若くして辞めていく美容師について

操作イトウです。今回は、美容師の離職率についてです。

美容界は、昔から離職率が異常に高い業界です。現場で働く平均年齢は20代後半〜30代前半と言われています。今は別の仕事に就いている元美容師が身近にいることも、珍しいことではありません。

今回、こちらの記事を拝見しまして。↓

非常に参考になりました。

執筆しているのがチェーン展開する会社の代表でありながら、現場目線。データに基づいて美容業界の負の連鎖が分かりやすく伝わる、とてもいい記事でした。
このような先導者に出会える美容師はとてもラッキーだと思います。ですが残念ながら多くの美容師や美容師見習いには、このような会社に出会えない現状があります。

僕自身、新卒で入社した一年目に、美容師をドロップアウトした経験があります。当時は、もう美容師は諦めてしまおう、とも思っていました。

今回は美容界の離職率、特に若い人材が多く辞めていることについてを、現役美容師としての目線、指導されたかつての自分の目線、指導する側になった今の目線を踏まえて、解説します。今回は言いたいことがあり過ぎて、いつもの挿絵は描けていません。

そしてこれは、僕からのメッセージでもあります。

美容師は素晴らしい仕事です。辛い体験をして美容師を辞めてしまった君も、まだ諦めてはいけない!

まずはデータを用意したかったのですが。

こちらは、近年の美容師免許の受験者、合格率、合格者数です。

表がちょっと分かりにくいですが、試験は年2回行われているため年度ごとに合算すると、毎年2万人弱の合格者がいることになります。

すごーくざっくり言うと、毎年2万人は美容師になっている、ということ。

と、先程の記事と同じようにデータを参照して離職率を解説したかったのですが、肝心の美容師の離職率など、細かいデータが出てきませんでした。おつむが足りない自分には、ちょっとどうやって検索したらいいのか分かりません。

では2年間も専門学校に通い、2年分の学費を「奨学金」の名目で未来の自分に借金してまで国家資格を取得した2万人もの若者たちが、なぜ簡単に美容師を辞めてしまうのか?

辞めていく理由は、昔も今も同じ理由です。

美容師はスタイリストになることで、自分の仕事に応じた報酬、歩合をもらえるようになります。スタイリストとは、「髪を切る人」「ヘアスタイルを作る人」のことで、当たり前ですが、お店が提供するヘアスタイルによって、お客様からお金を戴いています。

アシスタントとは、「アシストする人」に対する呼び方ですが、美容界では同時に「スタイリストになりたい見習い」の意味です。アシスタントの間はさながら丁稚奉公、低賃金で働くことを余儀なくされます。

特に都会では、一人暮らしでカツカツの生活。当時の僕は銭勘定ばかりしていました。同級生が大学を卒業して、それなりのお給料を貰えるようになっている頃、僕は食べていくのがやっとの日常でした。

また美容師は、国家資格を取得していても、技術レベル的にお客様を対応することができません。

詳しくはこちらをご覧ください↓

即戦力として施術をすることはなく、練習を重ねてお店のテストに合格した技術からお客様に施しています。そのため美容室は、アシスタントを教育する前提で採用して、テストを重ねて徐々に能力を習得させていきます。

教えるのは当然、先輩の美容師です。後輩を教えるために練習を見る時間を用意するため、それは少人数のお店であればあるほど、先輩側の負担も大きくなります。

そこで生まれるのは、体育会系な縦社会です。特に世代間の仕事に対する価値観のギャップは大きく、後輩側はパワハラ気質の洗礼を受けやすい。美容界では、先輩に一方的なマウントを取られて辞めた、といった現状が今でも多く聞こえてきます。

それは先輩側からすると、「美容師は気持ちの強い人しか続けられない」「自分もそうやって成り上がった」と、歪んだ美徳に昇華していて、結局若手の気持ちに寄り添えない。しゃにむに働くのがカッコいい、と思ってるのは大体40代以降の方ですが、若手にとっては、仕事よりプライベートの充実の方が重要です。

そうして、気持ちの切れた若手は退職することに。

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このようにアシスタントをぞんざいに扱う悪しき風習を、今も続けている美容室は少なくありません。社内ではアシスタントの力でお金を生み出しているわけではないため、若手は社内で弱者になりやすいのです。

アシスタントがいないと、売上は激減する

ですが、スタイリストが作業の1から10までやっていると、1日にできるお客様の人数が限られます。アシスタントが手伝うことで、例えば1日5人のところを10人、とできるようになります。

スタイリストがやらなければならない部分は、ヘアスタイルを作ることです。カットや最終的なスタイリングはアシスタントにはできませんが、シャンプーに始まりカラー、パーマなど、アシスタントの手を借りると圧倒的に時短になり、売上を上げることができます。

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ところが人材不足によりアシスタントが確保できなくなると、全ての作業をスタイリスト自身でやらないといけなくなります。お客様が10人が5人になれば、1ヶ月でアシスタント1人にかける人件費よりも、売上は減ってしまう。同じやり方を続けるには、お店にとってアシスタントの確保は絶対!でした。

