感染症関連知見情報:2024.04.08

皆様

本日のCOVID-19をはじめとした感染症情報を共有します。

本日の論文は、JAMA系列より3編です。

1編目は、PCC( Post-COVID Condition患者における運動後の労作後症状を対照群と比較評価し、 PCCの基礎にある生理学的機序を総合的に検討した研究です。入院していないPCC患者は、一般的に心血管系機能を維持したまま運動に耐えましたが、対照群に比べ有酸素運動能力が低く、筋力も低い状態でした。
2編目は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syntical Virus)で入院した成人の重症度を記載し、ワクチン接種の有無別にCOVID-19およびインフルエンザ疾患の重症度と比較することを目的とした研究です。この米国コホートにおいて、RSVワクチンの初回推奨前の16ヵ月間に入院した成人において、RSV疾患は、ワクチン未接種患者におけるCOVID-19またはインフルエンザ疾患と比較して、頻度は低かったが重症度は同程度であり、IMVまたは死亡という最も重篤な転帰については、ワクチン接種患者におけるCOVID-19またはインフルエンザ疾患よりも重症でした。
3編目は、全体的な医薬品不足と COVID-19 パンデミックに関連したサプライチェーン問題報告の割合を推定することを目的とした研究です。この全国横断研究では、COVID-19パンデミックの初期に薬剤不足に関連するサプライチェーンの問題が増加しました。

報道に関しては、久々に目を惹く報道が並んでいます。「持続的感染、後遺症要因か 「ミニ腸」で新型コロナ実験―感染研など」、「花粉症と感染症=下桐実雅子 - 毎日新聞」、「国立感染症研究所、アジアで情報共有…次のパンデミックに備えインド・ベトナムなどと」、「英、長期疾病で離職280万人 コロナや働き方変化影響か:日本経済新聞」などの必読記事が並びました。特に、持続感染に関する知見は参考になります。

高橋謙造

1)論文関連     
JAMA
Functional Limitations and Exercise Intolerance in Patients With Post-COVID Condition A Randomized Crossover Clinical Trial

*PCC( Post-COVID Condition患者における運動後の労作後症状を対照群と比較評価し、 PCCの基礎にある生理学的機序を総合的に検討した研究です。
このランダム化クロスオーバー臨床試験では、合併疾患がなく、SARS-CoV-2感染後に労作後倦怠感を含む症状が持続する(3ヵ月以上)非入院患者を、2022年9月から2023年7月までスウェーデンで募集し、年齢と性別が一致した対照参加者も募集しました。
介入としては、包括的な生理学的特性評価の後、参加者は3つの運動試験(高強度インターバルトレーニング[HIIT: high-intensity interval training]、中強度継続トレーニング[MICT: moderate-intensity continuous training]、筋力トレーニング[ST: strength training ])を無作為化順序で完了しました。症状は、ベースライン時、運動直後、運動48時間後に報告されました。
主要アウトカムは、ベースラインから運動後48時間までの疲労症状の変化における群間差とし、視覚的アナログスケール(VAS: visual analog scale)を用いて評価しました。質問票、心肺運動負荷試験、炎症マーカー、生理学的特徴づけにより、PCC患者の生理学的機能に関する情報を得ました。
PCC患者31人(平均[SD]年齢46.6[10.0]歳、女性24人[77%])と健常対照者31人(平均[SD]年齢47.3[8.9]歳、女性23人[74%])が含まれました。PCC患者はすべての時点で対照群よりも多くの症状を訴えました。しかし、異なる運動に対する疲労の悪化については、群間に差はありませんでした(HIITのVASランクの平均[SD]:PCC、29.3[19.5];対照群、28.7[11.4];P = 0.08;MICT: PCC:31.2[17.0];対照群:24.6[11.7];P = 0.09;ST:PCC:31.0[19.7];対照群:28.1[12.2];P = 0.49)。PCC患者は、対照群と比較して、HIIT後の筋肉痛の増悪が大きく(平均[SD]VASランク、33.4[17.7] vs 25.0[11.3];P = 0.04)、MICT後の集中困難がより多く報告されました(平均[SD]VASランク、33.0[17.1] vs 23.3[10.6];P = 0.03)。ベースライン時、PCC患者は肺機能と心機能は保たれていましたが、ピーク酸素消費量が対照群と比較して21%低く(平均差:-6.8mL/kg/分;95%CI、-10.7~-2.9mL/kg/分;P<0.001)、等尺性膝伸展筋力も低かった(平均差:-37Nm;95%CI、-67~-7Nm;P=0.02)。PCC患者では、中等度から強度の身体活動に費やす時間が43%少なかったことが明らかになりました(平均差:-26.5分/日;95%信頼区間:-42.0~-11.1分/日;P = 0.001)。注目すべきは、PCC患者4人(13%)に起立性頻脈がみられ、29人中18人(62%)に神経生理学的検査によるミオパチーの徴候がみられたことです。
この研究では、入院していないPCC患者は、一般的に心血管系機能を維持したまま運動に耐えましたが、対照群に比べ有酸素運動能力が低く、筋力も低い状態でした。また、姿勢起立性頻脈やミオパチーの徴候もみられました。この所見から、PCC患者における骨格筋のさらなるデコンディショニングと健康障害を予防するために、慎重な運動導入が推奨されることが示唆されるとのことです。

