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お父さんを抱きしめた日

急にお父さんの入院が決まった。

悪性リンパ腫の疑い(まだ病名が特定されず)で検査に次ぐ検査をして、検査結果が揃って次週には病名がわかるかもってところまできた。

病名を知って次の治療に移りたいような、難しい治療が待ち構えていたらどうしようって怖い気持ちが混ざり合っていた。


そして迎えた水曜日。「来週の月曜日から入院できますか?」と先生。もう1週間もなく入院かーって思ってたらデスクの電話器が鳴った。

先生が「あーそうですか。金曜、、、急ですね。わかりました。それで進めます。」っと。私たちに向き直って「急ですが、金曜日から入院できますか?」

もちろんOK。早い方がいい。特にお父さんはダルさが強いし、息苦しさ、食欲不振の症状が強くて、抗がん剤治療前なのに、激痩せして何しても辛そうだから。


2日後には入院。正確にはあと1日半。思ったより早くて、やっておくことを頭で整理しているようで、家に帰るとPCの前で何時間か過ごした。

私たちは大急ぎで入院の準備。ボストンバッグ2つの仕上がり。のちに看護師さんにビックリされたけど、いつものを使うことは大切だから。

買い物があって百均に行った。いつもの癖で文房具をチェックしていると、『推しグッズ』の中で小ぶりの真っ白なうちわを発見。


推しのライブやイベントで、メッセージを伝えるためのアレ。それを見てひらめいた。妹に「これに応援メッセージを書いて病室に飾ってもらおう」我ながらナイスアイディアだと思った。

夜の9時。父が寝たのを確認してから作業開始。大事なのは言葉だよね。辛いときほど見て欲しいし、会えないときほど家族をそばで感じて欲しい。

そんな気持ちを言葉に詰められるだけ詰め混んで、うちわに書いた。シールやペンでデコレーションして。


入院の朝。出かける準備をしてるんだけど、どこか心此処にあらずでフワフワしてるのが妙な感じだった。やっと来たなのか、とうとう来てしまったなのか。

出発前。「お父さんは絶対に負けないからね!しっかり戦ってくるから」と気合いを見せてくれた。私は「辛いときはこのうちわを見て」って渡した。

「・・・え〜これは・・・うれしいね」声を震わせて、目が真っ赤になっていたお父さん。


お父さんが泣くのを見るのは初めて。「がんばる」とは言ってるけど、本当はものすごく怖くて、辛くて、なんとか奮い立ってるんだろうな。

私も本当は不安で怖くて叫びたい。どうしてお父さんが病気になっちゃうのよって。だけど、絶対に治してもらおうと奮い立ってるところ。

頑張ろうとしている痩せちゃったお父さんをギュッと抱きしめて、不安を分かち合った。


今までずーっと辛いときほど力強く支え続けてくれたお父さんを、今度は支える番。任せて。支え方なら教わってきたから。


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