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辛いのが苦手だった自分が「ペヤング獄激辛」を食べるまで

 ぼくは辛い物がまあまあ好きだ。というより好きになったというべきだろう。でも、別に得意というわけではない。子どもの頃はワサビが食べられなかったし、カレーも甘口だった。それでも、ある程度の歳になると寿司ともり蕎麦はワサビが必須になるくらいには辛味には慣れていった。

 しかし大学生の頃に話題になった「ペヤング激辛やきそば」、通称・赤ペヤングは衝撃的だった。

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ペヤングの蓋が取れた時代

 地元北海道では基本的に流通していないペヤングながら、その反響の大きさからドン・キホーテで手に入れることができた。
 味は、辛いというより痛い。牛乳が1リットルあっという間になくなる。なぜこんなものを生み出したのか。そんな思いだった。けれど、いま振り返れば、辛味に対する慣れの問題と、激辛フードの「食べ方」を知らなかったがゆえの経験だったのかもしれない。

 学生生活を終え関東に出た自分は、あるとき本当の「旨辛」に出会った。そう、あの「蒙古タンメン 中本」である。

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 蒙古タンメンは辛味噌ラーメンの上に麻婆豆腐が乗っているというユニークなラーメンで、スープの旨味、野菜の甘味、麻婆の辛味、麺の歯ごたえと風味が見事に調和したラーメンである。ぼくはこれに魅了された。辛いのに旨い。辛いけどスープを飲みたい。そう思わせる圧倒的な力がこの一杯にはあった。そうして、ぼくはさらなる「旨辛」を求め、様々な激辛フードに手を出していった。

 手始めに、まずは「新宿中村屋 本格四川 辛さ、ほとばしる麻婆豆腐 」で麻婆丼を作ってみた。これはスーパーで買えるレトルトだが、花椒が強烈に香る本格的な麻婆豆腐だ。
 言い遅れたけれど、ぼくはどちらかというと「辣」よりも「麻」、すなわちシビレが好きだ。机には花椒パウダーと花椒ラー油が常備されている。そんなぼくにはうってつけの一品だろう。

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 フライパン一つで作れるのもありがたい。炊き立てご飯に乗せて食べると、なるほど、辛くて痛い。付属パックの四川山椒も鮮烈だ。だがその奥に確かな旨さを感じられる。当時の自分には強敵だけど、気持ちいい辛さだった。舌がひりひりする。喉が熱い。汗が止まらない。次の日のトイレの心配をする。そういう辛さだった。

 この時の辛さ耐性はまだまだで、やはり「辣」より「麻」を求めていた自分が次に向かったのは汁なし担々麺の名店「雲林坊」だった。
 雲林坊では好みに合わせて辛さと痺れ、すなわち「辣」と「麻」を指定できる。このときの自分は「辣:4」の「麻:4」、すなわち「4の4」で注文した。ミニ麻婆丼セットも付けた。

ゆんりんぼう01

ゆんりんぼう02

 なんかこの麻婆丼、唐辛子が丸々入ってるんだけど。ともあれ、汁なし担々麺を混ぜて食べてみると実に美味しい。麻がかなり鋭い。花椒が強く、痺れと苦みを強く感じる。辛味はそれほどでもない……。と思いながら食べていくとだんだんと効いてくる。ナッツやゴマで中和されていたようだが、「辣:4」は徐々にその貌を明らかにしていった。じわじわと舌を苛んでいくタイプの辛さだった。
 しかしその後、実はラスボスは麻婆丼だったということに気づく。汁なし担々麺の「辣:4」より辛く、そして熱い。麻婆は粘度が高く、米はしっかり固めに炊きあげられているのでよく噛まないと食べられない。馬鹿な、箸休めのつもりに頼んだはずの麻婆丼が一番攻撃力が高いではないか。

 そんなこんなで苦戦しながらも完食。この夜は中華料理屋で会食だったこともあり、その翌日は見事にお腹を壊している(なにやってんだ)

 昨今の激辛ブームもあり、コンビニでも次々と激辛フードが手に入るようになった。特に中本はセブンイレブンと積極的にコラボし、北極ラーメンや汁なし担々麺、カップ焼きそばなどを次々リリースしている。もちろんぼくはこれらも手に入れ手当たり次第に食べてみた。冷凍の汁なし担々麺はクオリティが非常に高く、辛味もよくお気に入りだ。

