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「漫画雑誌」のアップデートを試みた 〜少年ジャンプ+の場合〜

こんにちは。「少年ジャンプ+」のモミーです。

今回は、デジタル時代にどう「漫画雑誌」をアップデートしようとしたかというテーマで、具体的な施策や現況を書いてみます。

先日Twitterにて「noteで読みたいお題」のアンケートをとったら「もっと少年ジャンプ+について読みたい」という声が1番でした。

実は僕は「少年ジャンプ+」は、あの「アプリ」だけを指すと思っていません。
広義では「ヒット作創出のサイクル生成」を目指した一大プロジェクトなんです。

ということで「少年ジャンプ+」というプロジェクトの現況を僕の目線で紹介してみます。

既存メディアのデジタル時代の生存戦略の一つの例として、よろしければご覧ください。

■漫画雑誌の4つの機能とは

前提として、僕の考える漫画雑誌の果たしてきた役割について整理してみます。
そもそも、漫画編集は基本「ヒット作品を生み出す」のが目標です。

それは「漫画雑誌の機能」を使うことで達成しやすくなったりします。

その機能は、主に以下の4つあると考えています。

◇作家が集まる
◇新人時代、トライ&エラーを重ね成長できる
◇連載中、内容のチューニングができる
◇作品のヒットをさらに大きくできる

しかし、時代と共に、雑誌の存在感は低下しています。
発掘、育成、チューニング、ヒット拡大という漫画編集部の4つの役割が機能しにくくなりつつあります。

ちなみに、漫画雑誌の4つの役割と機能不全については、すでに昔この記事で詳しく書きました。今回のブログは「で、実際ジャンプ+はどうしてきたの?」という内容です。

「少年ジャンプ+」は、元々漫画雑誌の持つ機能をデジタル時代にアップデートしていくことで、仕組みとしてヒット作創出のサイクル生成を目指してきました。

漫画家も編集者も個人の力が問われ、個人で活動できる時代なのに、逆行しているのではないかと訝しがる人もいるかもしれません。

しかし僕は、かつての漫画雑誌のように、作家さんの才能や編集者の力が花開きやすい場を、デジタルを使うこと再現・強化していきたいと考えています。

その挑戦の途中経過を記していきます。

■「作家が集まる」をどうアップデートしたか?

週刊少年ジャンプでは、かつて作家さんと出会う方法は主に2つでした。
「持ち込みの電話」と「漫画賞への郵送」です。

それらは、漫画雑誌の媒体力が強いと、強力に機能します。「この雑誌」に載せたい、連載したい、という想いを持ってくれる新人作家さんです。
今でも「週刊少年ジャンプ」は圧倒的な面白さと存在感があるため、「持ち込み」も「漫画賞」もレベルの高い新人作家がたくさん目指してきてくれます。

しかし、漫画雑誌の存在感低下により、持ち込みも漫画賞もほとんど投稿が集まらない編集部は珍しくありません。
そのような編集部は、昨今、コミティアや専門学校等へ出張編集部に出向き、また、pixivやTwitterなどでスカウトして、作家さんとの出会いを求めるのが主になります。
そして、多くの編集者の声がけ競争の中で、自らの媒体への掲載を口説いていきます。

しかし、僕がデジタルの時代に新たに実現したかったのは、圧倒的に作家さんが集まり、そしてその雑誌にこだわってくれる「週刊少年ジャンプ」のような場所でした。

◇スマホでも漫画雑誌を作ってみた

まず本拠地として、スマホでも「週刊少年ジャンプ」のような場所を作りたい、という志で「少年ジャンプ+」をまず創刊しました。
圧倒的に面白い作品が読めて、圧倒的に多くの読者が集まる場所を目指しています。
その場所が魅力的になるために、紙の雑誌とは異なるアプローチが沢山詰まっています。
たとえば、たくさんの読者に連載を追ってもらうことには価値があると考え、無料で最新話を毎話公開しています。
そして、読んだ読者が感想を交わし楽しい体験ができることは場の魅力に繋がると考えてコメント欄があるのも紙の雑誌と異なるところですね。
そして他のマンガアプリと異なる点もあります。圧倒的に新作にこだわっているところです。
しかし、いきなり「週刊少年ジャンプ」になろうと思っても簡単にはできません。
ヒット作が続き大きくなっていく循環があって現在のジャンプがあります。
そして、そもそも創刊前は、影も形も無い謎のWEB漫画雑誌に描いてもらえる漫画家さんを探すのすら当時大変でした。

