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論文紹介:核酸ワクチン開始後のANCA関連血管炎の新規症例数の増加について

今日は国内から核酸ワクチン接種が始まった後の自己免疫疾患新規発症増加についての報告を紹介しよう。

以前から核酸ワクチンと自己免疫疾患のリスクについては何度も紹介してきた。一方で、その因果関係というのは証明が非常に難しいということも説明してきた。それは自己免疫疾患自体がそもそも稀な疾患であり、真実としてその発症率が2倍になったとしてもそう簡単には有意な差として現れないからだ。それ故に、私の主張としては数年単位で新規発症者が増加する自己免疫疾患があれば、それについて後ろ向きコホート研究を実施するなどして関連を示唆していく流れになるだろうと述べてきた。

今回の報告では、核酸ワクチン投与が始まった後に抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の新規発症者が県内で増加したというものだ。
「Increase in the number of new cases of ANCA-associated vasculitis in the COVID-19 vaccine era」
(Clin Immunol. 2023 May 30;252:109656.)

この仕事自体は地域に限定されたものなのでこれ単独では何とも言えないし、新規発症者に関するワクチン接種情報などは紐づけられていないので関連も言えないのだが、以前から言っている通り、「この数年で自己免疫疾患患者が増加する」という事象が起きている可能性は無視できない。今回の報告は、今までの症例報告とは少し違い、全体の新規発症者数についての増加傾向を報告したという点で注目すべきものだということだ。

このAAVという疾患は、ANCAの産生を特徴とする自己免疫性血管炎であり、その発症機序は不明である。そして、核酸ワクチン接種後のANCA産生やAAV発症はそれなりの数の症例が報告されており、ひとつの自己免疫疾患リスクとして注目されてきた。この研究では、新規発症のAAV患者を特定し、日本におけるmRNAワクチンプログラムの開始前と開始後の年間新規AAV症例数を比較している。その結果、日本の長崎県における年間の新規AAV症例数は、COVID-19ワクチンプログラムの開始以降、約1.5倍に増加しており、COVID-19 mRNAワクチンとAAVの発症との間に関連性がある可能性が示唆されたとしている。

繰り返しになるが、因果関係の証明にはいくらか追加の検証が必要であるが、このような視点からの研究が進んでくれば関連を示唆するデータが蓄積されていくと期待できる。核酸ワクチンによる自己免疫疾患発症リスクの正しい検証が進むことを切に望む。

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