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エッセイ『小さな自分』

 仕事で週に一回、大阪へ、月に二回ほど東京へ行く生活を続けてはや一年。大阪へ行くことが特別なことではなくなったおかげでフットワークが軽くなった気がします。一つの場所に留まっているよりも、当然のことながら世界は広くなります。世界が広くなれば視野も広くなります。頭の中でごちゃっとしていたことが、移動するだけでふっと整うこともあります。思えばサウナで「整う」というのも、あの熱い熱い別世界へ足を踏み入れるからではないかしら。

 しかしながら、一つの場所にどっしり拠点を構えるということが無くなったため、落ち着きがなくなり、その場所に居場所のある人たちに対して劣等感を抱くようにもなりました。少し前と比べて後ろ向きになったことを自覚しています。決して皆、のほほんと惰性で仕事をこなしているわけではないでしょうし、むしろ、私なんかより、大変な仕事をされているはずなのですが、その仕事の仕方について第三者的に眺めてみますと沸々と「もうちょっとちゃんとせんかい」という気持ちが沸いてきます。嫉妬心なのでしょう。かつて一緒に仕事をしていた人がその人たちと一緒に仕事をして、いきいきとしているのを見るのは悲しいものです。そうした悲しい気持ちは、京都から大阪へ向かう程度の旅によって雲散霧消しますが、何度も顕れ、己の小ささをまざまざと見せつけてくるのです。

 しかし私は、この小ささが嫌いではありません。というか、嫌いになってしまうとやってられないから無理やりに肯定しているのです。この小ささが消えてしまうなら、それは歓迎すべきことではありますが、どうせ悩まされ続けるんだから、それなら肯定してしまうほうが楽です。ただ、問題点があり、己が肯定したところで決して他人様はこの性質を喜びはしないことです。嫌われるのは困る。故に今の私にとって大阪や東京への定期的な移動は、人間関係を円滑にするための命綱ともいえるのです。

蠱惑暇(こわくいとま)

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