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【感想】モネ 連作の情景展

かなり終幕ギリギリになりましたが、「モネ 連作の情景」展に行ってきました。

メインテーマはタイトルにもあるとおり、「連作」です。
展覧会の案内ページを見てみると、

同じ場所やテーマに注目し、異なる天候、異なる時間、異なる季節を通して一瞬の表情や風の動き、時の移り変わりをカンヴァスに写しとった「連作」は、モネの画業から切り離して語ることはできません。移ろいゆく景色と、その全ての表情を描き留めようとしたモネの時と光に対する探究心が感じられる「連作」は、巨匠モネの画家としての芸術的精神を色濃く映し出していると言えるのかもしれません。

https://nakka-art.jp/exhibition-post/monet-2023/

とあるように、連作とはモネらしさが凝縮された作品群と言えそうです。


本展は5部構成になっており、
印象派以前の作品→印象派へ転向後の作品→同モチーフの作品群→連作→睡蓮&晩年の作品
と進んでいきます。

以下では、心に残った作品を中心に感想を綴っていきます。
(私は美術に関してはど素人なので、解説ではなく個人的な感想メインになることをご了承ください。)

※作品はwikiでパブリックドメイン表記があるもの以外、リンクを貼っています。



第1章:印象派以前のモネ


1860年代〜1870年代までの初期作品が並びます。おそらく目玉は、『昼食』という1870年のサロン(官展)で落選した、初来日の大作だろうと思います。

『昼食』
出典 https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Monet,_Claude_-_Luncheon,_the_(1868).jpg#mw-jump-to-license


私の中に、こんなにはっきりと人物を描いたモネ作品は印象になかったので、目を引きました。サイズも大きく、231.5cm×151.5cmあります。

描かれているのはモネの自宅の食卓につく、妻と息子、そして客人とメイドです。

モネはこの作品でサロンに落選したことを皮切りに風景画へ移ったと解説にありました。この一見残念な出来事がなければ、私の好きな印象派の数々の名作が生まれていなかったのかもしれません。そう思うと、その当時のモネには悪いですが、落選してくれてありがとうとさえ思ってしまいます。

画力の高さはさすがで、息子の愛らしい表情が、モネの親としての目線を感じさせてくれて、なんとも心を打つ作品でした。
これを第1章の最後の作品として展示する完璧さがなんともニクい!(めっちゃ褒めてます)

そのほか印象的だったのは、黒いドレスに身を包んだ婦人の絵『グルテ・ファン・ド・シュタート嬢の肖像』(1871)です。

というのも、私にとって馴染みのあるモネの絵画は、様々な色の絵の具を重ねた風景画だからです。この絵のように、人物をはっきりと描き込み、かつ黒一色のドレスの陰影を巧みに描いている絵は、私にとってとても新鮮でした。
(気になる方は以下のリンクでご覧ください)


第2章:印象派の画家、モネ

ここからは「モネといえば」な、おなじみの風景画が並びます。

印象的だったものの一つが、アトリエ舟の絵画。この舟のおかげで、モネは陸地からだけでなく、水上からの景色も描くことができたそうです。

『モネのアトリエ舟』
出典 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Claude_Monet_The_Studio_Boat.jpg


産経新聞の記事にて、アトリエ舟についての学芸員さんの言葉が紹介されていました。

「舟は揺れるので、決して快適ではなかった。周囲からは『船酔いをするので描けないのでは』という声もあったほど。けれど、舟は自分の好ましい視点へ迫ることができる。また、悪天候でも中断せずに描き続けることができるという利点もありました。アトリエ舟を駆使して対象に迫る。舟から見える景色こそが、モネにとって大切なものだったのです」(斎藤学芸員)

「一歩前へ アトリエ舟から波間から モネの対象に迫る力 」https://www.sankei.com/article/20231111-FRJE72VE4VPYNHEAPOYEDMCMSI/

