見出し画像

テリア


人々しばしば云う、飼い犬とその主は似たると。我が家には猫あり、その真偽は存じ上げぬが、猫の如く腹を出して転がることもなく、日の大半を寝て過ごすこともなし。しかしながら、室内に長く居ることは猫と同じく、忘れたかの如くのそのそと立つことも。そは猫のように思われ候。

この街に住みし歳月ながく、犬と主の顔を覚えたり。白髪の女性が真白なプードルを連れ、白き細身のダウンジャケットに白きスリムパンツを纏う姿は、まさに犬と同じ色彩にて、家に帰りし後、その様子を急ぎて絵に描き留めしことあり。
また、デニムのオーバーオールを着た男性が、ゴールデンリトリバーを連れてカフェのテラスで過ごす様、その外見は似ずとも、雰囲気のまとまりあり。田園を模したがる気配けむ。

以前、灰色のテリアのいる家ありし。その家の女性が散歩させ、週末はその夫が犬を連れ出でし。この犬、通りに面した窓にて常に人の来るのを待ち、誰か通り過ぎるごとにくるくると回り、声を上げるが、近所の人気者となり、保育園の児童らが「ワンちゃんのおうち」と称して遊びに来るほど。犬の後ろ足は不自由なれど、いつも元気に満ちていた。

然るに数年前、その家は取り壊され、隣の土地と一緒にマンションが建ち、一階には人気の店が入り、のんびりとした昔の住宅の面影は消えたり。

そして、かのテリアの行方は如何に?

ある日、その新たなるマンションより、テリアと男性が出でるのを見たり。彼らはここに住んでおるのだ!

それから、灰色のテリアとその主は、日々近所を散歩するようになり、男性は退職したれば、昼も夜も散歩の暇あり。犬は散歩の際、後ろ足に靴を履かされ、以前と変わらぬ元気さで歩いており、見る人々はほっとするのみ。

男性の髪も白くなり、年月と共に犬と似たりゆく姿、なんともいえぬ感慨深いものあり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?