形が変わらない時代背景について

カリスマ美容師ブームに湧いた90年台から00年台、美容師は若者に人気の職業でした。ファッションの最先端である表参道や原宿の美容室には就職希望者が殺到し、人気の美容室には熾烈な就活の競争がありました。

とりわけお洒落レベルの高い人、成り上がる気持ちの強い人が内定を獲得し、多くの就職希望者は淘汰されていきました(僕もその一人です)。

淘汰された大多数は、郊外の美容室に就職したり、地元で就職します。そうしてたくさんの美容室に新人が沢山の美容室に送りこまれてきたのですが、徐々にカリスマ美容師ブームの終焉、少子化による若者の減少によって、人材不足はダブルパンチで美容界にもやってきました。

郊外の美容室は、2010年台ごろには既にアシスタントの人材不足に悩まされていた為、改革を始めるように。より人材が確保できるような仕組み、ママさん美容師などの働きやすい仕組み、アシスタントに頼らない仕事の仕方、アシスタントの給与アップ、高圧的な先輩の意識改革、新しい経営の仕方も現れるようになります。

しかし2020年現在、原宿や表参道には、変わらず沢山の就職希望者が押し寄せています。かつてのような膨大な人数ではないため、僕らの世代では淘汰された層に当たるマインドの若者も、今では多くが内定できるように。

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ですがやり方の変わらない人気店では、当たり前のように若手がドロップアウトし続けています。それは内定者のメンタルの強さの問題ではありません。

国家資格なのに、何もできないのはなぜ?

そもそも国家資格を取得したのに、なぜ就職先で長い長い修行が始まるのか?もちろん、試験課題にはカットなどの実技も含まれています。

ですが、国家試験の技術の課題は、現場で必要な技術が全然反映されていません。

昭和初期に制定された「美容師免許」は、特に技術面において、今に至るまでほとんど形を変えていません。10年以上現場で働いている僕が、全く使わなかった技術が試験課題となり、それをマスターしないと資格が取れない。じゃあそこに費やした時間は、学費は、なんだったのか?

リアルに必要な技術が試験課題になれば、アシスタント期間は圧倒的に短く済みます。ですが現在に至るまで「美容師免許」は、技術の習得を現場に丸投げしている、といって過言ではありません。

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多くの美容学生は、2年間の学校生活がお金を払って青春を謳歌しただけの時間だったことに、就職してから気付くのです。

この矛盾だらけになってしまった資格は、国家資格なので法律に守られています。現場で働く一美容師には抗えず、大き過ぎる美容学校ビジネスにお金と時間を費やすしか、美容師への道はありません。

詳しくはこちらを↓

先輩が後輩に教える難しさ

そもそも美容室は圧倒的に個人経営が多く、チェーン展開する美容室は少ないです。これは独自性を売りにしたいファッション業界であるが故に生まれた感覚で、「ここでしかできないヘアスタイル」を売りにしたいからだと言えます。チェーン店はヘタ、ダサい、といったイメージが強くあり、同じく個人店の多いラーメン屋さんの感覚とよく似ています。

ですが先述した通り、少人数のお店であればあるほど、指導にあたる先輩側の負担は大きくなります。

多くの美容室では、1日の営業が終わった後に練習を始めます(これが「残業」なのかはグレーゾーン。煙に巻いていますが、このお題は改めて書きます)。
先輩は美容師としての技術は身に付いていても、教育についてはゼロからのスタートです。先輩美容師は先生になろうとしていた訳ではなく、教わって技術を得たプロであっても、教えるプロではない。

指導の上手な先輩に巡り合えればいいのですが、教育に対して関心を見出せない先輩もいます。小さい組織の中で、ポジション的にやらなきゃいけないからやってる。すると、次第にやっつけ仕事に。

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後輩の「分からない」の理由が分からず、これがどうしてわからないの?と、先輩から「出来が悪い」レッテルを貼られる。私は自分の時間を割いて教えてやってるのに、という高圧的なスタンス。

そんな先輩に指導される後輩が、不憫でなりません。

これは立派なパワハラです。「最近の若者は根性が足りない」といって自分の指導法を省みることもなく、もしくは自分も同じように指導されたかつての先輩のやり方しか知らないため、「教えるってこういうことでしょ?」と勘違いしているのかもしれません。

「美容室」は井の中

僕はアシスタント時代、そういった先輩の指導に振り回され続けたこともありました。僕は僕のアシスタント時代を美化するつもりはありません。むしろ恥ずかしい、悔しい失敗談ばかりです。だから、後輩には同じ思いをして欲しくない。

当時は、そういうものなんだと、半ば諦めの気持ちもありました。何度も辞めてしまおう、と思っていました。まさに井の中の蛙。

この歳になって、人並みに収入を得るようになって、世の中が見えるようになって、やっぱりこの業界の在り方は間違っていると、今になって胸を張って言えます。

現状、「良い指導者に巡り合えるかどうか」でその人の美容師人生は変わってしまいます。

そもそもの教育機関の改革、国家資格の改革がなされなければ、根本的な問題は解決できず、今年も多くの新卒美容師が離職し続けています。

既にドロップアウトした人も、今まさに辞めようか悩んでいる人も、「環境を変える」ことでもう一度夢を掴みに行って欲しい、そう願っています。


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