◇WEBでマンガを投稿できる場所を作ってみた

そこで、作家さんを集めるために、マンガのWEB投稿サービスを作りました。
ジャンプルーキー!という名前で「少年ジャンプ+」と同時に始めました。
ジャンプは新人作家さんとの出会いを1番求めている編集の集まりです。なので、創刊と同時に立ち上げました。
始めた6年前、漫画雑誌でマンガ投稿サービスを運営しているところは皆無でした。
しかしいま、毎月3000話が投稿され、ここからジャンプ各誌にデビューした作家さんは、すでに170人を超えます
「少年ジャンプ+」の読切や新連載は半分近くが「ルーキー!」出身作家さんです。
いま「ジャンプルーキー!」はまさに「作家が集まる」機能を大きく果たしています。

◇無料でマンガを描けるペイントツールを作ってみた

さらに、漫画の作画ツールです。2017年に始めたジャンプPAINTというサービスです。
世の中のデジタル化で、作家さんの作画環境もアナログからデジタルに大きく変わりました。
デジタル上では、「執筆」から「公開」まで全て繋がっています。そこで執筆の段階からも「作家が集まる」を実現しようと思いました。

「ジャンプPAINT」の特徴は、「無料」で使えることと、ジャンプの漫画制作のノウハウを勉強できる機能を持っていることです。
商業連載に耐えうる機能を持った「無料」のペイントツールはあまりありません。
結果、クリエイター対象のアプリなのにも関わらず、すでに200万DLを超えて多くの方に使用してもらっています。

しかし、「少年ジャンプ+」連載作家が使っている例はあるものの、他にあまり周りで作家さんが使っているという話を聞きません。
いまいち効果が出ない施策だったかな…と思っていたのですが、ユーザー層を調べたところ、利用しているユーザーの5割以上がなんと10代でした。
有料のツールが使いにくい若い漫画家志望者に響いていました。
なので、将来きっとここからヒット作家が生まれるのではないかと期待しています。

◇ジャンプの創作技術を学べる講座を作ってみた

3つ目は、漫画創作技術を学べるオンリーワンの学校を作ろう、と思いました。
今年始めたジャンプの漫画学校です。

これは一見、アナログな企画ですが、デジタル時代だからこそ意義が大きいと考えた企画です。
いま、一つの漫画雑誌で成長のステップを踏んでいく新人作家さんがおそらく減っています。
存在感やカラーがはっきりした漫画雑誌が少なくなり、そして個人で多くの読者にWEBで作品を届けることができる時代だからです。
一方で、どうヒットを狙えばよいのか創作技術を学びたいという需要は大きくなっているのではないか、そう予想しました。
そこで、僕たちジャンプが50年以上積み重ねてきたノウハウや経験が新人作家さんに生かせるのではないかと考えました。
実際、ふたを開けてみたら、応募数もそのレベルも驚くべきものでした。
ジャンプの漫画学校は、まだ始まったたばかり(まだ第1期開講中)ですが、「作家が集まる」だけでなく、次に紹介する「成長できる」役割も担ってくれると期待しています。
今後卒業生から大ヒット作が生まれ、さらに新たな新人作家さんが集まるサイクルを作ることができるのか、答え合わせは来年以降となります。

■「新人時代、トライ&エラーを重ね成長できる」をどうアップデートしたか?

次に、漫画雑誌の機能の2つ目。集まった作家さんの力をどう成長させていくか。
「新人時代、トライ&エラーを重ね成長できる」機能のアップデート施策を紹介します。

週刊少年ジャンプには、新人作家の成長の促進と、ヒット企画を見つけるための、いろんな「ステップ」があります。
漫画賞開催、増刊や本誌の読切掲載や連載会議(コンペがある)などです。
コンペ落選の場合は編集部から、掲載の場合は読者からフィードバックをもらうことができます。
漫画編集者と作家さんとの打ち合わせは、それらの仕組みがあることで、高い精度を保ってきました。

では、どうそれらの機能のアップデートを試みたのか紹介していきます。

◇トライできる数を増やしてみた

まず、単純にトライの機会を増やしました。
「少年ジャンプ+」は、読切掲載の数がおそらく日本で一番多い漫画雑誌です。
昨年はなんと180作以上の読切を掲載しています。
WEB誌の特徴は、掲載量に制限がないことです。(ちなみに、読切掲載の数を増やすことは、創刊時からホソノ編集長(当時、副編集長)が強く推し進めた戦略でした。)
制限がないことは、雑誌としてはマイナスであるという見方もありますが、トライ&エラーをたくさん重ねられる事はヒット作を生むためのアドバンテージだといま僕は思います。
で、成果はというと、「作家さんの成長」につながっている感覚が非常にあります。

一方、これまでの漫画雑誌のトライ&エラーには、「ヒット企画が見つかる」役割も合わせて果たしてきました。

しかし、「ヒット企画が見つかる」役割は、トライの機会の増加だけでは、十分に果たせてはいないとも実は感じています。

多くのデータが取れるWEB漫画雑誌ですが、いまだ雑誌のハガキアンケートの方がヒット企画を見つかるきっかけになりやすい気がしています。

そこで、WEB漫画雑誌では、どんな指標や分析で判断すればよいのか、みんなが納得でき確度の高い判断基準を作りたいと考えました。

この点は下の方でまた触れます。

■「連載中、内容のチューニングができる」をどうアップデートしたか?

