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Doors 第24章 〜 未来

  ありがとう

 そう言うと僕は原稿を置き去りにして夢へと旅立った.いつか誰かがこの原稿を見つけてくれると信じて.そして明日へと戻った.

 人はいつだって正しい選択をする.もしも間違った扉を開けばセーブポイントからやり直しになるだけ.途中で間違いかなと思っても,その先には行くべき道が必ず待っている.不甲斐ない人生の幕切れは,冷酷かもしれないが,その人にとってはそれが正しくもあったということ.理由は神のみぞ知る.
 明日へ戻ってきたということは正しい扉を開いたということなのだろうか.2021年1月21日の朝,シャワーを浴びながらそんなことを考えていた.いつも通りの朝だったのに.

 目を閉じた時,瞼の裏側にある光景が浮かんできた.どこかのバーみたいだ.瞬きする度に光景が変わっていく.そのどれもが小さなバーで拍手喝采と賞賛を浴びている初老の男だった.すぐさま年老いた未来の自分だと分かった.
 場所や面子は様々だった.海外のようなところもあった.とてもキラキラしていて眩しかった.ずっと見ていたかったので瞬きを続けた.何度も何度も,僕は夢中で夢に耽った.

 それは突然やってきた.眩しい光景から一変し,重く硬そうな鉄の扉が目の前に現れた.暗い扉だった.どこか見覚えのあるその扉を僕は恐る恐る開けた.そこはワンルームの間取りで,小さな机とベッドだけがある独房のような寂しい部屋だった.やはり見覚えがあった.シドニーで急遽泊まった格安のホテルと同じだ.その端っこに背負っていた機材を置いた.そのままベッドに転がり天井を眺めながら物思いに耽った.

 これでいいのだろうか.夢を叶えて名誉までもらって確かに幸せだ.これを幸せでないと言うと神様に怒られるのは明らかだ.でも,本当にこれでよかったのだろうか.
 ふと2021年の出来事が頭によぎった.いや,はっきりと覚えている.それは昨日のことだったから.あの時僕は扉を開けなかった.鍵は持っていたけれど,開けて傷つくのが嫌だった.怖くてそこから逃げた.しかも,それを「相手を傷つけたくはないから」と他人に押し付けていた.
 もしもあの時jokerを出していたら,あのゲームはどうなっていたのだろうか.そんなことを考えていた.まったく,30年経った今でもナンセンスな議論を交わすこの思考は当時と変わらないな.

 だんだんと暗闇にも目が慣れてきた.すると,天井の照明のすぐ横.一際大きなゴキブリがいることに気づいた.疲れのせいなのか,特にリアクションすることもなく事実を受け入れた.そのゴキブリよりも目の前の悩みの方が現実だった.
 その時,そのゴキブリがひらひらと降ってきた.魔女へと姿を変えながら.二度驚いた僕に対して,その魔女が耳元でこう告げた「願いを叶えてやろう.ただしチャンスは一度だけだ」

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