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映画「アイの歌声を聴かせて」を見てきた

 あまりこまめに映画情報を集める方でもないが、「アイの歌声を聴かせて」という映画の評判がとても良いことは知っていた。
 しかし、これもまたよくあることであるが「時間があったら見たい」という気持ちは往々にして見ないまま終わってしまう。ただ、今回の場合はそれを押しのけても見たほうが良いのではないか?という六感のようなものがあって近くの映画館に向かった。

 結論から言えば、「やはり見てよかった」というありきたりなものになる。どこが良いと思ったのか、思い出しながら書いていきたいと思う。
 一応配慮はするつもりだが、ところどころネタバレがあるかもしれないので気にする方は注意。是非劇場で見てください。

1. ベタな立ち位置のキャラクターたち

 まずはYouTube上にもあるロングPVを見てほしい。

 「今、幸せ?」という問いかけから始まり、変人扱いされるポンコツAIのシオンに振り回される学生たち。話し出しを聞いただけでわかる「あ、こいつは対立軸にいる悪役だな」という幹部らしき男。データ消去という不穏な単語、「もう一度会いたい」という"あぁ、やっぱり悪役に一回負けてるんじゃん"という妙な納得感。
 ミュージカルの如く始まる音楽に乗せてひとりぼっちのサトミに送られる「You've Got Friends 〜あなたには友達がいる〜」という曲と、声援を贈り手をのばす仲間たち。その中央に立ち、声高らかに歌い上げるAIのシオン。

 このPV、映画を見終わった後でもやはり思う。
 「よくあるやつじゃん」
 1から10まで「どこかで見たことがある」感じがする。
 しかし、これがこの映画の良さを生み出しているのだと思う。その理由は後述。

2. ポンコツでもAI

 シオンはポンコツのAIである。このことは歌の歌詞に耳を傾ければすぐにわかる。

 シオンはAI故に顔と名前を覚えることや伝えられた命令をこなすことについての能力は高い。一方で、映画冒頭では人間の感情の機微といった「対人関係でうまくやること」は殆どと言っていいほど学習できていない(こんな状態のAIがなぜ学校にいるのかは本編中で説明される)。
 「お前友達いないなら、自分から誘えよ」って人間に言われたら普通無視するか発言者がひとりぼっちになる気しかしないのだが、「ポンコツAIなら仕方ないな」という妙な説得感がある。
 ドラえもんが慌てていると無関係の道具をポケットから取り出し続ける荒れと同じですねこれ。

 この設定を単体で見れば「ポンコツなAIを助けるために人間同士が協力して、なんだかんだ仲良くなるやつか」と思ってしまいがちだが、この映画はところどころに「人間よりもAIが優れていること」「AIよりも人間が優れていること」を表現してくる。

 シオンには感情の機微は理解できないが、与えられた命令を実行しようとする。そして、シオンは映画冒頭から一貫してサトミに対し「サトミは幸せ?」と問いかけてくる。つまり、シオンは「サトミを幸せにする」という目標のためにあらゆる手段を用いて行動しようとする。
 「あなたはいま幸せですか?」なんて人間社会だと言われたら警戒する言葉トップ3に入るくらいだと思うんだが、AIという存在に言われるとどうしてかドキッとする瞬間がある。
 人間同士の交渉における小難しく難解なやり取りをすっ飛ばして、「サトミを幸せにするために行動する」という明確な行動指針は、それが例え的外れな結果になったとしてもどこか憎めないキャラクターを描いているように思う。トライ&エラーの過程で成功をつかもうとするのはとてもAIっぽい思考ですよね。

3. ベタだからこそ生きる世界観

 本編中、あらゆるタイミングでシオンは突然歌い出す。あまり詳しくないが、イメージできるのはディズニー映画とかミュージカルとかそういう文脈に近い。あらゆるタイミングで、感情のままに自由に思ったことを歌い上げる。
 これが、共感性羞恥に刺さる。
 
特に映画冒頭、どんな展開になるのか検討もつかないタイミングで歌出された時、思わず耳を塞いでしまいたくなるような恥ずかしさに包まれた。

 しかし、これすらも恐らく制作側は意図していることなのだろう、と見終わった今では思う。

 なぜなら、その場には自分と同じくらい恥ずかしがりシオンを止めようとするサトミがいて、何が起きたのかわからずポカンと口を開けたままのクラスメイトがいて、ふざけ半分で茶化すように盛り上げるお調子者がいる。
 恥ずかしい気持ちから世界観に入れないのではなく、恥ずかしい気持ちを持つことで(または、それ以外の感情であっても)自然と世界観の中に取り込まれている。

 どこかベタで聞いたことがあるような人たちが揃う集まりの主人公たちの中には、必ずどこかで聞いたことがあるような共感が生まれる。
 シオンを理解しようとするもの、シオンそのものに興味を持つもの、シオンを排除しようとするもの。これらが全て「AIという未知な部分が多い存在に対しての人間がとる行動」という損得だけでない行動で表現されている。

まとめ

 他にも表現したいことはたくさんあるんですが、とにかく一度見てほしいと思ってとりあえず書いています。
  見る前は結構侮っていたというか「楽しめたらいいな」と思っていた程度だったのですが、鑑賞後にはしっかりパンフレットも購入し円盤が出ればいいな、とワクワクしている自分がいます。
 公開日から1ヶ月ほどがたち、上映数も限られてきているという情報もチラホラ見られますが、久々に映画館で見る映画の候補としていかがでしょうか。



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