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愚かであるということに無自覚だった - リアル脱出ゲームに至る道

さてそんなこんなで今回は中学生になったところからはじまります。

野球部に入った。
大してうまくなかったけれど、二年生からレギュラーではあった。
ライトかセンターを守ってた。
7番くらいを打ってた。
僕が二年生の時に三年生最後の試合で僕のさよならエラーで負けた。
僕はライトを守っていた。最終回で地域の超強豪チームにあと少しで勝てそうなときに大きなフライが僕の頭を越えていった。僕は必死で追いかけたのだけど、そのボールが壁に直接当たって僕の方に跳ね返ってきた。僕はびっくりしてそのボールをはじいてしまい、しかもその場に尻もちをついてその後の対応が遅れた。打ったバッターもホームインして試合は僕らのさよなら負けで終わった。
あれは結構トラウマ的なものだった気がする。野球はあれであきらめた。
チームスポーツの責任の重さみたいなものを感じた。
その感覚はその後の人生にも結構影響を与えた。チームスポーツはあれ以来一生懸命やったことはない。

成績はそこそこ良かったように思う。

グインサーガという小説を読んでた。
栗本薫という小説家。彼女の小説が好きだった。
物語が終わってしまうのが嫌だった。ずっと続く物語を読んでいたかった。グインサーガはこの頃すでに30巻位出版されていてその後も100巻まで続くという触れ込みだったのでちょうどよかった。(作者逝去により130巻で止まる。その後有志により書き続けられ現在全173巻が出版されている)
毎週日曜に友人と集まってTRPGをしたてた。ウィザードリーのTRPGとか。
野球が忙しくてあんまり遊んでいなかった。

友人を殴って親と謝りに行ったり。たしかつまらない理由だった。バレーボールの審判を友人がやっててそれでミスをして僕が怒っちゃったみたいな。
あとは生徒会に入ってたな。文化委員長だった。
文化委員長を選ぶ選挙みたいなのがあって、その選挙ポスターに「できれば空は青い方がいい。できれば毎日は穏やかなほうがいい。そんなあなたの文化委員長加藤隆生です」みたいなコピーを書いたらそれが評判良くて当選した。先生からも褒められたから悪い気はしなかった。大人に好かれる子供だった気がする。

小説家になりたいと思っていた。
でも国語の先生に「なれるとは思えない」と言われた。そんなに文章がうまくないからと。今思えばひどい話だな。
なにかに夢中になる性格ではなかった気がする。中学の時に夢中になったものはそんなにない。忘れてるだけかな。
二年生が終わるときにクラス全体の文集みたいなのを作ったのだけど、その巻末にゲームブックみたいなのを作った。ゲームをしていくとそのクラスで一年間に起こったことが振り返れるような。それがずいぶん評判が良くて、うれしかったのは覚えている。

聴いてたのはTMネットワーク、米米CLUB、久保田利伸、ブルーハーツ、ユニコーン、ジッタリンジンとかかなあ。

土曜日の深夜の「夢で逢えたら」という番組が好きだった。
ウッチャンナンチャンやダウンタウンがでてたやつ。
その主題歌でユニコーンが好きになった。
でもテレビはあんまり見なかった気がするな。

僕のことを好きな女の子がいた。
不思議だった。好かれる要素が自分ではまったくわからなかったから。

詩を書いていた。ずっと。多分毎日詩を書いていた。
文章を書くのは好きだった。小説家になりたいと思っていた。

家庭は小康状態を保っていて、父も月に二回くらいは帰ってきた。「ただいまー」とかいって帰ってくるとなんだかうれしかった。父が帰ってくるときの晩御飯はいつもより少しだけ豪華だった。父が帰ってくると本を買ってくれるからそれもよかった。

ドラクエは相変わらず好きだった。FFもやってた。
ドラクエ3は出る前からパーティーをどうするか考えてた。
発売日が待ち遠しくてたまらなかった。
発売された後夢中でやった。学校中がドラクエの話題ばかりだった気がする。

