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【掌編小説】渋谷

 この街に降り注ぐものを、私はすぐに感じ取ることはできない。
見上げると雲と灰色の建物。不安になるくらい明るいモニターの広告。人が多すぎて自分と同じ人だと思えない。

 「今日ここに来た全員の一日を足すと、あっという間に私の寿命を超える……」
 交差点のスタバの二階に座っている人が交差点を歩く人を見下す時は、こんなことを考えているのかなと、私はハチ公口からスタバを見て想像する。


 なんとなく暗い。なぜか寂しい。なぜか忙しい。さっき誰かが踏んだ生温かい通路。誰かと同じような人生。コインロッカー、手すり、エレベーター。ぬくもりの集まり。
ここにいればとりあえず間違っていない。という無意識の安心。

 私は渋谷でいつも笑いをこらえている。ここにいる疲れた人たち。急いでいる人。騒がしい人。君たちはここを通過せずに生きることができますか。いやできないだろう。私だってそういう人が見たくて来ているから。

 だから、多分、ごみごみしていて嫌いと言っていても、この暖かさを本当はみんな好きなんじゃないか。


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