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核酸ワクチンと皮膚免役関連疾患

昨年、何回か皮膚免役について記事を紹介しながら概説したが、皮膚免役と関連した炎症性皮膚疾患は新型コロナウイルスのワクチン接種後に悪化・発症したという報告が多く存在する。そもそも炎症性疾患の中でも皮膚疾患の症例報告が多い理由としては、「皮膚疾患」は認識・診断が容易という点が挙げられるため、実際に皮膚症状が出やすいのか、皮膚症状が多く認識されているだけなのかは分からないが、いずれにしても炎症性疾患の発症と核酸ワクチンの関連を考察していく上で重要な知見であることに変わりない。今回は皮膚疾患と新型コロナウイルスワクチンについてまとめたレビュー論文を紹介し、その関連について考えたい。

論文は以下のものである。
「The Impact of COVID-19 Vaccination on Inflammatory Skin Disorders and Other Cutaneous Diseases: A Review of the Published Literature」
(Viruses. 2023 Jun 23;15(7):1423.)

この論文では過去に報告された症例などを総括し、新型コロナウイルスワクチン接種後に発症または増悪した皮膚疾患(扁平苔癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、膿疱性汗腺炎、水疱症、湿疹、蕁麻疹、アトピー性湿疹、円形脱毛症、凍瘡、バラ色粃糠疹、白斑など)について網羅している。因みにここでは注射そのものに起因すると思われる反応は除外されている。

論文でも最初に取り上げられているが、特にPsoriasis:乾癬についての報告が多いことが分かる。乾癬は比較的患者数の多い疾患であるため、偶然の発症を含め、報告が多くなるのも自然ではあるのだが、後述のアトピー性皮膚炎(より患者数が多い筈)と比べても多いことを考えると、特有の免疫反応と関連している可能性は否定できない。乾癬は代表的なT細胞性皮膚疾患であり、T細胞(特にTh17細胞)の関与が盛んに研究されている。同時に、CD8T細胞による細胞性免疫も関連していることは明らかであり、これは常に危惧している核酸ワクチン特有のCD8活性化も貢献し得る機序である。核酸ワクチンが持つ特有の免疫系活性化能や特徴的な機序は免疫系疾患の発症リスクであるということを改めて認識すべきである。

また、アトピー性皮膚炎や天疱瘡、蕁麻疹など液性免疫=抗体に依存した皮膚症状の方向も多く存在する。これも核酸ワクチンによる免疫活性化が貢献している可能性もあるが、同時にもう一つ考慮すべき点が存在する。以前述べた事はあると思うが、新型コロナウイルスのSタンパク質に対する抗体は自己抗原に対しても交差反応する可能性が示唆されている(Clin Immunol. 2020 Aug; 217: 108480.)。その抗原の中にはcollagenやclaudinと言った皮膚組織に存在する抗原も含まれており、皮膚組織への交差反応が皮膚炎症の原因となる可能性がある。別の研究でも同様の示唆はなされており(Front Immunol . 2021 Jan 19:11:617089.)、この様な交差反応のリスクも考えなければならない。但し、この様なウイルス抗原との交差反応に関しては核酸ワクチンに特有のものではなく、既存のワクチンやウイルス感染に関しても同様のリスクと考えられる。

いずれにしても、核酸ワクチンが特有の免疫学的リスクを含んでいることを認識し、自己免疫疾患を含めた炎症性疾患のリスク保因者に対する使用は新規自己免疫疾患発症のリスクに繋がる事を考慮に加える必要がある。そして、レビュー論文にも記述されている通り、ワクチン接種と皮膚反応に関連する発症機序を調査し、「リスクのある」患者を特定し、予防策を講じる必要がある。また、臨床医は核酸ワクチン接種後にいくつかの皮膚症状が新たに出現したり悪化したりする可能性を念頭に置き、これらを迅速に認識・治療すべきである。

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