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アレのその後につきまして

自分のことを知っている皆様、本当にご無沙汰しております。知らない方は、はじめまして(知らない人はこんなところ見に来ないか……)。世間ではついに2度目の緊急事態宣言も発令されることになりました。こんな乱筆に関心を持たれ、目を通してくださる皆様も、感染症対策に十分に注意してそれぞれの日常を送っていますでしょうか。

そんな中、自分はある決断をしまして。
2年前に会社を退職し、陰ながら続けていましたプロジェクトを、いったん、諦める事としました。
その経緯や、決断にいたる思いについて、本稿でご説明できればと思います。

これから記す事はまったくの私事で、自分の権利物ではない物事については問題の無い範囲で書かざるを得ませんので、非常にわかりにくい部分も多々あります。
もしよろしければ、お付き合いくださいませ。

■語るも涙 ここまでの経緯。■

あの発表からもう3年以上が経ちます。
その後何の発表もできずにいる事、本当に申し訳ありません。

すでにみなさんお察しの事かと思いますが、発表のあと、開発に問題が発生し、プロジェクトは凍結を余儀なくされました。
当然、自分も抵抗はしましたが経営判断としてはやむなし、そんな状況でした。

ゲーム業界では経営判断としての開発プロジェクトの凍結それ自体は残念ながら珍しいことではありません。このときの決議についても、完全新規タイトルだったら自分もすんなり諦めていたと思います。ですがこの時はすでに、オマージュ元の作品のファンの方々に向けての発表を行った後であり、自分だけの問題ではなくなっていました。

まさかあのタイトルの名前が現代で聞けるなんて、ウソでしょ? そんな想いで駆けつけてくれた熱心なファンの涙。人前に出るのがあまりにも苦手なのにお守りを握りしめてステージに立ってくれたササキトモコさんの涙。各界の著名人たちも、あの発表に驚き、期待と、不安と、大きなリアクションを返してくれていたのです。ファンのひとりとしてあのプロジェクトを立ち上げた自分としては、そんな仲間たちのリアクションのひとつひとつが本当に心強かったし、気持ちが引き締まったし、何を差し置いてもそこに応えたい、という気持ちでした。

この決議は経営判断としては正しいが、自分たちの都合だけで終わらせていい話ではない。
同じ立場のままでこの決定に抗う事はできまませんので、自分は退職をして別の道を探し始めることにしました。

■退職、それから。■

プロジェクトの目的はふたつ。
かつてのファンに、オマージュ元の傑作『ルーマニア』シリーズを思い出してもらう事。
そして現代の人にも、こんなすごい作品があるんだと知ってもらい、復活させる事でした。

ひとつめの目標は、実は発表をした段階である程度は達成したように感じていました。
それまでずいぶん長い事、あまり語られてこなかった『ルーマニア』や、「セラニポージ」という名前が、発表をきっかけにSNSなどでちょくちょく見かけるようになったのです。
うれしい事に、それは現在でも続いています。

もうひとつの目的である新しいファンを生み出すには至っていないけれど、かつてのファンは応援してくれている。これを支えに、ひたすらに当たれる会社にアポを取り、営業を続けていました。
もちろん、会社を辞めた時点で、作りかけていた成果物は自分の権利物ではありませんので、あくまでも新規企画の持ち込みとして。「もしプロジェクトが動かせるようでしたら、自分が以前作り貯めていたものを、費用を支払って買い取ることができるかもしれません」といった提案です。
突然のアポイントにお付き合いくださった各社の皆様、意思に賛同し、粘り強く会社の上層部に掛け合ってくれた担当の方々、相談に乗ってくれた諸先輩方には今も感謝しております。
また、権利に抵触しないとはいえ、ともすれば前職の印象を悪くしかねない営業を黙認してくれていた前職現場スタッフの判断にも感謝しております。

営業開始から1年半は本格的に仕事を入れてしまって営業に専念できなくなるのを恐れ、定職を極めずにかつての経験からweb記事などを書き、貯蓄を切りくずして戦っていた……のですが、いきなり家庭用ゲームを1本開発などという飛び込み企画がそうそう簡単には走ることはなく、求職手当も終わり、貯蓄も尽きた2020年初頭。新型コロナウィルス感染症が全人類にもれなく影響を及ぼすこととなりました。


■泣きっ面に、コロナ。■

覚えているでしょうか、最初の緊急事態宣言下の渋谷を。スクランブル交差点にも人の姿が見えず、市場からマスクが消え、早朝から行列ができての争奪戦。
テレワークでビデオ通話が一気に普及し、テレビを見れば撮影不能から来る再放送の連続。多くの命が失われ、何年もの議論を経て招聘したオリンピックが延期になる未曾有の事態。
新型コロナはいまだに感染拡大を続け猛威を奮っていますが、流行が始まった当初の日本は――いえ世界は、突然降りかかったウィルスと、その得体の知れない恐怖に、感染拡大がさらに広まった今よりもさらにピリピリして、沈んでいました。
社会は変わったんだ。否応なしにそれを実感する巣ごもりの日々が続きました。
田舎から上京して以来、3ヶ月もの間一度も電車に乗らなかったのは、初めての事でした。

当然ながら、この間、企画を持ち込む営業活動は完全に停止。
ただでさえ会社機能が麻痺しかかっているのに、普段していない出社をして、持ち込み企画を見るなんてあり得ない。そんな時期でした。

