なにもの

俺は何者かになれる、そう信じて生きてきた。
そう思い込ませて生きてきた。
そんなの嘘だって当時から自分でもわかっていたさ。
あれは虚勢を張っていただけだ。
でもそんなもんでも張っていなきゃ俺は自分を信じられなかった。
前に進めなかった。

結局それは自分自身を信じていなかったし、前にも進めていなかった。そんな事当時からわかっていたさ。
分かったうえで思い込ませる当時の俺にはそれが必要だった。

でも嘘を信じ込もうとするうちに自分の中で淡い期待を持ってしまった。
何とかなるかもしれない。懸けてみたいと思ってしまった。心の底からだ。
これは洗脳かい?だが当然それももう解けた。そんなものはすぐに夢破れた。

もうそんなくだらないものすべて終わらせよう。ここは断崖絶壁、一歩でも踏み出せばすべてが終わる。なあ、そうだろう?
その後の世界?そんなものあってたまるか。いや、嫌だ。想像しただけでも寒気がする。

おい、何をそんなに笑っている。そんなに俺の姿が滑稽か?
いや、でももういいんだ、良い筈なんだ。もう虚勢を張る必要もない。

恥ずかしい姿をさらけ出しても何の問題もないはずだ。もう恐れる必要はないはずだ。

その笑顔をやめてくれ。なぜおまえはそんなに笑っている。俺はそんなにも無様か?

その笑みをやめろ!
激こうして掴みかかった手を取り押さえる誰かの手。

しまった!罠だ!
気付いた時には遅く、俺は飛び立つ自由を失った。
滑稽な姿に無様な姿を重ねて生きる日々、俺は何者かになってしまった。

俺は愚か者、飛び立つ自由を待っている。何者でなくてもいい、誰か助けてくれ。

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