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エッセイ『最近のお笑いはつまらない』

 以前、職場のある四条烏丸の近くにコンセプチュアルな書店ができたときに「なんか、えらいオシャレな、っていうか、めっちゃ蔦屋書店みたいな本屋やねんけど、しょうじき品揃えとか、あんまりピンとこなかったな」と感想を述べた際、後輩が「違いますよ、それは、涌井さんがその書店の狙いからズレてるだけですよ」と言われたのを覚えています。これは「根に持ってる」のではなく、本当に「そういう視点は大事だな」と感心したからです。

 身の回りにはこのときの私のような筋違いの文句、憤りが溢れております。
 例えば「最近のお笑いはつまらない」というのをよく聞きますが、これは最近のお笑いがあなたの方を向いていないからである可能性もあります。最近のお笑いがつまらないのではなく、最近のお笑いがわからなくて置いていかれてる気がするから一段上にいる風で「つまらない」とだけ言って批評しているフリでぎりぎり溜飲を下げているだけなのかもしれません。

 「YOASOBIの何がいいかわからない」
 「『怪物』観たけどみんなあの程度ですごいとか言ってるんだね」
 「上方落語なんて俺は認めないからね」

 類型は探せば枚挙にいとまがありません。全部がそうではないと思いますが、割と多くの場合、私が四条烏丸にできたコンセプチュアルな書店に相手にされていないのと同じなんではないかしら。

 私は、といえば、その書店の件を意識させられて以来、何をするにもこのことを考えるようになり、無駄に文句を垂れなくなったし、お門違いな憤りを発散することもなくなったような気もするし、何より、件の「あまりピンとこなかった」四条烏丸の書店に改めて行ってみたところ、意外と面白いところもあるのだということがわかり、普通によく利用するようになりました。
 知らずうち、一段上に立ってしまっているから見えにくくなっている真実ってけっこうあるんじゃないかと思う。

蠱惑暇(こわくいとま)

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