Severity of Respiratory Syncytial Virus vs COVID-19 and Influenza Among Hospitalized US Adults

*呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syntical Virus)で入院した成人の重症度を記載し、ワクチン接種の有無別にCOVID-19およびインフルエンザ疾患の重症度と比較することを目的とした研究です。2023年6月21日、米国疾病予防管理センターは、60歳以上の成人に対し、臨床的意思決定を共有する方法を用いて、RSVワクチンの接種を初めて推奨しています。
このコホート研究では、急性呼吸器疾患で検査室で確認されたRSV、SARS-CoV-2、またはインフルエンザ感染で入院した18歳以上の成人を、2022年2月1日から2023年5月31日までに米国20州の25病院から前向きに登録しました。各患者の入院中の臨床データは、標準化された書式を用いて収集され、2023年8月から10月にかけて解析されました。
曝露としてはRSV、SARS-CoV-2、またはインフルエンザ感染としました。
主要アウトカムは、多変量ロジスティック回帰を用いて、侵襲的機械的人工呼吸(IMV:Invasive mechanical ventilation)および院内死亡の複合を含むさまざまな臨床転帰について、RSV疾患の重症度をCOVID-19およびインフルエンザワクチン接種の有無別に比較しました。
対象とした成人7,998例(年齢中央値[IQR]67[54-78]歳;女性4,047例[50.6%])のうち、484例(6.1%)がRSVで入院し、6,422例(80.3%)がCOVID-19で入院し、1,092例(13.7%)がインフルエンザで入院しました。RSV患者では、58人(12.0%)がIMVまたは死亡を経験したのに対し、COVID-19ワクチン未接種患者1,422人中201人(14.1%)、COVID-19ワクチン接種患者5,000人中458人(9.2%)、インフルエンザワクチン未接種患者699人中72人(10.3%)、インフルエンザワクチン接種患者393人中20人(5.1%)でした。調整後解析では、RSVで入院した患者とCOVID-19で入院したワクチン未接種患者で、IMVまたは院内死亡のオッズに有意差はありませんでした(調整オッズ比[aOR]、0.82;95%CI、0.59-1.13;P = 0.22)またはインフルエンザ(aOR、1.20;95%CI、0. 82-1.76;P=0.35);しかし、IMVまたは死亡のオッズは、COVID-19(aOR、1.38;95%CI、1.02-1.86;P=0.03)またはインフルエンザ疾患(aOR、2.81;95%CI、1.62-4.86;P<0.001)で入院したワクチン接種患者と比較して、RSVで入院した患者で有意に高くなっていました。
この米国コホートにおいて、RSVワクチンの初回推奨前の16ヵ月間に入院した成人において、RSV疾患は、ワクチン未接種患者におけるCOVID-19またはインフルエンザ疾患と比較して、頻度は低かったが重症度は同程度であり、IMVまたは死亡という最も重篤な転帰については、ワクチン接種患者におけるCOVID-19またはインフルエンザ疾患よりも重症でした。