それから約1年。自分個人としてはコロナが流行する、まさに直前に見つけた仕事で、どうにか現状の暮らしを維持してはいますが、その間、プロジェクトについては1日たりとも忘れることはできませんでした。ネットで関連ワードを見るだけで、どうにもできない現状がつらくて仕方なかった。「スマイリーを探して」を聴きながら、溶けかかったアイスが今にも棒から落ちてしまいそうになってるのを眺めている、そんな時間が続きました。時間が経つこと自体が、本当に辛かった。


■新しい日常? 決断の経緯■

この1年で社会は大きく変わりました。
外を見れば、急遽増産されたマスクをつけずに歩いている人はひとりもおらず、レジャー、エンタメ、仕事、教育……生活に関するあらゆる事が変化しています。
コロナはさらなる感染拡大を続けていますが、社会は歩みを止めるわけにもいかず、どうにか新しくなった日常を築こうと人々は営みを続けているのが現状。二度目の緊急事態宣言発令にも、街は前回と同じゴーストタウン化はしていません。コロナの恐怖と戦いつつ、細心の注意をしつつも、社会を動かす。
これが、2021年の日常です。

そんな社会に滑り込むようなギリギリのタイミングで請けた仕事で再安定させることができた自分の生活の中、ふと自分の作ってきた物を振り返って、思うことがありました。
“もしプロジェクトを買い取れたとして、現在の社会にあの作品をリリースして良いのか?”。

2020年、テレワークが続く中で幾度となく見つめ直したオマージュ元タイトル『ルーマニア』は、自分的には、等身大で冴えない大学生の日常を描く「クールな」ゲームだったのだと思っています。
ドラゴンもお姫様も出て来ないし世界も救わない、地味なゲームでしたが、その先鋭的なセンスでまとめあげられた世界観とシステムには、当時の時代感の、半歩先を行っている空気がありました。見かけは冴えないけれど、自分には堪らなくクールな作品であると感じたのです。

そんな中、企画立案から足かけ5年もねばって来たあのゲームを見返すと、主人公(お察しかと思いますが、ネジくんではありません)はマスクをせずに帰宅し、動画サイトでは無くテレビを視聴して過ごしています。もちろんスマホは使っているし、柄にも無いライブ配信をやる羽目になるシーンもあったりするのですが、それも2021年現在の感覚とはどこか違った感じで……。

コロナで変わったこの時代に、しかもステイホームをテーマにしたゲームで、5年前に作られた世界を復活させる。そんな作品に、あの時代感を反映した空気が生まれるでしょうか。そうして復活させたそれは、今の人たちに『ルーマニア』を誤解させることにはならないか。あのクールさに痺れた、かつてのファンを失望させることにならないか。
それだけは、してはならない。
そう決断し、まずは関係各位に考えを打ち明け、了承を得て、この乱筆での公表に踏み切りました。

もちろん当事者なので、キャラクターにも、お話にも、並々ならぬ思い入れはあります。ぱっと思い返してみても、企画当初から“若者や女性にも好かれる、現代っ子なんだけどおじさんでもムカつかれない人物像を……”とか、“かわいいんだけど、決して萌えキャラじゃなく……”とか、“生活感で人間っぽさを感じるように……”なんてふわっとした無理難題に応えて素晴らしいキャラクターをデザインしてくれたフライ先生や、楽しくて、ちょっと不思議で、それでいて胸に残るシナリオを~、なんていう欲張りな要望に粘り強く付き合ってくださった北島行徳さんをはじめ、ずーっと部屋の中にいながらにして世界の広がりを感じさせてくれるテレビやラジオ、インテリアなどの作成に協力してくれた皆様、有償・無償を問わず惜しみない協力をしてくれた人たちみんなの顔が思い浮かびます。退職し、営業を続ける自分に「まだ何か協力できることがあれば言ってほしい」と声をかけてくれた方も大勢います(というか、関わったほぼ全員がそう言ってくれていました)。
そして誰よりも、何度も作戦会議にお付き合いいただき、親身になってくださったササキトモコさん。本当に、本当に感謝しております。


期待してくれていた皆様、応援してくれていた皆様には、重ねてお詫び申し上げます。
実現することができませんでした。
今からあれを作り直すことは、きっと皆様の期待を裏切ることになってしまいます。
一から十までお前の勝手だなと思われる方もいらっしゃるとは思いますが、申し開きの言葉もございません……。
これにて、凍結プロジェクトの復活は諦めることとします。










ただ、これこそ個人的な思いでしか無いのですが、プロジェクト立ち上げ当初の目標自体を諦めたわけではありません。
あれ以来『ルーマニア』はちょくちょく話題にのぼるようになったし、Vtuberの実況プレイで新規層の目にも触れた、なんて話も聞きます。自分にまだできることはあるのか? そんな事は思いつつも、前回とはまた違った形で、みなさんに共感してもらえる活動ができたらな、とは思っています。こんな文章は書きたくなかったし、哀しくて、つらいんだけど、展望だけは前向きなんです。いろいろあったけど、日常は続いていくので。


あ、今回のために書き下ろしていただいたセラニについては、大丈夫。
プロジェクトに何が起きてもリリースできる状態にはしてありますので!
ササキトモコさんに余裕ができ、気が向くことがあれば、まだ未発表な曲を入れていつかリリースされることでしょう。うん、控え目に言っても、神曲ですよ。
セラニのためには、自分もいっさいの協力を惜しみません。できることがあれば、なんでも言ってください、そうお伝えしてあります。
こんな結果を作り出してしまった自分に言う権利は無いんですが、次はそちらをご期待いただければ。SNSにもう一度、「やっぱセラニだよなぁ……」が溢れる日を夢見て。


最後に重ねて、
この度は期待に沿うことができず、申し訳ありませんでした。
応援、本当にありがとうございました。


文責:大地将



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