次に、漫画雑誌の機能の3つ目です。
週刊少年ジャンプでは、読者アンケートを分析の元、担当編集が作家さんと先の展開について打合せをするのか一般的です。
そして、人気が低迷すると、連載が終了し、新しい作品と入れ替わっていきます。

そこで、WEB漫画雑誌での読者アンケートに変わる読者の反応の取り方を模索してきました。

◇データの取り方と分析の仕方を工夫してみた(研究中)

創刊時、「少年ジャンプ+」では、「閲覧数」と「いいジャン!数」をシンプルに取って指標にしていました。
しかし、僕の頭に、色んな疑問が湧いてきました。
一つ例に出すと、たとえば「閲覧数は、サムネイルに大きく影響されるから、中身の評価が図りにくい」などです。
そこで、創刊から6年、色んな工夫を重ねてきました。
現在は、さらに様々な読者の反応やデータを取り、その分析の仕方も含め、複合的に判断材料にしています。(すみません、公の場では詳しく書けませんが…。)

しかし、未だ模索途中です。

どのWEB漫画雑誌より精度の高い読者の反応がわかるデータ収集と判断基準を早く作りたい。
この点、僕はとても重要だと考えています。それが作れるかどうかで、作家さんの成長とヒット企画の発見確度に直結してくるからです。

※余談ですが、読者の反応やデータの取り方の判断方法は、「漫画のヒットとは何か」「作品をどんなヒットに成長させていくか」に関わってきます。
かつては「漫画雑誌での人気」や「コミックスの部数」がヒットの指標として考えられてきました。しかし、今後は漫画のヒットの形は多様化していくはずです。合わせて、WEB漫画雑誌の形も思想によって単に読者層やジャンルに留まらない「多様化」が進むと思われます。
(このテーマは長くなるので、また別の機会に…)

◇作品同士の競争が働くよう設計してみた

WEBは掲載枠に限りがないのがメリットですが、もちろんデメリットもあります。

「週刊少年ジャンプ」は約20本という枠があり、必ず年五回の連載会議で作品が入れ替わるため、激しい競争が生まれ、それも作品のクオリティアップに働いてきました。

一方、創刊時の「少年ジャンプ+」では、基本的にTOP画面は更新順(同タイミングの更新作品は、編集部が順番を決定)に作品が並び、閲覧数など人気の指標は読者が認識しにくくなっていました。

しかし、何か別の形で「少年ジャンプ+」でも「週刊少年ジャンプ」の「競争」を再現できないか、と考えました。

そこで、その日更新される作品をTOP画面でランキング順(閲覧数順)で表示するように変更しました。そして、閲覧数など人気の指標の数字を目立たせました。さらに、ランキングによって、サムネイルに大小の差をつけることで、メガヒット作品の創出を促すだけでなく、作品同士の競争が働きやすくなるよう調整しました。

特に目新しくない施策かもしれませんが、これらは漫画雑誌(週刊少年ジャンプ)のシステムや考え方を、WEB漫画雑誌にアップデートしようと考えた結果です。
徐々に効果があがって内容のクオリティアップに貢献していってほしいと願っています。

■「作品のヒットをさらに広げられる」をどうアップデートしたか?

最後に、漫画雑誌の機能の4つ目。「作品のヒットをさらに広げられる」についてです。

前提として、「週刊少年ジャンプ」は、読者数が圧倒的なため、連載内容が面白ければ、話題が広がり、必ず映像化・舞台化・ゲーム化などを果たし、ヒットが拡大していきやすい、そんな凄い漫画雑誌です。
「面白いのに世の中に知られていない」、そんなよく聞く悩みは「週刊少年ジャンプ」にはほとんど存在しません。
(しかし、それに甘んじることなく、編集部や会社全体が、コミックスの装丁から販売・宣伝施策、メディア化まで戦略的にヒットを広げるためのあらゆる努力を重ねています。)

