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保育園学級閉鎖中の取るに足らない話

先日起きたささいな出来事の話を誰か聞いてほしい。

先週保育園でコロナ陽性が出たため息子のクラスが学級閉鎖(2回目)になったのだが、息子自身も濃厚接触者になり先週から私と2人でずっと家にこもっていた。1回も外に出ることなくこもっていた。本当にずっと家にいた。ひたすら家にいた。
ほぼ毎日やってくるヤマトと佐川の配達だけが外界との唯一の接点だった。置き配だったけど。

そんな中息子が咳をし始めた。
熱はないし元気もある。でも咳してる。鼻水も出てる。(実を言うと鼻水は1ヶ月ぐらいずっと出てる)

まだ数日休みだし熱はないので様子を見ようかとも思ったが、これで学級閉鎖明け登園して陽性でした〜とかなったら再閉鎖待ったなしである。笑えない。
私は病院に行くことを決めて、濃厚接触者のルールに従ってまずは保健所に電話した。
繋がらない。もう1回かける。繋がらない。かける。繋がらない。
午前中思い出すたびに電話をかけ続けたが繋がらなかったので、かかりつけ医に直接電話して診察と検査をしてもらうことになった。

病院は15時に予約がとれた。
あとで病院に行くからね、と息子に説明して、とりあえず昼ご飯を食べることにする。
メニューはおにぎりとチキンナゲットとトマト。
炭水化物・タンパク質・ビタミンのバランスを意識した素晴らしいメニューである。素晴らしく雑。でも全部食べたからなんでもいい。

予約の時間まではちょっとだけ仕事をしたり適当に遊んだりして過ごしたのだが、部屋の中は荒れ果てていた。
ただ普段からキレイに片付いているとは言い難いので、いつもより3割程度ひどいぐらいである。いや4割か。
たぶんおととい掃除機をかけた時はもうちょっとマシだったような、ずっとこの状態だったような…

さらにいいかげん遊ぶネタが尽きてきた私は、数日前ネットでボールプールを注文していた。小さいテントにボール150個がセットでついたものだ。
室内遊具とかトランポリンとかいくつか検討した結果、予算とスペースを考えたらこれが最善と判断したのだが、ちょっと判断力がおかしくなっていたのかもしれない。しかも「ボール150個じゃボリューム足りないかも」と思ってさらにボール150個を追加注文していた。

まだ届いていないがもう1〜2日もすればこの部屋にはテントと300個のボールが加わるのだ。

正気の沙汰ではない。

注文した翌日には「アレ必要だった…?」と思い始めていたが、ボールプールを置くために片付けたらいいんだ!と前向きに捉えることにした。
そうだこの服を着るために痩せたらいいんだ!そうだこの器具を買ったんだから運動したらいいんだ!そうだこの思考で何回失敗したと思ってるんだ!


…そして話を戻して15時少し前、私と息子は病院に向かった。
息子は病院に行きたくないとゴネていたが、ウイルスがいないか検査するんだよと説明し(プライムビデオではたらく細胞をエンドレス再生していたおかげですんなり理解した)、病院が終わったら自販機でジュースを買う約束をしてなんとか家を出た。

病院は感染者&濃厚接触者だけが通ると思われる裏口ルートからビニールに囲まれた中を診察室に入室する厳戒態勢だったが、検査の時に号泣&鼻血が出た以外は特に問題なく診察を終え、とりあえず普通の風邪薬をもらって帰宅した。約束していた自販機のジュースも買った。
検査結果は2〜3日後ということだった。

家に帰った私は夕ご飯の準備をし、その間息子はジュースを飲みながらはたらく細胞を観ていた。平和な時間だった。


「こぼしちゃった」


そう、息子が呟くまでは…

…え?こぼしちゃった?えーっと今こぼす可能性があるのはジュースだな?どの程度…?

振り向くと、気まずそうにこっちを見る息子と目が合った。

まだほとんど飲んでいなかった350mlのペットボトルは床に倒れ、中身はすべてぶち撒けられていた。

「オゥ…OK……オォウ……オーゥケーィ……」

私は生粋の日本人なのだが、こういう時突然欧米化してしまうことがある。グローバルな視点で冷静に物事に対処したいという深層心理の表れかもしれない。

床にはジョイントマットを敷いていたのでカーペットに染み込むなんていう事態は避けられたが、このジョイントマットには大きな問題があった。
よく「汚れが染み込まないから拭き掃除もカンタン!」みたいなコピーで売られているが、拭き掃除がカンタンなのは汚れが固形・あるいは狭い範囲に留まっている場合に限る。

ジョイントマットをある程度の期間使っているロングユーザーの方なら共感していただけるのではないかと思うが、このマットは大量の液体をこぼした時の掃除がとてつもなくめんどくさいのだ。マットをジョイントしている隙間という隙間から液体が漏れ出し、マットと床の広範囲がヤられる。キレイにするにはマットの上の家具などを退けてマットを外し、両面拭き、さらに床も拭き、乾かしてからマットと家具を元に戻すという作業をしなければならない。