Drug Shortages Prior to and During the COVID-19 Pandemic

*全体的な医薬品不足と COVID-19 パンデミックに関連したサプライチェーン問題報告の割合を推定することを目的とした研究です。背景として、 COVID-19パンデミックが医薬品生産に不安定な影響を与えたにもかかわらず、パンデミック時に医薬品サプライチェーンに影響を及ぼす問題が、意味のある供給不足をもたらす可能性が高かったかどうかは依然として不明であるという問題があります。
この縦断的横断研究は、2017年から2021年まで、米国の薬局による卸売業者および製造業者からの医薬品購入の85%以上で構成されるIQVIA Multinational Integrated Data Analysisデータベースのデータを使用し、データは2023年1月から5月まで分析されました。
米国食品医薬品局または米国医療システム薬剤師学会(ASHP: American Society of Health-Systems Pharmacists)へのサプライチェーン問題報告の有無を確認しています。
主要アウトカムは薬剤不足とし、サプライチェーン問題報告後6ヵ月以内に購入単位が少なくとも33%減少したことと定義しました。ランダム効果ロジスティック回帰モデルでは、報告があった場合となかった場合の薬剤不足の限界オッズを比較し、交互作用項は、COVID-19パンデミック前とパンデミック中、および薬剤の特性(製剤、年齢、必須医薬品のステータス、臨床医による投与と自己投与、販売量、製造業者数)による異質性を評価しました。
731件のサプライチェーン問題報告があった571品目の医薬品を、報告のなかった7,296品目の比較医薬品とマッチさせました。薬剤の特性で調整した結果、サプライチェーン問題報告の13.7%(95%CI、10.4%-17.8%)がその後の薬剤不足と関連していたのに対し、比較対象薬剤では4.1%(95%CI、3.6%-4.8%)でした(限界オッズ比[mOR]、3.7[95%CI、2.6-5.1])。供給不足は、2020年2月から4月にかけて報告あり・なし薬剤ともに増加し(サプライチェーン問題報告あり薬剤の34.2%、比較薬剤の9.5%;mOR、4.9[95%CI、2.1-11.6])、2020年5月以降は減少した(報告あり薬剤の9.8%、比較薬剤の3.6%;mOR、2.9[95%CI、1.6-5.3])。製剤別(非経口薬のmOR、1.9[95%CI、1.1-3.2] vs 経口薬のmOR、5.4[95%CI、3.3-8.8];交互作用のP = 0.008)、WHOの必須薬の状態(必須薬のmOR、2. 2[95%CI、1.3-5.2] vs 非必須mOR、4.6[95%CI、3.2-6.7];P = 0.02)、銘柄 vs ジェネリックの状態(銘柄mOR、8.1[95%CI、4.0-16.0] vs ジェネリックmOR、2.4[95%CI、1.7-3.6];P = 0.002)に関して、有意な関連が認められました。
この全国横断研究では、COVID-19パンデミックの初期に薬剤不足に関連するサプライチェーンの問題が増加しました。将来のショックから米国の医薬品供給を守り、最も不足リスクの高い臨床的に価値のある医薬品に優先順位をつけるためには、継続的な政策作業が必要であるとのことです。
 

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     
モデルナ、次世代COVID-19ワクチンの第3相臨床試験で良好な中間結果を達成(PR TIMES) - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240405/pr2/00m/020/982000c

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

国内        
持続的感染、後遺症要因か 「ミニ腸」で新型コロナ実験―感染研など
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024040500678&g=soc
*「国立感染症研究所や国立成育医療研究センターなどの研究チームは5日までに、実験容器内でヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から生み出したミニサイズの腸に、新型コロナウイルスを感染させる実験を行った成果を米消化器病学会誌の電子版に発表した。デルタ株やオミクロン株系統の「BA.2.75」はウイルスの増殖が長く続き、後遺症の要因の一つと考えられるという。
 新型コロナウイルスは主に気道や肺に感染するが、腸に感染する場合があり、後遺症につながると報告されている。ミニ腸を生み出す技術は、同センターの阿久津英憲・再生医療センター長らが2017年に開発した。
感染実験ではデルタ株や「BA.2.75」の増殖を抑えるたんぱく質も見つかり、後遺症の予防・治療法の開発に役立つと期待される。
オミクロン株の別系統「BA.2」や「BA.5」、「XBB.1」は、ミニ腸に感染させてもあまり増殖しなかった。この原因はミニ腸から抗ウイルス活性があるたんぱく質「インターフェロン―ラムダ2」が多く分泌されるためと判明。デルタ株や「BA.2.75」を感染させた場合は少ししか分泌されないが、人為的に投与して量を増やすと、増殖を抑える効果があった。」

