見出し画像

ノルドストリーム2の地政学的脅威(ヘリテージ財団の記事)

写真出展:Terry McGrawによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/eyeonicimages-14710361/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4713386

 ヘリテージ財団は2021年6月9日に、ロシアのノルドストリーム2建設による環大西洋の安全保障上の脅威についての記事を発表した。内容としては、5月25日のノルドストリーム2に関する記事の詳細版と言うところである。おおむね同様の内容ではあるが、一部興味深い情報も追加されていることから、概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Nord Stream 2: A Threat to Transatlantic Security)https://www.heritage.org/europe/report/nord-stream-2-threat-transatlantic-security

1.本記事の内容について
  ・ノルドストリーム2は2015年に開始したウクライナを経由しない海底パイプライン事業であり、総事業費は110億ドルにも上る巨大事業である。現在758マイルの90%が完了しており、ドイツ、デンマークの海域の70マイルを残すのみとなっている。本事業に参加している企業は、ロシアのガスプロム、フランスのエンジー、オーストリアのOMV、オランダのロイヤルダッチシェル、ドイツのウニパー、ヴィンターシャルデーである。中でも積極的なのは、ドイツ、オランダ、オーストリアであり、欧州議会や他のヨーロッパ諸国の反対にもかかわらず、本事業を推進してきた。
 ・アメリカは本事業に大いに反対してきた。2020年国防権限法で部分的に制裁を課し、2021年国防権限法においては、制裁対象を拡大した。この結果として、22の企業が本事業から撤退することとなった。しかしながら、最新の報告書によると、ロシアの貨物船には制裁を課しているものの、ノルドストリーム2の事業会社及びCEOへの制裁は、国益の観点から撤回してしまった。
 ・本事業を純粋に経済的なものとして正当化する向きもあるが、これは皮相なものの見方である。パイプライン事業により提供される天然ガスや新たに創出される雇用は、ヨーロッパ人に利益をもたらすように見えるが、ロシアの支配力が増大することになる。事実、ヨーロッパは天然ガスの40%をロシアに依存しており、これ以上の依存はエネルギー源多様化の点で問題がある。また現時点で天然ガスの需要が満たされている状態であり、2030年には需要が8%近く減少する見込みであることから、経済合理性はない。
 ・安全保障上も問題がある。海底ルートが構築されるとこれまでの陸上ルートを使用する必要がなくなり、ロシアの東欧諸国やウクライナへの輸送料支払いを回避することが可能となる。これはウクライナのGDPの3%にも上る損失となり、防衛費にとって重要な収入を失う事になる。他にも、スウェーデン海軍基地近郊の港湾の使用が許可されており、情報収集や偵察活動の機会をむざむざ与えることになり、バルト海の同盟国付近での活動にも利用される可能性がある。
 ・一部の識者は、ノルドストリーム2を稼働させつつ、抑え込みを図ることが可能であるとしているが、これも楽観主義的な見方である。ロシアが約束を守ることはまれであり、ヨーロッパ諸国が本事業に参画している企業に圧力をかけることはできない。アメリカの国益及び環大西洋の安全保障を守るためには、本事業の停止以外になく、第三の道があると考えてはならない。
 ・ヨーロッパ以外でも、パイプライン事業が進行中である。2020年1月に黒海経由でトルコにガスを運搬するテュルクストリームが開始され、ブルガリア、ハンガリー、セルビア、その他地域向けのパイプラインも建設中である。ロシアは近年パイプラインを兵器として使用しており、ボスニアヘルツェゴビナの事件はその一例である。
 ・アメリカ議会の大半はノルドストリーム2に反対していることから、バイデン政権は以下の措置を取るべきである。
 ① あらゆるツールを用いて、ノルドストリーム2事業を停止させる。同盟国と協調するといった対応では期待できないため、アメリカが主体的に対処するべきである。
 ② ヨーロッパ諸国の大半は、本事業に反対している。欧州委員会も反対であり、賛成国のドイツ、オーストリア、オランダ国内でも世論は反対している。本事業の停止は、反ヨーロッパ的ではない。
 ③ バイデン政権がノルドストリーム2を容認しても、ロシアはそれを善意ではなく弱さであると認識するのみである。
 ④ 議会はバイデン政権にノルドストリーム2に反対するよう圧力をかけるべきである。
 ⑤ テュルクストリームも、ヨーロッパのエネルギー安全保障の不安定要因となる。これを改善するには脱ロシア化する必要があり、カスピ海と中央アジアとをつなぐパイプライン建設事業を支援するべきである。
 ⑥ 東欧諸国やヨーロッパの中央部のエネルギーインフラ強靭化を支援するべきである。

2.本記事読後の感想
  日本ではあまりニュースになっていないが、ヨーロッパ、バルカン半島、中東を不安定化させかねない、非常に懸念される事態である。ロシアは昨年12月、ボスニアヘルツェゴビナへのガス供給を50%削減すると発表するなど、パイプラインを脅迫の道具として利用し始めている。(ハンガリーやポーランドはこのような目に合っていない。)パイプラインを多様化しないと、ロシアの支配力が増大し、中小国が脅威にさらされることになる。
その他最近中東も騒がしくなってきており、どれだけ不安定化していくのかわからない。中東が忙しくなれば、アメリカのアジアにおけるプレゼンスは当然下がって来るのであり、ヨーロッパも対処に乗り出さざるを得ない。そうなると日本が中心となって中国と対峙してかなくてはならなくなる。本件は全くもって他人事ではないのだ。
  また前回の記事でも指摘したが、環境政策への影響も無視できない。いつの間にかヨーロッパ、バルカン半島、トルコなどの地域の二酸化炭素排出量が減少し、日本がそれほど削減できていないという状況が生まれかねない。
  ただ、大きな戦略を描いて外交政策を展開することを政府に期待するのは困難と考えられることから、せめて環境政策の部分だけでも対抗措置を取っていただきたい。

 英文を読んでわからないという方は、メールにて解説情報をご提供させていただきます。なにぶん素人の理解ですので、一部ご期待に沿えないかもしれませんので、その場合はご容赦願います。当方から提供した情報については、以下の条件を守ったうえで、ご利用いただきますようよろしくお願いいたします。

(1) 営利目的で利用しないこと。
(2) 個人の学習などの目的の範囲で利用し、集団での学習などで配布しないこと。
(3) 一部であっても不特定多数の者が閲覧可能な場所で掲載・公開する場合には、出典を明示すること。(リンク先及び提供者のサイト名)
(4) 著作元から著作権侵害という指摘があった場合、削除すること。
(5) 当方から提供した情報を用いて行う一切の行為(情報を編集・加工等した情報を利用することを含む。)について何ら責任を負わない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?