 いろいろな激辛を経験することで、辛味に慣れてきた自分は、蒙古タンメンのカップ麺は常備するくらいにはなっていた。味としては辛辛魚のカップが大好きだけれど、通年で手に入らないのが痛い。

 そんな中、Youtuberの動画を観ることが日常となったぼくの興味を引いたのは、「ブルダック炒め麺(プルダック・ポックンミョン)」だった。なんでも、韓国で一番辛いインスタント麺として売られているとか。その上、辛さ2倍、2.5倍、3倍まである壊れっぷり。韓国の人落ち着いて。

ブルダック2

 というわけでやってみた。

 とにかく赤い。赤いのだ。赤ペヤングのように「能ある鷹は爪隠す」タイプではなく、その鷹の爪を謙遜することなく全面に押し出してくるタイプのやつだ。さぞかし自信があるのだろう。

 でも一口食べてみると意外や意外。甘いのだ。コクがあって旨味があって……辛いんじゃ!!!!!

 ビビるわ。なにその結婚当初は優しい顔してたのに突如豹変するDV夫みたいなの。あぁでも海苔とごまの風味もいいね。メチャメチャきびしい人達がふいに見せたやさしさって感じ。
 味としてはとても美味い。ねっとりした食感の太麺は、フライ麺ながらコシも風味も並のインスタント麺を超えている。赤ペヤングよりも好きだ。でも辛さは赤ペヤングを凌ぐ。なるほど、これが韓国No.1 激辛インスタント麺の実力か。たしかにこれは「旨辛」のひとつの到達点と言えるかもしれない。だが啜ってはいけない。人間が辛味を感じやすい器官の順はこうだ。

 唇>舌>口腔(※個人差があります)

 そう、激辛麺を食べるときに啜ると良くないのは、喉に当たってむせるからという理由だけではない。唇は非常に鋭敏な器官なのだ。辛いものを食べるとまっさきに音を上げるのが唇で、その次が舌なのだ。ココイチの10辛を食べる動画を見ると、誰も彼も口に入れたスプーンを歯でこそいでいる。つまりそういうことだ。

 こんなことを考えて食べるのが楽しいのか? 楽しいからやっている。

 なんとかして難敵を攻略したぼくは翌日もトイレで過ごすことになるが、この旨辛体験はやみつきになりそうなものだった。いつか2倍、2.5倍、そして3倍にも挑戦してみたい。日本じゃパック単位でしか手に入らないのが痛い。激辛好きの人、共同購入しませんか。

 さて、そんなこんなで韓国No.1(の登竜門)をクリアした自分は、いよいよ長年目を背けていた敵と向き合うことになる。激辛ペヤングの4倍の辛さと言われる「ペヤング 激辛MAX END」に

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 字がおどろおどろしい。作り方も見た目も赤ペヤングと大差ない。けれど辛さは4倍なのだ。いろいろな激辛フードを食べ、この時点では赤ペヤングも美味しく食べられるようになった自分といえど、その4倍と流石に言われれると身構える。内臓のダメージを軽減するためにチキンラーメン・ミニを腹に入れて体内のカプサイシン濃度の低減を図る。

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 見た目はそうでもない。が、学生時代の赤ペヤングの記憶が蘇る。ぼくはこいつを倒せるのだろうか? そう思いながら、ここ数年で学んだ激辛フードを食べるスキルを使っていざ実食。

 お? 意外と……食えるぞ

 辛いは辛い。痛いは痛いがなんとかなる。そんな辛さだ。この数年の激辛トレーニングでぼくはMAX ENDを攻略できるほどに成長していたのだ。ただいかんせん旨味が薄い。痛みをひたすら味わわされている。そんな感じだ。

 まったくのノーダメージというわけではないが、身構えていたほどのダメージは受けず完食。ただし、その後15分程度は舌の痛みと格闘することになった。そして、1時間ほどしたら胃がカッと熱くなった。MAX ENDが暴れている。けれど、不思議とその日もその翌日もお腹を壊すようなことは無かった。そこに確かな成長(麻痺)を感じた。