良いとは言えない舟上の環境にも負けない、モネの創作意欲の高さと熱意を感じられますね。展示作品を見ているとさらにそれが納得いくのです…

ところで、私はモネの水面の表現が好きなんですが、今回の展示では、風景画の中に描かれる人物にも目が行きました。
というのも、人物の顔のパーツがしっかりと描き込まれているわけではないし、輪郭を縁取って描かれているわけでもないので、肌と服との境目だってあやふやなのに、パッと見て人だと分かるんです。しかも、ドレスをまとっている婦人なんだなとか、手足を出した子どもなんだなと分かってしまう…。それがなんとも面白かったです。



人物に限ったことではありませんが、対象物を表すのに本当に必要な色だけが抽出されて、描かれているように見えました。

第3章:テーマへの集中

さて、中盤になってくると、いよいよこの展覧会のテーマである「連作」へと至る道筋に乗せられていきます。

同じ場所の景色を描いていた作品が並んでいるのですが、作品1点ごとにまったく印象が違うのが、見ていてとにかく感心させられます。

たとえば、同じ岩を描いた作品が並べてあって、両者の制作年には数年の開きがありました。
描いているのは同じ岩なのに、岩の形も全体の色合いも、よく見ると筆使いも違って見えるのです。それが天候や時刻の違いによるものなのか、モネの描き方の違いによるのか、素人の私には分かりませんでしたが、同モチーフの絵画を見比べるたのしみを知ることができたのは、本展での大きな収穫でした。


そう感心させられたところで、「連作」の展示に入っていきます。

第4章:連作の画家、モネ

まずは積み藁の絵が4枚。本展の図録によれば、

モネが体系的に「連作」の手法を実現したのは〈積みわら〉が最初だと考えられている。(中略)当初は積みわらの光景をありのままに描いたが、1890年前後には集中してこのテーマに取り組むようになる。モネの眼に映る情景は刻々と異なる表情を見せる。それぞれの瞬間を永遠に画面に留めようと、一度に複数のカンヴァスを用意して、陽光を受けて変化する積みわらの描写を同時進行で進めたのである。

『モネ 連作の情景』大阪中之島美術館ほか、2024年、105頁

とあります。確かに、初期の頃の積み藁は背景の木々や山の様子がしっかりと描き込まれていますが、本格的に「連作」として描かれた作品は、背景の木々がぼんやりとして、より「光だけを抽出した」ように見えました。

『ジヴェルニーの積みわら、夕日』
出典 https://www.wikiart.org/en/claude-monet/haystacks-at-giverny-the-evening-sun


このほかにもロンドンのウォータールー橋の絵が3枚ありました。同じものを描いていることは分かるけれど、やはりそれぞれ全く印象が異なるのです。
どんな季節に、どんな天候のときに描かれたのだろうか…?そんな想像が掻き立てられます。


ところで、モネの絵画を見ていると、自然の美しさを私に感じさせてくれるなぁとつくづく思います。彼の作品は、「キレイな風景画を描いたぜ(&こんな絵が描けてしまうボクの画力すごいでしょ?)」というより、「自然があまりに美しいので絵に残したんだよね」と言っているように、私には思えるのです。

だから、モネが同じモチーフの絵を時刻や天候を変えて何枚も描いたのは、どんなときであれ自然が見せる色がすべて美しいから、この(景)色もあの(景)色も描きたい!という衝動に駆られた結果なのかなぁ?なんて、想像しながら作品を見ていました
(実は展覧会訪問後に展覧会の案内ページや図録を読んだのですが、私のこの想像と似たようなことが書かれていて、見る者に同じ感想を抱かせるモネのすごさを改めて感じました。)

自然の美しい色を抽出して絵画に描ける技術力はもちろんのこと、彼の観察力・感受性の高さについつい感嘆のため息が漏れます。

余談:印象派の絵画の個人的な楽しみ方

今回はGW狭間の平日に訪問したためか、そこそこ人はいたけれど、意外と空いていた(東京の美術館比)ので、当初思っていた以上にじっくり鑑賞できました。

私が印象派の絵画を鑑賞するときには、近くで見る→離れて見てみるという見方をするのですが、これをほぼ全作品に対して出来たのも良かったです。
離れてみるとこれまた印象が変わるんですよね。むしろ離れてみた方が絵画上で重ねられた様々な色が溶け合って、何が描かれているのかくっきり見えてくる気さえします。
(まさにモネの印象派の絵画における筆触分割とは、パレット上ではなく、絵画を見る人の目・頭の中で色が混ざり合うことを狙って描いていく技法のようなので、これは当然の感想なのかもしれません!)

