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エッセイ『新宿の宿にて』

 新宿の宿に泊まり、小説を書くなど、何を文豪気取ってるんだかね。いや、文豪はもっとあれか、軽井沢とか熱海とかに行くのか。
 気分さえ変わるなら、別にどこだっていいんだろうと思う。しかし夜はダメだ。夜の新宿には誘惑しかない。アルコールが入ってしまったら最後、僕には創作活動ができなくなる。
 ウイスキー呑みながら書いたりする人もいるらしいけど僕には無理。本を読むのも難しくなるのに書くなんて、せいぜいエッキス(旧ツイッター)に何かしらポストすることくらいしか。それもまた、呑んでしまったら、なんだかよくないことを書いてしまうじゃないか。僕なんて別になんの影響力もない人間だから何を書こうが誰に何も言われないんだけど、それはそれで淋しいじゃないか。まあ、現在地を確認するにはいいのかもしれない。

 喧騒の街のイメージのある新宿だけど、朝は全然うるさくない。街でさえ、こうやって朝の顔と夜の顔が違うんだから、人間だっていろんな顔があってしかるべきで、別に「思ってたんと違った」なんてことでショックを受けられたところで、それはあなたが勝手に描いたイメージでしかないでしょうって開き直ってしまえたら好感度で売ってる芸人が不祥事起こしたときもどれだけ楽だろうと思うけど、そんなものは他人事でしかなく、自分はジャングルポケットの斉藤さんのことを気遣っている暇など無いはずなのに考えてしまう。そういう余計な時間も含めて全部が僕に充てられた時間であり、それをどうやって使おうが僕の自由であるべきだ。

 月に二回ほど東京へ来るようになって、早いものでもうすぐ一年になる。最初のうちは新幹線の発車一時間前に到着してもそわそわしていたものだけど、旅のあらゆる所作が当たり前になってしまった。もうこれは「ハレ」ではないけど、これが「ケ」になったおかげで新しい「ハレ」に向かうことができるのだ。それを見つけるのが今は楽しい。

蠱惑暇(こわくいとま)

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