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ノストラダムスのおじさん

子どものころ、

今みたいに、わからないことをすぐ携帯でポンと検索できたり、Wikipediaとかもない、

昭和と平成。その間のギリギリな空気を味えた

わからないことが、ずっとわからないまま存在する、へーんな時代だった。

『1999年、人類は滅亡する』

ノストラダムスの大予言

その予言を信じて、小学生のとき、

夏休みの宿題をしなかった。

ノストラダムスのおじさんは、僕たちみたいな「宿題したくない子」にとって、スーパーヒーローだった!

なんたって、おじさんのせいにして、勉強をしなくていいからだ。

親に「勉強しろ」だ何を言われようが、


「ノストラダムスが言ってたよ、人類は滅亡するんだって、、」

と、悩んでるフリをするのだ。

繊細な、

人類が滅亡するかも、、

どうしよう、、

悲しすぎる、、心配だ、、

心配で夜も眠れない、、

などと、いたたまれない少年を演じるのだ。

僕はこの、

『人類の滅亡を嘆く、悲しい少年』の演技が、抜群にうまかった。

これをすれば、

勉強をしなくてすむのだ。


その年、

本気で、

勉強をそっちのけて、全パラメーターを、

「悲しい少年」に注ぎ込んだ!


国語:0

算数:0

社会:0

理科:0

悲しい少年:100


もてうるすべてのものを、悲しい少年に注ぎ込んだ!!!

僕はこの日のために生きてきたんだ!!

国数社理!!

勉強全部やんないために生きてんだ!

やったぞー!

やったやったやったー!!


夏休み。

悲しい少年は、鬼神と化した。


親に勉強をしろと言われようが、

「ノストラダムスが言ってたよ、滅亡するからって!!はあ、、ああ、、ああ、、」

涙を見せる。

なにかあるたび、人類を心配する。

ちょっとした雨がふると、「まさか?!」とあわてて外に出たり、

人と会ってさよならするときも、異常に「ありがとうー!!」と叫ぶ。

ご飯のときも、「美味しい。美味しいなあ、、!!」と悲しい顔をする。


さらに、人類を想って、絵まで描き始めた。

これには母親も驚いていた。

普段絵など描かない息子が、部屋で絵を描き始めたではないか。

黒い海に、プカプカ浮きながら、泣いている少年達の絵を描いた。

我ながら、『悲しさ』がこれでもかと伝わってくる、あっぱれな絵だった。

母親はドン引きしていた。

こいつ、、こいつ、、!!

ここまで、ここまで人類のことを考えていたのか?!

冗談だと思っていたけど、そうじゃない。

本気だ、、

こいつは本気なんだ、、


それからというもの、夏休み中

宿題をやらなくても、一切何も言われなくなった。

そうとなれば、こちらのものだった。


悲しい顔で家を出たかとおもえば、

友達とプールにいってはしゃぎ倒し、

そしてまた悲しい顔で帰ってくる。

悲しい顔でまた家を出て、友達とあははは!馬鹿騒ぎして、また悲しい顔して帰ってくる。

😢→😆→😢

これの繰り返しだった。

「最後かもしれないから、楽しく遊ぶんだ、、」

悲しげな顔をマスターしたあたくしは、まさに無敵だった。


『🎶夏休みはやっぱり短い

やりたいことが目の前にありすぎて🎵〜』


ポンキッキーズの歌で、朝目が覚めて

寝ぼけながら用意されたトーストを食べる

友達と自転車を立ち漕ぎしたあと

水がすぐ蒸発するようなプールサイドを走って、

田んぼ道を、チャリをこいて駆け抜ける。

稲のいい匂いが風圧で伝わってきて

真っ直ぐに夏だった。

窓を閉めてもセミの声が大きい

友達の部屋で飽きるまで64をして、

氷がとけた、うすいカルピスの味

扇風機を全開にして、汗をかいて

炎天下の中、畑仕事のおばあちゃんたち

そーめん。スイカ。お父さんのナイター中継。夜ホタル。風鈴の音。

全力で夏だった。



夏が夏して、夏だった!




素晴らしい、最高の夏休みだった。

宿題のない夏休み。

こんな楽しいことはない✨

ノストラダムスのおっちゃん、ありがとう!!

あんた最高やで!

最高やで!

最高や!

最高!







しかし、おっちゃんの予想は外れた。

宿題は、僕を逃してはくれなかった。


いよいよ夏休みが明ける前日となったとき、悲しい少年は我に返った。


薄々気づいてはいたが、人類はまったく滅亡しなさそうなのだ。

宿題は、何一つしていない。

何も、本当に何もしていない。

これっぽちも、してはいない。

ただただ、遊びほうけていたのだ。


登校日。

もちろん担任は激怒した。

「宿題をね、家に忘れました。えへへ」

そう言ったら

「取りに帰りなさい!」

と言われて、

「すみません、やっていません。えへへ」

と言ったら、

「お☆まあにま'apai@あー!!!」

みたいなことを言われた。


とにかくこっぴどく叱られた。

大人はこんなにも怒るのかとギョッとした。

ひとつひとつの宿題、国語なら国語の宿題、算数なら算数の宿題、みんな並んで提出してくなか、たまに忘れたりする子が先生に怒られてる最中、僕はそのとなりで、皆勤賞でずっと怒られていた。

ただ、図工の宿題だけはいけると思った。

テーマが「自由に描いた絵」だったので

僕は夏休み中に描いた、悲しい少年の絵をもってきたのだ。


「ふん、これだけあるの、ね!、、うん、、、そう、、」


先生はその絵を見て、図工の宿題は「よし」となった。


二学期、教室横の柱に「悲しい少年」の絵が飾られていた。

何がよかったのかわからないが、なぜかその絵が先生の心をうったのだ。

どれだけ宿題してないアホが描いた絵でも、よければよいと認めてくれる、いい先生だった。


このあいだ営業で地元に帰った際に、その絵がないか探した。

くまなく探したけれど「悲しい少年」の絵はなくて、その同時期に描いた、登場飼っていた悲しい少年が描いた犬の絵らしきものは発見した。


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かわいい犬を、ノストラダムスに乗っかって

ここまで暗く描くのだ。

どれだけ「悲しい少年」になりきっていたかがわかる、本気度が伝わってくる。

よほど宿題をしたくなかったのだろう。

本当に、勉強をしたくなかったのだろう。

すごく伝わってくる。

『見て、ペットの絵もこんな暗いよ?宿題しなくていいよね、、』

伝わってくる。

ほんとに、ほんとに、宿題したくなかったんだよなあ、、うん、うん。

なるほどなあ、うん、わかるよ😭

マジで、宿題したくないよなあ😭、、!

わかるよ😭、、!!!

うんうん、、マジでなあ、そのあと怒られたもんなあ、、💦

あれ怖かったなあ😢

悲しいなあ😭、、!!わかるよ😭💦

お前だからさ〜😭!

めっちゃ、怒られたもんなあ😭💦


















あれ怖かったなあ💦わかるよ😭

お前だからさ😭わかるの💦









宿題したくないよなあ😭
























マジで😭