『ウォータールー橋、ロンドン、日没』(1904年)を例に見てみましょう。
※この作品は撮影可だったので、スマホで撮ったものになります。

まずは額縁いっぱいサイズで撮った場合
美術館では作品に近寄って細部まで見ることができます。絵の具の塗り重なっている様子や、筆の跡などがよく分かります。
後ろへ引いて見た場合。橋がくっきり浮かんで見えますし、なんだか画面全体が明るく見える気もします。
(これだけの距離があるのに、人の写り込みがない写真が撮れる空き具合はありがたい!)


近くで筆遣いなどを見てみるのも、離れて全体を眺めるのも、どちらも楽しめて2度美味しいなと思います。

第5章:「睡蓮」とジヴェルニーの庭

最後のコーナーは、モネが自宅の庭園で描いた睡蓮や花々の絵画が並んでいました。
睡蓮シリーズは以前の展覧会で好きだなぁと感じていたのですが、その原点のような「睡蓮そのもの」を描いた作品があったと知り、ちょっと感慨深かったです。

図録の表紙になっていました


でもやはり、以前の記事で書いたとおり、視力低下に悩まされた晩年は、少し荒々しさを感じさせる筆遣いの絵になっていました。それもまた当時の彼の心中が思いやられて、胸を打つのでありますが、やっぱり切なく、ものがなしくなります。

そして一点だけ残念だったのは、その晩年のコーナーがほとんどカメラ撮影可になっていて、「撮影>鑑賞」になっているお客さんが多かったように感じたこと。静かに感慨に浸りたかったのですが、スタンプラリーのようにカメラだけ向けて去っていく人、カシャカシャ響くカメラ音が多数に感じられました…。

鑑賞のしかたは人それぞれなので私が口出しすることではないのですが、せっかく生の作品を楽しめる場であるのに、撮影に比重が置かれてしまうのはもったいないと思います。


おまけ

モネが自宅の庭園にあった花々の絵や睡蓮の絵を見て、高知県の北川村にある「モネの庭」が思い出されました。

そのお庭は、本家・モネの庭であるジヴェルニーのお庭をモデルにしており、クロード・モネ財団の指導を仰いで作られたお庭だけあって、訪問した際は、「モネの描いた絵そのままのお庭が日本にあるなんて…!」と強く感動したのを覚えています。

私が訪れたのは、よく晴れた秋の朝でしたが、今回の展覧会を見てからは、別の季節や時間だったらこのお庭はどんな表情を見せてくれるのだろう?と思えてきて、また訪問したい気持ちが高まりました!

11月だというのに花々が咲き乱れて美しい、お花のアーチ。お花それぞれの色が混ざり合って調和しています。
色とりどりのお花たち。近づいて撮影してみました。
睡蓮が咲く池には空が映り込んでいっそう美しいです。
秋を感じさせる木々と睡蓮の池。


◆北川村 モネの庭マルモッタン

◇地図

◇開館時間
9:00~17:00(最終入園16:30)

◇休園日
6月~10月の第1水曜日
12月1日~2月末日

◇入園料
一般 1,000円
小中学生 500円
小学生未満 無料
団体(10名以上) 一般:900円/小中学生:450円

◇HP



◆参考にしたもの

『モネ──連作の情景』大阪中の島美術館ほか、産経新聞社、2023年
モネ 連作の情景 | 大阪中之島美術館 (nakka-art.jp)
【美術解説】印象派「空間と光の変化を描いた19世紀の前衛芸術運動」 - Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典・データベース

https://sammlung.staedelmuseum.de/en/work/the-luncheon

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