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NHK「100カメ」のポケモン世界大会を見ていたら、グラットン「ワーク・シフト」を思い出した

2023年にはじめて日本で開催された「ポケモン世界大会」に集まるいろんな人を描いたNHKの「100カメ」を観た。

ポケモンのことは何も知らないから、カードゲームのこともビデオゲームのことも知るわけがない。でも、これがなかなか面白い番組だった。

「おーっ!」と思ったのは、世界大会に集まる参加者がオンライン上のプレーヤーとしては相手のことを知っているけど、リアルに会うのがはじめてなので、「あなたでしたか!」的な挨拶を交わしている場面。

リンダ・グラットンワーク・シフト」で語られていた、「未来の働き方が中世の職人の世界に逆もどりするかも」という話を思い出したからだ。

中世の職人の働き方のポイントは3つ。

第一に、場所が大事だということ。「学ぶべき点のある人たちのそばに」身を置き、「どこで生活し、どういうコミュニティの一員になるか」が、どんな仕事に熟達することになるのかを決める。

第二のポイントは時間。手っ取りばやく学習できる教材が増えたとはいえ、「高度な専門技能を身につけるためには、やはりかなりの時間をつぎ込む必要がある」

そしてネットワーク。「同様の技能をもつほかの人たちから自分を差別化する必要」があるからだ。

が、産業革命以降、こうした世界は姿を消すことになる。

大量生産を実現するために、「職人と農民の多くが都会の工場で働くようになり、人々は工場の歯車になった。機械の普及にともない、仕事は最小単位に分割されて、限られた技能しかない人物でも―ロボットのように機械的に働くことさえいとわなければ―働けるようになった」からだ。

ところが、テクノロジーの進化とともに、こうした中世の職人の世界がオンライン上に生まれてきているとグラットンは語る。

オンラインゲームの『ワールド・オブ・ウォークラフト』の愛好家たちは、中世の職人のように行動している面がある。

プレーヤーは「ギルド」をつくり、ほかのプレーヤーとゲームの中で行動をともにする。ギルドのそれぞれのメンバーが自分の専門分野の技能を磨き、やがてその道を究めるまでにはる。さまざまな専門分野の持ち主がすぐそばにいるので、ギルドの一員は自分の専門分野に習熟した後、ほかの専門分野に移動したり脱皮したりしやすい。

このゲームのギルドは、専門技能の連続的修得を促す場として機能しているのである。

中世の職人の世界では、物理的に時間と場所を共有し、リアルな関わり合いの中でネットワークを維持する必要があったけど、いまではそうした「場」がオンライン上につくられている、という話だ。

「100カメ」に描き出される、年齢も国籍も異なる参加者どうしの一体感は、まさに「ギルド」的なきずなの強さを感じさせるものだった。

SNSの発達(やコロナ禍にはじまるリモート会議の増加)で、「オンライン上の知り合い」と初めて出会う機会も増えてきたけど、相手の技能レベルだけでなく、(おそらくプレー中の性格のあり方まで含めて)全人格的に関わり合っていることから生まれる「つながり感」がすごいなと思った。

もちろん、この番組の面白さはそれだけじゃない。最高だったのが、小学6年生のプレーヤー、ハナちゃんのお父さん。

親子でカードゲームをはじめて2年。最初の大会でボロ負けして泣いたハナちゃんを、父のリューイチさんが説得。「カードを通して、あきらめない心を学んでほしい」との意図だったそうな。

自宅でプレー中のハナちゃんにいろいろと指示を出し、大会では「気持ちが大事だぞ」みたいな声をかけるリューイチさん。

だが、ハナちゃんとのゲームには負けつづけているし、大会で娘の試合がはじまると、誰よりもそわそわして居ても立ってもいられなくなる(そのくせ「気持ちが大事だぞ」とか言う)。

で、試合に勝ってもどってくる娘を「すごいじゃん!」と抱きしめようとしたら、すかさず娘にかわされる(チラ見する係員)。

職人には仕事のやり方を職人から学ぶのであって、かならずしも親から学ぶわけではないということがよく分かった。

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