息子のトイレトレーニングをしていた時期に3回ぐらいおしっこを投下されてうんざりした私は、マットとマットをガムテープで留めて隙間を塞ぐという対策をとっていた。見た目が悪いとかそういうことはこの際置いといてほしい。
ただ全部塞いでしまうとそれはそれで扱い辛いので(ジョイントでもなんでもないただの巨大マットになるので)、おしっこに狙われやすい子どものイスの下あたりのマット数枚だけを繋いでいた。
今回ジュースが落下したのはそのイスの下を少しズレたあたりだった。

確認しなくてもわかる。

あのジュースは確実に床まで侵食している。

息子は「イスに座って飲めばよかったのにねぇ、ちょっとこっちで飲んでたら当たっちゃったみたいでぇ」と反省のような言い訳のような弁を述べていた。

幸い床に落ちていたおもちゃや本や洗濯物は無事だった。
私はマットの上にあったものを押しやり、テーブルを退けて、表面のジュースを拭いてからマットを外した。
…外そうとしたのだが、ちょうどマットとマットをつないでいるガムテープ下にもジュースが広がっていて、ガムテープを剥がすか繋がったマットを丸ごと全部外すかしないと拭けそうにない。

私はガムテープを剥がした。

数ヶ月の間上から何度も何度も踏まれたガムテープは驚異的な粘着力でマットに貼り付いており、テープと共にマットがちぎれた。

オゥ…OKOK……大丈夫、このマットはちょっと枚数多めに買ったからまだ使ってない余りが1〜2枚あったはず…
このちぎれたマットはもう廃棄しよう、気にせず剥がせ。

私はマットを引き裂きながらガムテープを剥がし、床とマットを拭いた。ジュースがけっこうベタベタしていて水拭き数回と乾拭きが必要だった。

拭いたところが乾くまで少し待つ。
ふと部屋を見渡すと、ジュースをこぼしたところを中心に2m四方ぐらい床が剥き出しのブラックホールのような空間ができ、周りを囲むようにモノが散らばっていた。宇宙のようだ。私は太陽。



そういえばもうすぐボールプールが届くんだった。これはボールプールを置くスペースを確保したと考えればいいのかもしれない。まぁこんなテーブルの真横に置いたら邪魔でしかないけど。なんでもいいから前向きに考えるんだ…前向きに……

私は逃避しそうになる意識を繋ぎ止めて乾いたマットを元に戻した。
ちぎれたマットの代わりの新しいマットもクローゼットからとってきた。
今敷いてるマットはちょっと色褪せてるから多少色の差が出るかもな…と思っていたが、差が出たのは色どころではなかった。

大きさが違う。新しい方が2cmぐらい小さい。

ジョイントするところが全然ハマらない。

ついでに厚みも2mmぐらい違う。

なんで??と思ったが理由は簡単だった。数ヶ月踏みしめられたガムテープが剥がれなかったように、数年踏みしめられたマットは伸びて薄く広くなっていた。サイズが変形していたのだ。

ちぎれたマットは戻らない、新しいマットはこれしかない、ハマらなくてもハメるしかない。
私はマットを力ずくで押し込んだ。

マットが浮いた。

銀河の中心でマットが浮いた。



なんだこれは。どこだここは。私の家だ。
なんでこんなことになったんだ…

コロナのせいか。

新型コロナのせいなのか。

いやこれを新型コロナのせいにするのはちょっと横暴じゃないか。

たまたま新型コロナが流行ったとき家にこもっていたらなんか部屋が散らかって病院行くついでに買ってきたジュースが全部こぼれて片付けようとしたらマットがちぎれてマットが浮いて宇宙ができた、ただそれだけのこと…

騒ぐようなことじゃない、浮いたマットには何か乗せればいい。
そう、明日あたり届くボールプールでも乗せればいい。

私は心を落ち着けて浮いたマットを無理やりガムテープでつないだ。


翌日、2〜3日かかると言われていた検査結果がもう出たらしく病院から電話がかかってきた。結果は陰性。
休診日なのに先生が直接電話で伝えてくれた。
保健所も電話がパンクしているようだったし、関係部署は相当忙しいんだろうなと思う。
息子がジュースをぶち撒けて私がマットをちぎってビッグバンが起きていた間も、診察したり検査したり諸々調整したりしてくださっていた方々、ありがとうございます。

そして検査結果を聞いた少し後にボールプールが届いた。

ボールプールは予想以上に大きく(サイズ確認したつもりだったけど直径でしかイメージできてなかった)、邪魔なんて概念を超越するレベルで邪魔だった。ここまで邪魔だと使わない時は片付けるしかないので逆によかったかもしれない。
もちろんテーブル横になんて置ける代物ではなかった。

息子はというと、大喜びしてボールプールの中で暴れまわっている。
破れるのも時間の問題だろう。

浮いたマットの上には私が毎日せっせと乗って押さえている。
この1週間で体重が1.5kgぐらい増えていたので、マットが馴染むのも時間の問題だろう。

ついでに新型コロナウイルスが落ち着くのも時間の問題だろう。と思いたい。

保育園再開まであと2日、そんな学級閉鎖中の取るに足らない話である。

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