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東京地裁、骨粗鬆症治療剤「エディロール®カプセル」の後発医薬品の差止請求を棄却

 中外製薬が保有する用途特許の侵害を理由とする、「エディロール®カプセル」の後発医薬品の生産、輸入及び譲渡等の差止、並びに、廃棄の請求に対し、東京地裁は、特許が無効であり、請求を棄却するとの判決を下しました。(知財高判令和4年5月27日、令和2年(ワ)第13326号、第13331号)。https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/266/091266_hanrei.pdf

 「エディロール®カプセル」は、中外製薬が製造販売する、エルデカルシトールを有効成分とする骨粗鬆症治療剤です。

経 緯:
*  中外製薬は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物。」をクレームする本件用途特許(特許5969161号)を取得しました(2016年7月15日)。
*   沢井製薬及び日医工が、本件用途特許に対し、無効審判を請求しました(2019年12月23日)。
*   沢井製薬及び日医工が、「エディロール®カプセル」の後発医薬品の製造販売承認を取得し(2020年2月17日)、発売しました(2020年8月3日)。
*   中外製薬は、沢井製薬及び日医工に対し、本件用途特許侵害訴訟を提起しました(2020年5月29日、本件事件)
*   本件用途特許に対し、「特許を無効とする」との審決の予告が出され(2020年9月24日)、中外製薬は訂正請求を行いました。
*   本件用途特許は無効であるとの審決が出され(2021年4月15日)、現在、審決取り消し訴訟が係属中です(令和3年(行ケ)10066)。

本件判決:
 本件発明1、2、4は、新規性が欠如し、本件訂正によっても無効理由は解消されないと判断し、中外製薬の請求を棄却しました。
 被告製品の構成要件充足性と、本件特許の有効性に関し、多数の争点がありましたが、新規性欠如及び本件訂正によって本件発明4の無効理由が解消されるかについてのみ、判断されました。

1.乙1発明に基づき新規性を欠如するか
1)本件発明1
 本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題になりました。
 裁判所は、明細書の説明より、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな骨折が発生しないようにすることを意味していると判断しました。
 また、本件優先日当時の技術常識を考慮し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれると判断しました。
 以上より、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致し、本件発明1は、新規性が欠如していると判断しました。
 
2)本件発明2
 本件発明2は、本件発明1について投与される対象を原発性骨粗鬆症患者に限定したものです。
 本件明細書には、投与対象として乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって新たな効果が生ずることの記載はないことを指摘したうえで、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であり、新規性が欠如していると判断しました。
 
3)本件発明4
 本件発明4は、本件発明1~3について、これを0.75μg/日の用量で経口投与される組成物に限定したものです。
 乙1文献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いるに当たって、0.75μg/日の用量で経口投与される構成が記載されているので、同様に、新規性が欠如していると判断しました。
 
2.本件訂正4及び5によって本件発明4に係る無効理由が解消されるか
 訂正後の本件訂正発明4は、本件発明1について、①投与される対象をI 型骨粗鬆症患者に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものです。
 訂正後の本件訂正発明5は、本件発明1について、①「投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に限定し、②投与方法を0.75μg/日の用量で経口投与されるものに限定するものです。
 まず、本件発明1のうち、少なくとも骨粗鬆症患者を対象とし、橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1発明と同一であることを指摘しました。
 Ⅰ型骨粗鬆症は、骨粗鬆症の一種であること、明細書には、乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者からI型骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切ないことを指摘したうえで、Ⅰ型骨粗鬆症患者への限定が、乙1発明との相違点になるとは言えないと判断しました。
 また、骨粗鬆症患者については、他の部位と並んで、前腕部の骨折について抑制が必要とされており、原発性骨粗鬆症患者についても同様であること、明細書には、乙1発明が対象とする骨粗鬆症患者から原発性骨粗鬆症患者を区別することによって生ずる効果等についての記載は一切ないことを指摘したうえで、原発製骨粗鬆症患者への限定は、乙1発明との相違点になるとは言えないと判断しました。
 そして、0.75μg/日の用量で経口投与される点は、上記のとおり、乙1文献に記載されています。
以上より、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成については、乙1文献に記載された発明と同一であるというべきであり、新規性が欠如していると判断しました。

コメント:
 東京地裁は、少なくとも橈骨の骨折予防を用途とする構成について、公知発明と一致すると、本件発明の新規性を否定しました。
 係属中の審決取消訴訟において、知財高裁がどのような判断を示すのか、判決が待たれます。
 
(文責:矢野 恵美子)
 


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