花粉症と感染症=下桐実雅子 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240408/ddm/002/070/128000c
*「スギの植林面積の拡大、食生活の欧米化などさまざまな背景事情があるが、花粉症などのアレルギー疾患が増えている国には共通点がある。衛生環境が良くなり、感染症の患者は減っているのだ。
最初に花粉症と感染症の関係を報告したのは1989年、英国の疫学者のストラッカンさん。1万7000人を調べた結果、年上のきょうだいがたくさんいる人ほど、23歳の時点で花粉症の発症率が低かった。「家庭内できょうだいから風邪をたくさんうつされたからではないか」と考えた。
その後、家畜がいる農場で育った子は、農場以外で育った子よりも花粉症やぜんそくが少ないというスイスの研究報告が出た。家畜がいる農家には、ふんなどに含まれる細菌のかけらが浮遊し、その量が増えるほど、花粉症やぜんそくになりにくいことも分かった。
乳幼児期に細菌にたくさん接触したり、風邪を何度もひいたりする刺激が細菌やウイルスに対する免疫反応を強めて、アレルギーを抑える方向に動く。逆に、今の日本のような清潔な環境はアレルギーを起こしやすくすると考えられ、「衛生仮説」と呼ばれている。」

海外       
国立感染症研究所、アジアで情報共有…次のパンデミックに備えインド・ベトナムなどと
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240406-OYT1T50127/
*「アジアの感染症情報を迅速に共有するため、国立感染症研究所のチームが各国・地域の公的研究機関とネットワークの構築に乗り出す。情報が不足したコロナ禍を教訓とし、共同研究の実績があるインドやベトナム、台湾などと連携を深め、各地の感染状況やウイルスの解析結果などを共有する。次なるパンデミック(世界的大流行)に備え、国際連携を強化する方針だ。」

コレラ診断キットを大規模展開~世界的大流行に対応、高リスク14カ国に120万回分[プレスリリース](PR TIMES) - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240408/pr2/00m/020/936000c
*「本日、マラウイにコレラの迅速診断検査(RDT)キットが到着し、今後数カ月間にコレラのリスクが高い14カ国に120万回分以上の検査を配布する世界的なプログラムの幕が切って落とされた、とユニセフ(国連児童基金)は発表しました。
これは世界各地で展開される過去最大規模のプログラムで、今後数週間以内にエチオピア、ソマリア、シリア、ザンビアをはじめ、現在コレラの集団発生によって深刻な影響を受けている国々にキットが配布されます。このプログラムは、日常的なサーベイランスと検査の能力を強化するとともに、コレラの可能性が高い症例を迅速に特定することで、集団発生をより速やかかつ正確に検知し対応できるようにします。また極めて重要なこととして、各国の動向をモニターし、将来の予防プログラムのためのエビデンスの土台を構築することで、コレラ抑制・撲滅の国家目標の達成を支援します。」

脳に寄生虫、生焼けベーコン原因? 医学誌に米男性症例 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240406/ddm/007/030/108000c

4)対策関連
国内      

海外      
WHOパンデミック条約案、医薬品生産で対立 交渉難航 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR28BFN0Y4A320C2000000/
*「世界保健機関(WHO)加盟国による「パンデミック条約」の交渉が難航している。感染症対策の強化に向けて3月下旬に条文案をまとめる方針だったが、医薬品の技術移転などを巡って先進国と新興国が対立する。5月下旬に始まるWHO総会で採択できない恐れがある。
WHO加盟国は新型コロナウイルス禍への対応が遅れた反省から、2021年12月に新たな感染症対応の枠組みとしてパンデミック条約の協議入りを決めた。2年かけて条約内容を交渉し、今年3月18日からの会議で合意する計画だった。」

5)社会・経済関連     
英、長期疾病で離職280万人 コロナや働き方変化影響か:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR03FEX0T00C24A4000000/
*「英国でうつ病などによる離職者が急増している。病気で働けない人は2023年10〜12月期に過去最多の280万人にのぼった。新型コロナウイルス感染の後遺症や働き方の変化が影響しているとみられ、人手不足が深刻になっている。
スナク首相は3月26日、議会下院で「パンデミック(世界的大流行)の不幸な影響のひとつは、長期の疾病により仕事に就けず求職もしていない人の増加だ」と述べた。仕事に就くことの意義を説き「働きたいと願うすべての人を支援する必要がある」と強調した。」

ホームパーティー、巣ごもり家電活躍 「家飲み」から進化:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07DMM0X00C24A3000000/
*「ホームパーティーが盛り上がっている。新型コロナウイルス禍が落ち着き、人を招きやすくなったことに加え、「おうちごはん」や「家飲み」を充実させるために購入した食器や調理アイテム、インテリアなどが活躍。パーティーのレベルが上がっている。住まいに関するSNS「ルームクリップ」では、ホームパーティーの検索水準が過去最高になっている。」

罹って分かった生活の質とは ああ懐かしや、かくりめし - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240407/ddm/014/070/002000c


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