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「アート」や「文化」をテーマに起業する

2023年12月23日から28日まで、大阪市内で「Study:大阪関西国際芸術祭 vol.3」というアートイベントが行われていました。

市内の複数の会場でアート作品の展示・販売やトークイベントなどが行われ、アートと社会の関係やアートの持つ価値についてさまざまな情報が発信されるイベントでした。

大阪・関西万博が行われる2025年に世界最大級のアートフェスティバルの開催が予定されており、その実現の可能性を探るためのプレイベントという側面もあるそうです。

そんな大阪関西国際芸術祭の中に、興味深いイベントがありました。アートやクリエイティブ分野のビジネスに特化したスタートアップのピッチイベント「StARTs UPs」です。

これは、アート、デザイン、音楽、ファッション、ゲーム、広告、観光、まちづくり、建築、漫画、アニメ、エンターテインメント、食など、いわゆる「クリエイティブ・エコノミー」の分野で起業したスタートアップによるビジネスコンテストです。

このコンテストが開かれた背景について、ホームページには下記のように書かれています。

国内の文化芸術余暇産業は、近年の国民の価値観の多様化や余暇活動の重要性の認識の変化に合わせて注目を浴びています。しかし、その発展にはまだ課題が存在しています。

まず、文化芸術の普及と教育の不足が大きな問題です。豊かな文化や伝統があるにもかかわらず、それが適切に伝えられず、若い世代への継承が途絶えることがあります。

加えて、支援体制や環境整備が不十分であり、芸術家やクリエイターが活動しにくい状況もあります。一方で、文化芸術余暇産業は国力増強のために不可欠です。国際的な交流や理解を促進し、国際的な競争力を高める要素となるだけでなく、観光産業の一環として地域振興や経済の活性化にも貢献します。また、クリエイティブ産業の一環として新たなビジネスチャンスを生み出す可能性もあります。横断的に社会課題を解決しうる、クリエイティブ・エコノミーを発展させるために、本ビジネスコンテストを開催するに至りました。クリエイティブ・エコノミーにおける新たなビジネスアプローチを模索し、国内の文化芸術の魅力を最大限に活かし、持続的な発展を実現するため、本ビジネスコンテストを開催いたします。

公式ホームページより

このような趣旨のもと、コンテストには6社のスタートアップが登場し、熱いピッチを繰り広げていました。

その中から個人的に印象に残った4社を、それぞれの原体験も交えて紹介します。

舞台芸術の資金集めをデジタルで支援

conSept合同会社
この会社は、演劇やミュージカルなどの舞台芸術作品を作る際の資金を、ブロックチェーンを活用して集めやすくする仕組みを提供しています。

ニューヨークやロンドンなど舞台芸術が盛んな場所では、出資者を集めて作品を作る仕組みが整っていますが、日本ではそのような文化が育っておらず、劇団が自分たちで苦労して資金を集めるケースが少なくありません。

小規模の劇団ほど資金の確保が難しく、舞台芸術が発展する上でも大きなハードルとなっていました。そこでconSeptは、観客をはじめとする支援者がNFTを購入することで、その作品に出資できる仕組みを構築。これまで自己資金や行政の補助金が中心だった制作資金に、あらたな選択肢を生み出したのです。

この会社を立ち上げた宋元燮さんは韓国出身で、もともとは韓国の広告業界に勤めていましたが、日本の映画を学びたいと来日。エンタメ業界で映画、演劇、オペラ、テレビドラマなど幅広い作品の制作に関わった後、自身で作品を企画・制作するために起業します。

数々の作品をプロデュースする中で感じたのが、資金集めの難しさでした。これを解決する仕組みを作れば、自社だけでなく業界全体にもプラスになる。折しも、新型コロナによってエンタメ業界全体が打撃を受けていたこともあり、このブロックチェーンを活用した資金調達の仕組み作りに本腰を入れたのでした。

立体映像でディスプレーに革命を起こす

株式会社ブライトヴォックス
続いては、円柱形のディスプレーの中に完全な立体映像を映し出す技術を開発したスタートアップです。

世の中には映画やドラマなどの映像作品、ゲーム、デジタルサイネージなど、多くのデジタルコンテンツがあふれていますが、ほとんどすべて平面のディスプレーで見ていますよね。

それを、完全に立体の状態で映し出すのがブライトヴォックスのディスプレーです。創業者の灰谷公良さんは、もともと大手画像機器メーカーの方。社内の新規事業開発プログラムを利用して製品の開発と起業に挑んだのでした。

灰谷さんは昔からSF映画が好きでした。映画に出てくる立体のホログラム映像と人が会話するようなシーンを見て、「これを現実世界で再現できたら面白い」と思ったのが原点だそうです。

この立体ディスプレーは、デジタルアートの立体展示や文化財のアーカイブ、立体アバターのゲームなど、これまでのエンターテイメントを大きく変える可能性を秘めています。SF映画の世界が現実になる日が楽しみですね。

失われゆく名建築を共同所有で守る

株式会社KESSAKU
続いてのスタートアップは、歴史的・文化的に価値がある建築物を「共同所有」という形で保存する仕組みを提供しています。

かつて有名な建築家によって建てられた名建築も、老朽化によって取り壊しの危機にあるものが少なくありません。その背景には、所有を継承する人が不足し、維持管理ができなくなってしまうという問題があります。

そこで同社は、その建物の所有権の一部を購入できるプラットフォームを作り、集めた資金を元に建物の価値を維持し続けられるようにしました。購入した所有権は売買することも可能です。

金融のデジタル技術が進歩した今、さまざまな資産を共同所有できるようになっています。それを文化的価値のある名建築に応用することで歴史遺産を守る、という発想は秀逸ですね。

つらいリハビリを楽しいゲームに変える

株式会社デジリハ
最後は障がいを持つ人たちのリハビリを、楽しく続けられるゲームの形で提供しているスタートアップです。

リハビリというと、けがをした人や体の機能が衰えた高齢者の回復を促す訓練を想像すると思いますが、それ以外にも重度の障がいを持つ子どもなどが、基本的な運動や認知の訓練を行うためのリハビリもあります。

そのようなリハビリは単調で時に痛みを伴うものが多く、子どもたちのモチベーションも続かないという課題がありました。また、作業療法士などの専門スタッフの勘や経験に頼る部分が多く、家で同じリハビリができないことも悩みの種でした。

そこでデジリハは、デジタル技術を駆使し、ゲーム感覚で楽しく取り組めるリハビリを開発。手足の動きを感知するセンサーと映像を連動させ、遊びながら体を動かしたり認知機能を高めたりすることができます。

これなら、リハビリが「やらされる」ものではなく、自ら「やりたい」と思うものになり、ストレスなく継続させることができます。

この会社を立ち上げた岡勇樹さんは、学生時代に母の病気や祖父の認知症を経験。その際に「何もできなかった」という後悔から医療・福祉の道へ進みます。

そして医療とアート・音楽を融合させたイベントを主催したり、障がい者の社会参加を支援する活動を展開したり、新たな視点で医療福祉分野の課題解決に挑んできました。

同社のホームページによると、世界でリハビリを必要としている人は約24億人。デジリハの普及によってこれらの人々の生活か改善し、より幸福な人生が送れるようになる日が楽しみです。

尚、デジリハはこのビジネスコンテストで見事、審査員賞に輝きました!

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