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下田最前線⑮ミツバチが世界を救う

 高橋鉄兵君と初めて会ったのは、もうずいぶん前である。下田の山の上のみかんの耕作放棄地に、ミツバチの巣箱を置いて、養蜂家としてスタートしてまだ間もないころだった。
 かつて栽培されていたみかんは、木の皮が鹿に食われて枯れ葉て、無残な姿をさらしていた。
「でもここは、ミツバチにとってはいい場所なのです。農薬を大量に使う田んぼから離れていますし、風も強くない、日差しはご覧のとおりです」
 燦燦と照る太陽が、あたり一帯に降り注いでいる。遠くに太平洋まで見渡せる絶景のローケーションであった。
「人類は、ミツバチが絶滅すると、4年で滅亡すると言われています」
 ミツバチは植物を受粉する。農業には欠かせない生き物である。フランスでは、農薬によるミツバチの減少で、農業の危機に直面し、農薬規制が厳しくなって、そんな時代の要請が、オーガニック野菜の拡大につながっている。
「ミツバチは、循環型社会の要なんです。ミツバチを通して養蜂を行うことで、僕は、この下田に循環型社会をつくりたいんです」
 ミツバチの話を始めると、とつとつとしたもの言いながら、高橋君の話はやむことがない。そんな彼は三十代で、独身だった。
 僕は勝手に「ミツバチ王子」と名付けた。
 それから折を見て、彼の農園に何度も出向いた。軽トラで、仲間と共に開墾したガタガタ道を行く。
 2,3年前だったか、高橋君は、山の上のくぼみの平地に、念願だったレモンの木を植えていた。鹿対策として、広大な土地の周辺に、電気柵を設けてあった。
「下地にはクローバーを植えて、地面を保湿する。そこにヤギを放って、草を食べさせ、ヤギのフンが肥料となって、レモンの木が生育する。そしてレモンの花の蜜をミツバチが集めて、ハチミツができるんです」
「近いうち、ハチミツレモンが飲めるね!」
 そんな話をしたのだが、先週、高橋君が収穫したレモンを持ってきてくれた。
 その夜、さっそくそのレモンを絞って、ハチミツレモンではなく、レモン酎ハイをつくった。
 うまし!
 酸味がまろやかで、ぐいぐい行ける。無農薬は違うね!
 高橋君の高橋養蜂は、開墾、商品開発、販売、柵作りなど多くの人の賛同と協力を得て、成長している。
 そして最近、結婚もして「ミツバチ王子」も卒業した。
 おめでとう!高橋君!

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