外国語学習のコツ

語学はスポーツや楽器練習と同様に日々継続しないと能力は容赦なく落ちてしまうので、毎日かならず一定時間触れることが肝要です。英語をある程度まで習得した経験―TOEIC750点くらい・その後ICT業界で7年間翻訳業務に従事―からいうと、リーディング(読む)、リスニング(傾聴)、スピーキング(喋る)、ライティング(作文)をまんべんなくこなすのが語学の上達には理想的ですが、なかなか実現するのは難しいですね。とくに最近はコロナの問題もあって、外国へ一定期間旅行することもできないですし、日本語が母語で日本に住んでいれば基本的な日常生活はすべて日本語で済ませられますから、外国語を学び続ける動機を維持するのはなかなか難しいのです。

ぼくは昨年の夏から中国語学習を20数年ぶりに再開しましたが、どうしても読み書きに時間を費やしてしまい、リスニングとスピーキングをおろそかにしています。学術研究のため外国語で書かれた資料を読むような目的であれば、リーディングとライティングに比重を置いた学習でも許されるかもしれませんが、外国人(外国語話者)との対面コミュニケーションが目的であれば、リスニングとスピーキングの量をとにかくこなさなければほとんど意味が無いでしょう。

外国語能力を図る指標は、コミュニケーション能力という観点から考えた場合、いくらでも雑談ができる・ネイティブ同士の雑談を聴いて理解できることにあると思います。ネイティブはまずかなり速いスピードで喋りますから、聴き取りが難しいですし、日常会話で用いられる膨大な語彙を(文脈を把握したうえでの推定なども含めて)理解し、さらに話者固有の訛りや方言なども勘定に入れねばなりません。そのうえ、流行り言葉や隠語、また語の省略などに慣れることも必要です。専門的な会話の場合、高度ではありますが狭い文脈が設定されているので、術語を把握していればある程度意思の疎通がたやすいのに比べて、雑談の場合は術語という考え方がそもそもありませんからそうはいきません。たとえば英語話者のアメリカ人はアメリカで暮らしていれば、無数の英語語彙と米国英語特有の表現を生活の中で自然に吸収するわけですが、それを非英語圏の学習者が身につけるのは大変です。視点を変えれば、非英語圏の学習者は、その人その人の母語で同様のボキャブラリーや表現をすでに身につけているともいえます。

語学力の向上にはとにかく反復練習、そして時間、学習対象の言語に対するポジティブな感情(愛着や興味関心)が欠かせません。ネット上の翻訳ツールも格段に進化が進む現代において、外国語を習得する価値はいっけん低下しているようにみえますが、言語はその言語固有の歴史・文化を蓄積しているいわば生きたデーターベースですから、外国文化・社会を深く理解するためには依然外国語学習とその習得には大きな意義があります。ただ、実際的な利益という観点から外国語学習のメリットを考えると、翻訳や通訳といった仕事の場合、高水準の語学力プラス何かしらの専門性(複数あると望ましい)が継続的に求められがちですから、(最近はやりの)コスパはあまり良くないかもしれないですね。しかし、コスパのことばかり考えて生きると、魂がやせ細っていきますから、その点も考え合わせて身を振るのが良さそうです。

ここまで、経験をもとに一般論らしきことを書きつらねてきましたが、ぼく自身、いわゆるおのれのキャリアにいま学んでいる中国語を生かそうという大志はもっていません。が、しかし、中国の友人とやり取りするだけに中国語を学び続けようというのは動機が弱いのではないかと日々思案しています。当面、学習をやめるつもりはないのですけれどね―それは日中の漢字文化の奥深さと重層性を感じるのが面白いので―。何もかもを生産性に置き換えて考える柄ではないのですが、いまの感じでダラダラしていても、身につく中国語力は大したことがないでしょうから、具体的に資格取得(HSK,中国語検定)をめざすのも良さそうです。いずれこれだけの文章を中国語で書けるようになったらいいなと思いつつ、筆をおきます。

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