では、デジタルの時代に、どのように「ヒット拡大機能のアップデート」に取り組んできたのか、紹介していきます。

◇ジャンプをスマホで買って読めるようにしてみた

これは、「少年ジャンプ+」というより、「ジャンプ全体」としての施策ですが、単に紙だけでなくデジタルでもジャンプを読めるようにしました。
「少年ジャンプ+」では、創刊時より毎号「週刊少年ジャンプ電子版」を購入し読むことができます。
もはや、この記事を読んでいるほとんどの人が知っていて、当たり前だと思われていると思います。
しかし、「少年ジャンプ+」創刊の2014年当時、マガジンやサンデーなど多くの漫画雑誌は発売日にスマホで読むことはできませんでした。
当たり前のことですが、連載を一人でも多くの読者の目に触れてもらうことで、作品のヒットは拡大しやすくなります。
現在、数十万部が電子版で毎号購入され、作品のヒット拡大に貢献しています。

◇海外でもジャンプを読めるようにしてみた

昨年より、「週刊少年ジャンプ」や「少年ジャンプ+」の多くの連載を全世界で日本と同時に追えることができるようにしました。
「MANGA Plus」という海外向けのWEB漫画雑誌です。(日本・中国・韓国は閲覧不可)。
全世界で日本と同時にジャンプを読者に届けることは、紙ではできないけど、デジタルを使うと簡単にできます。
現在、英語とスペイン語で開始し、タイ語も少し前に始めました。さらに新たな言語での展開も現在模索中です。
こちらは、現在MAUが500万人を超える読者を集める場所にまで成長しました。
これまでは、アニメ化に合わせて海外でも人気上昇という傾向が強かったのですが、最近は「怪獣8号」のように、アニメどころかコミックスも発売前なのに海外で超絶人気、という連載もここから生まれています。
海外での人気はアニメ化を成立させる際にもポイントとなりますし、さらに「少年ジャンプ+」には、そもそも日本の単行本より海外版の単行本の印税の方が多い作家さんもいるなど、重要性はどんどん増していく傾向にあります。
(「MANGA Plus」については長くなるため、続きはまたの機会に改めたいと思います…。)

◇外からアイデアを募集してみた

紙だけでなく電子も、そして国内だけでなく海外も。と、読者を広げるだけでなく、もっとヒットを拡大できる発明はないものか。
そこで、「ジャンプ・デジタルラボ」(元・ジャンプアプリ開発コンテスト)を作り、企画を募集ました。
第1期では、「マワシヨミジャンプ」というミライアプリさんの企画を入選に選出しました。その後、実際にアプリを開発し、現在も好評配信中です。
これは、新たな漫画との出会いを読者に促すサービスです。
アプリを開くと地図上にいろんな単行本が落ちています。ユーザーはそれを拾って読むことができます。

かつて、電車の網棚で普段読まない単行本や雑誌を読んでみて、知らなかった漫画を好きになった、そんな偶然の出会いをした経験がある方もいると思います。そんな体験や発想をデジタルに落とし込んだサービスです。
この「マワシヨミジャンプ」は、試し読みして続きが気になった5割以上のユーザーがリアル書店や電子書店などで続きを購入した、というデータも出ています。
プロモーションとしてまさに作品のヒット拡大に大きな成果をあげていることがわかります。
さらに今年は、「マンガテック2020」というアクセラレータープログラムも開催しました。
このように、新しいアイデアを募集して、漫画雑誌としてヒット拡大の役割を果たせるような発明を生むため、僕たちはトライを続けています。

■ジャンプ・デジタルラボでお待ちしています。

ヒット作を創出し続ける漫画雑誌の機能を、どうデジタル時代に再現するか。
「少年ジャンプ+」としてやってきたことを簡単に紹介してきました。

おかげさまで、少年ジャンプ+はMAUがアプリとWEBを足して700万以上と、多くの読者に読んでもらえるWEB漫画雑誌となりました。
「SPY×FAMILY」「怪獣8号」とメガヒット作品も立て続けに生まれ、日本一のWEB漫画雑誌に成長しました。

しかし、漫画雑誌として更に役割を果たし、ヒット作を創出し続ける場になるよう、未だ挑戦をしている過程です。
達成度合いでいうと登山に例えるとようやく三合目まで登ったかな…という感触です。

そして、このブログで紹介してきたことは、多くの方々に協力してもらって実現できたことばかり。

まだ僕たちが気づいていない視点、思いもよらないアイデア、実現するための技術。「少年ジャンプ+」というプロジェクトに、協力していただける人、そして新しい企画を僕たちは求めています。

先ほど紹介した「ジャンプ・デジタルラボ」はそんな皆さまとの出会いの場です。
週刊少年ジャンプから50年強の歴史でめちゃめちゃ数多くの面白い漫画が生まれてきました。
面白い漫画を待ち望む読者と才能溢れる作家さんに貢献できる場所を、次の時代に向けて一緒に作りましょう!
技術やアイデアを持つ皆さまからの、「ジャンプ・デジタルラボ」へのご応募を心よりお待ちしています…!

https://appcompe.shonenjump.com