 そこで調子に乗ってしまったのか、ぼくはとうとうアレに手を出すことになる。そう、MAX ENDの3倍の辛さといわれる「ペヤング 獄激辛」に

獄激辛2

 閻魔様。あなたは舌を引っこ抜くのが仕事であって、舌を焼き尽くすのが仕事ではないのではないですか、閻魔様。

 というわけで、お盆の最中、ぼくは満を持してペヤング獄激辛と対峙するのであった。

 正直なところ、自信はあった。辛味にも慣れてきたし、MAX ENDを食べてもお腹を壊すことなくなった。けれど、これはただの油断だったのかもしれない。お腹を壊さないというのは、激辛フードの中でもスープが無い場合にありがちな現象で、辛味レベルがそこまででもないラーメンでも、調子に乗ってスープまで飲めばお腹を壊すことは珍しくない。つまり、

 身体的ダメージ =(辛味密度)×(体積)

  という式を仮定すると、汁なしの激辛カップ焼きそばを食べるより丼一杯のピリ辛スープを飲んだほうがトータルのダメージは多いということはあり得るのである。

 なにを言いたいかというと、焼きそばなら大丈夫という慢心があったと思う。そしてぼくは閻魔様に捻られることになる。

 結論から言おう。ぼくは「ペヤング 獄激辛」を完食した。それも3分程度でだ。ただ、そこには想像を超える戦いがあった。

獄激辛3

 獄激辛ソースは赤いというより黒い。匂いはもはや刺激物だ。もうどうとでもなれ。とにかく食ってしまえそうして一口目を口に含んだ。

 ペヤングだ。でも、これは痛いペヤングだ。

 一瞬で冷や汗が駆け巡る。だが箸を止めるわけにはいかない。唇で啜らないように。箸を駆使してそばを手繰る。

 いきなりキた

 痛い。これは、痛い。

 旨味はMAX ENDよりもあるような気がする。

 だが、痛い。

 飲み込む。

 飲み込んで次の一口を手繰る。

 望む以上にまとわりつく麺が鬱陶しい。

 そんなに口に入れたら死んでしまうだろうが。

 払い落として最低限の麺量を手繰る。

 痛い。

 ふざけるな。

 喉が一瞬で焼ける。

 普通は痛みが増してら一定でサチってくるもんだろうが。

 でも獄激辛はそうじゃない。

 ただの足し算だ。

 グラフにするとこんなイメージ。

辛さグラフ


 手が震える。

 「これ以上食べたら死ぬ」と「ここで手を止めるともう食えない」の鬩ぎ合いで震える。

 とにかく食べ進める。

 大丈夫だ、ぼくには3Lの牛乳と400gのヨーグルトが控えている。

 でも途中でそれに手を付けるのだけはダメだ。

 辛味が増して二度と戻ってこれなくなる。

 これは激辛を食べときのの鉄則だ。

 手を止めるな。Youtuberのような大げさなリアクションもするな。

 とにかく黙って食え。それが最善の攻略法だ。

 覚悟を決めろ。手を止めるな。

獄激辛4

 食った。

 勝った。

 最後に残ったキャベツを掻っ込むのすら苦行だった。

 ブルガリアヨーグルト1パックを一気に食う。牛乳も大量に飲む。

 痛い。痛いんだ。冷たいものを口に入れるほど反動で痛くなる。

 火傷みたいだし、しもやけみたいでもある。

 舌を磨く。それすらも痛い。

 うがいをする。喉に刺さる。

 また牛乳を飲む。

 あっという間に1リットルが空く。

 ……10分ほどして落ち着く。辛さが引くのはMAX ENDより早かった。

 助かった。胃もMAX ENDほどは熱くならない。

 ……とまぁ、なんだかんだでペヤング獄激辛は撃破したのだけれど、甚大なダメージを受けた。なんでも、辛さを表すスコヴィル値(SHU)でいえば、ブルダック炒め麺の2.5倍が10,000 SHUに対し、今回のペヤング獄激辛はたかだか1,500 SHU程度ということらしいのだが、通常のブルダック炒め麺(約4,000SHU)を食べた身から言わせてもらえばそんな数字はなんのあてにもならないことがわかる。

 

 さて、その後の話。

 3時間後、腸で暴れだした。


 ここからは汚い話だ。そこそこ直接的で赤裸々な消化器系の話だ。興味がある人は自己責任でポチってくれればいいと思う。この先を読んで不快な思いをしても責任は負いかねる。

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