れて大学生になった。
4月、丁度「令和」という元号が発表されたその日に、私は新品のリクルートスーツで大学の門をくぐる。

ちょっとだけ特別な人間になったような、全くその逆のような感覚がした。

慣れない新生活、重たい教科書を詰め込んだリュックと満員電車、自由と引替えの自己責任、あやふやな大人と子どもの境界で、いつだって背中を押してくれたのは、浦島坂田船の音楽だった。




巻き込むぜ 恋は戦争


2019年6月23日。
私は初めて、「ライブ」に足を運ぶ。
西武ドームは思ったよりも遠くて、思ったよりも人が多い。永久に続いてるんじゃないかと思うような物販列を、小雨の中並び続ける。
やっとの思いで手にしたアクキーを握りしめて、入口を迷いながら中に入った西武ドーム。
壮大なステージと、圧巻と言うほどの客席。見渡す限り人、席、人、ぽつぽつと光始めるペンライト。
こんなにも沢山の人が、同じ目的を持って集まった事実が、ゆっくりと自分の中に染みていく。鳥肌が立った。開演時間になる。ペンライトが灯る。

夢みたいな瞬間だった。

メインステージで、アリーナ席頭上の花道で、空中庭園のようなセンターステージで。
彼らは歌い、踊り、笑った。あの頃画面越しで聴いていた声は、大きな会場に反響する。

浦島坂田船がそのステージに飛び出してきた時、私はわけも分からずに泣いたのだった。
ずっと好きだった人達が、「そこ」にいる。今、私と同じ場所に、同じ時間を共有して、そこで生きている。

あれから4年弱経った今でも鮮明に覚えていることがある。
可動式ステージに横並んだ浦島坂田船、流れ出す曲は「合戦」だった。

明るい曲調と、軽やかな振り付け、彼に応えるように揺れるペンライトの波。4人から目が離せずにいた。4人が横並びで踊る度に、光が舞うようで。
振り付けのひとつに、4人が揃ってターンをするところがある。

(あ、)

私の目と記憶が正しければ、そのターンは綺麗に揃ってはいなかったのだ。
ワンテンポ遅れて回ったり、速度がバラバラで、ピッタリとは言い難い。

それを見て、身体の芯に電流が走った。

そこで踊る彼らは、編集で完成された動画でも、丁寧に作られたMMDでもない。

「人」がそこで歌い、踊り、笑う。人間なんだ。今まで画面越しでしか知らなかった。彼らは今を生きる人間だという当たり前の事実を目の当たりにして、私はわんわん泣いた。


それから私は、「人」である彼らに会いに行くことに夢中になった。
同じように夢中になっている友達ができた。地元から遠く離れて、初めて夜行バスにも乗った。ペンラシートを作った。グッズを買った。毎月毎月あるライブを楽しみに、バイトも課題も頑張った。

2019年はあっという間に年末を迎えて、気付けば誰も彼もが来年の春の話をし始めていた。

大学2年生になったら、もっと色々なライブに行こう。遠征にも行こう。オシャレなホテルに泊まって、観光もしよう。春ツアーにも夏ツアーにも行って、ワンマンにもツーマンにも行こう。全部全部、ぜーんぶ、楽しみで、ちょっと先の未来は希望ばっかりで、ドキドキが止まらない。除夜の鐘と共に年が明ける。2020年。ああきっと、素敵な年になるんだろうな。寒い冬を超えた先には、いつだってあたたかい春がくる。


だって、仕方ないじゃないか。そうやってずっと生きてきたのに。そうやって生きていくと思っていたのに。



その知らせを見た時私はバイト中だった。こっそり開いたスマホの画面。堅苦しい文面。「どうして」という感情と、「やっぱり」という諦め。息苦しいマスクの下で、奥歯をかみ締めた。

長い長い、冬が始まる。



星さえも消えかけた 宵闇の中でも


その長い冬が寂しく辛くなかったと言えば嘘になるのだが、それでも人間は順応性の高い生き物らしく、いつしか会えないが日常になっていた。
狭い部屋の中で、行きどころのない感情を掬ってくれたのは、彼らの歌や、声や、姿。それから、同じように会いたいと泣いていた友人の存在だった。

くだらない話をしながら、脳死でゲームをしながら、寂しいと泣きながら、何度も一緒に夜を超えた。

浦島坂田船が繋いだ、「縁」がそこにはあった。




ずっと忘れられない光景がある。
忘れたくない光景がある。
それは季節の度に増えていく。
私たちはそうして、歳を重ねていく。



逢いたい なら逢うのが大正解

2023年、春。
大学の課程を全て終えた私は、学生と社会人の狭間にいた。

思い返せばこの4年間、本当に色々なことがあった。
初めて会いに行ったあの日。
初めて遠征したあの日。
会えない夜に泣いたあの日。
会えた嬉しさに泣いたあの日。
大嵐の中希望を捨てなかったあの日。
友だちと抱き合って泣いたあの日。

あの春、あの夏、あの秋、あの冬。

4年間、大学生らしいことはあまりしていなかった気がする。
飲み会に行くよりも配信を聞いていたかった。
サークル合宿に行くよりも遠征をしていたかった。

私の生活のそばにはずっと、浦島坂田船がいた。

そして、3月19日。
大学生活最後の、短い春が始まる。



日々はただ美しい


絢爛な和から始まる春は、まで私の思い出を辿り彩るようだった。
タイトル曲の絶景から始まり、徐々に時を遡るようなセトリ。イントロが流れ出した瞬間に、あの年、あの時のライブの光景がフラッシュバックする。ああ、全部、楽しかったのだ。

音楽は、その時の景色も、匂いも、感情も、全部を思い出させる。

誰も何もいつも、取りこぼさないライブだった。
全部が、掬われていく。

そんな感覚に包まれて、私は4本のペンライトを持ったまま、涙を流していた。

彩は、私の卒業式のようにも思えた。



ずっとずっと 消えない────


私の青春は、浦島坂田船と共にあった。

特別なこともない、ごく普通の大学生活。
浦島坂田船と、彼らがもたらしてくれた、人や場所や感情で構成された4年間。
そのありふれた日々の全部が愛おしい。

今年、10周年を迎える浦島坂田船。
春が終わって、あっという間にたまアリの日を迎えて、夏が来て、季節が巡る。
これから先、彼らが、私たちがどうなるかなんて誰にも分からない。
4月になって、私は社会人になった。
何も変わらないようで、ちょっとだけ変わった日常。

何事にもいつか、終わりがくる。
けれど、過ごした日々は決して消えない。
空に溶けて消える虹が、誰かの心に残り続けるように。


それにほら、まだまだ、終わりじゃない。
そう歌ってくれた事実が、私の背中を押す。


春が終わる。季節が巡る。
ちょっとの不安を捨てきれないまま、私たちは走り出していく。

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