自分は何にも夢中になれないことが悩みだった。
なにかに思い入れることがなかった。周りには切手を集めてるやつとか、ピアノをがんばってるやつとか、星座にめちゃくちゃ詳しい奴とか、映画を週に5本観る!って言ってるやつとか色々いたけれど、僕は特に何も夢中になれるものはなかった気がする。
全部大体そこそこ知ってる感じだった。
割と分け隔てなくいろんな人と仲良くしていた。当時不良と呼ばれていた人とも気軽に話せたし、学校で一番の秀才とも休み時間になると五目並べして遊んでた。でも唯一無二の親友みたいな人はいなかったな。薄く広いつきあいをして、卒業して疎遠になったらもう会わないみたいな事を繰り返してきた。

一度だけHさんと二人で学校から帰った。
緊張して何もしゃべれなかった。夕日がきれいだった。
「きれいだねえ」と言ったら「そうだねえ」と言われた。

ゲーセンが好きだった。
塾をさぼってゲーセンに行ってた。
R-TYPEとか。グラディウスとか。超絶倫人ベラボーマンとか。
ベラボーマンを初めてやったとき、たぶんなんらかのバグだと思うのだけどワンコインでいきなり無敵状態になりそのままずっと無敵のままだった。そして最終面まで行ってエンディングを迎えた。一時間くらいワンコインで一人で遊べてめちゃくちゃ興奮した記憶がある。村上春樹の小説とかで日常の中に突然現れる不思議な出来事みたいなのがえがかれるとき、僕はいつもこの時のことを思い出す。
不思議なことって意外と身近に実際にあるものだと思う。

中学時代を通じて何かに取り組んだとか、何かを考えていたとか、通底したコンセプトみたいなものは皆無だと思う。とにかく日々必死で生き延びていた感じ。楽しいとか面白いとかよりも、ただ淡々と毎日やってくるミッションをこなしていた。
他にはなにも見えてなかった。なにも。

塾に行っていた。英語と数学の塾。
割と厳しい塾だったように思う。ちゃんと勉強はしてた気がする。塾の帰りにみんなで駄菓子屋さんに寄ってちょっとしたものを買うのが楽しかった。夜に友達と出歩けたのはよかったな。

マンガはスラムダンクやJOJOが好きだった。ドラゴンボールはそこまでちゃんと好きではなかった気がする。

この頃はとにかく日常が何事もなく進んでいくのが苦痛すぎて、ずっとなにかいつもと違うおもしろいことが突然起きて、日常をまったく変えてしまうことを望んでいた。
引き出しが突然開いて猫型ロボットがやってくるとか。
空から飛行石を持った少女が落ちてくるとか。
突然怪しい男に声をかけられて「君芸能界にデビューしてみない?」って言われるとか。
超能力に目覚めて周りの心の声が全部聞こえるようになって苦しむ、とか。
毎日毎日今起こったら日常が変わるようなことを想像していた。
それによってワクワクしていたとか、日常をポジティブに変えようとしていたとかでは決してなく、どうしようもなく凡庸な日常が変わってくれることを切実に祈っていた。
どこかになにか変わるきっかけがないのかをずっとずっと探していた。
本や、ゲームや、映画や、スポーツなど、ありとあらゆる場所を探したけれど、物語のはじまりはなかった。
シャープペンシルの中や消しゴムの中も探してみたけれどなにもなかった。
ただ毎日課題があり、部活があり、登下校があり、実らないささやかな恋があり、家に帰ると母がご飯を作ってくれた。

3年生の秋ごろHさんに告白した。でもさらりとかわされた。
たしか、今はそういうこと考えられない、みたいな理由だった。
でもその後彼女は別に好きな男子がいると聞いた。結構ショックだった。
卒業式の日に家に女の子が何人かボタンをくださいと言って来た。
三人くらいだったかな。ボタンはほとんどなくなったけど、Hさんはこなかった。

どうってことない中学生だったと思う。
高校受験の勉強は結構したけれど、それでも第一志望には落ちた。くやしかった。
なににも熱中せず、人のことや人がつくったものをバカにして、愚かであるということに無自覚だった。


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