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思い入れのない1000万円よりも、思い入れのある10万円に賭けたらユーザーに使われるプロダクトを作ることができた話

この記事は2022年3月9日に開催されたG's ACADEMY UNIT SAPPORO様によるオンラインイベント「10億円以上の資金調達を達成した北海道起業家に学ぶ 〜医療系スタートアップのビジネスモデルから資金調達までのイロハ〜」に株式会社HOKUTO代表の五十嵐が登壇した際の内容を元に記事化したものです。
モデレーター:森田 宣広 氏(株式会社MILE SHARE 代表取締役社長)

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株式会社HOKUTOとは・・・
医学情報の入手・保存・検索ができる医師向け臨床支援アプリを開発する医療系スタートアップです。2021年12月にシリーズAにて8.25億円の資金調達を実施し、累計調達額は11.25億円(2021年12月末日時点)となりました。

1000万円かけたプロダクトが誰にも使われなかった

本日はイベントにご登壇いただきありがとうございます。今五十嵐さんは医師向けのプロダクトを開発されていますが、HOKUTOでは最初から医療に取り組まれていたわけではなかったんですよね?

五十嵐:最初の事業はペットでした。学生時代にシリコンバレーに行ってアップルやグーグルといった巨大IT企業のオフィスを見学する機会があったんですね。元々学生起業していてインターンのマッチングサービス等で収益を上げていたのですが、「ITで何かでかいことやりたい」と考えるように。帰国後、当時の共同創業者が「出張トリミングサービス」というアイデアを出してくれました。
シリコンバレーで知り合ったチャットワーク創業者の山本さんがエンジェル投資家でもあったので、そのアイデアを持っていったところ出資を即決していただきました。そのままペット事業を始めることになったのですが、共同創業者が社長をやりたくないと言ったので自分が代表を務めることになり、「株式会社HOKUTO」が誕生しました。

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ペットと飼い主への思いを持った共同創業者がプロダクト開発を主に担当し、自分は人集めやお金集めなど主に経営面を担当することに。ユーザーに使われるプロダクトを作るため、ベンチャーキャピタルから出資を受けることにしました。

学生起業家でベンチャーキャピタルから調達するのは珍しいと思うのですが、どのような経緯でそういう意思決定になったのでしょうか?

五十嵐:起業している周りの友人がベンチャーキャピタルから出資を受けていましたし、チャットワークの山本さんもそのように調達していたので、自分の中では当たり前という感覚がありました。
また、ユーザーに使われるプロダクトを作るためにはいくつか仮説検証をする必要があり、そのためにはある程度の資金が必要でした。
様々なベンチャーキャピタルを回り、結果としてEast Ventures様から1000万円超を出資していただけることになりました。出資が決まった時は嬉しい反面、預かったお金を100倍以上にして返さなくてはいけないというプレッシャーがありましたね。

なるほど。そのペット事業はどうなったのでしょうか?

五十嵐:大失敗で終わりました。一年くらい頑張ったのですがユーザーは全く増えず、一緒に働くメンバーもは就活を始めたりと段々離れていきました。
ペットに対する思いを持ち、事業アイデアを出してくれた共同創業者も辞めてしまいました。実は自分自身ペットを飼ったことがなかったので、共同創業者が辞めたこの事業に思い入れを持った人が社内に一人もいなくなってしまいました。
事業はボロボロで、1000万円あった残キャッシュは50万円にまで減り、一緒に働いてくれる人もいなくなり、それまで自分を支えていた根拠のない自信も失ってしまいました。

10万円で作ったプロトタイプが後の事業基盤に

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事業は失敗して残キャッシュは50万円、働くメンバーもいなくなり、自信も喪失...その状態からどうやって立て直したのですか?

五十嵐:残った50万円で今の事業につながる基盤を作れたのですが、それが自分の原体験だと思っています。
実は、ベンチャーキャピタルに出資してもらった先輩方の中で、最初から成功している人ってほとんどいないんですね。ほとんどの人が一回目失敗して、二回目で何とか事業を軌道に乗せていました。
だから、自分も二回目まではチャレンジしようと心に決めていました。一回目の事業で失敗したことを反省して、それを二回目で活かそうと。

一回目の事業で失敗だったことは二つあります。
一つは、事業への思いを持てなかったことです。自分自身ペットを飼ったことがなく、「なぜ自分がこの事業をやらなきゃいけないのか?」という問いに対して明確な答えを持てず、違和感を持ったまま事業を進めていました。あったのは「会社を潰したくない」という思いだけ。でもそういった違和感は周囲に伝わるもので、一緒に働くメンバーの心が時間と共に離れていくのが分かりました。
もう一つは、ユーザーの声を聞かなかったことです。ユーザーヒアリングはプロダクトへの思いを持った共同創業者が担当していて、自分自身はユーザーの声に耳を傾けたことがありませんでした。今思えば当然のことですが、ユーザーインサイトがなければ、ユーザーに使ってもらえるプロダクトを作ることはできません。

だから、次のチャレンジでは「自分自身思い入れが持てる領域」で「ユーザーの声を聞く」ということを徹底的にやろうと決めていました。ユーザーに使ってもらえるプロダクトを絶対に作るという気持ちで挑みました。

それで医療領域に参入されたのですね。そもそもなぜ医療なのでしょうか?

五十嵐:私の父親は医師で、弟は医学生です。親戚に医師が多い家系に育ち、幼い頃から医療を身近に感じてきました。医療領域で事業をやる以上、恥ずかしいことはできないし、親兄弟から何やってるんだと思われるプロダクトは作れない、と思ったからです。

なるほど。それで、次の事業はどういうきっかけで生まれたのですか?

五十嵐:久しぶりに会った友達の話がきっかけです。彼は札幌の大学に通う医学生で、研修先の病院を探すためにわざわざ東京まで足を運び、病院の説明会に参加していました。医学生には就活に役立つ良いサイトがなく、就活情報を集めるのに苦労していると言うのです。

「医学生が本当に必要とする就活サイトを作れれば、ユーザーに使ってもらえるプロダクトになる」とそこで閃いたのです。

そして、極力キャッシュをかけずにいかにプロダクトを作れるかというチャレンジが始まりました。
まず、東京に就活に来る医学生を家にタダで泊まらせ、ユーザーヒアリングを重ねました。
そしてユーザーに使われるサイトになるかどうかを検証するためにLPを作ることに。デザイナーの友達に焼肉を奢り、2時間でサイトのデザインを作ってもらいました。LP制作サービスを使って、コーディングは自分で行い、何とか就活サイトのプロトタイプを作りました。

ここまででかかったお金は10万円くらい。ここで気づいたのは、ペット事業の時は1000万円投下しても誰にも使われないサービスしか作れなかったけど、工夫すれば10万円でプロトタイプを作ることができる、ということです。これは大きな発見でした。

そのプロトタイプをどのように成長させていったのでしょうか?

五十嵐:実はそのプロトタイプは全くユーザーに刺さらなかったんです。なけなしの残キャッシュの中から5万円を使ってFacebook広告を打ったのですが、登録はわずか5人。自分のFacebookアカウントで投稿しても医学生からの登録はありませんでした。
これはまずいと思い、ユーザーのニーズを深堀するために医学生の友達が通う札幌の大学に行きました。

ユーザーに会いにいって、ヒアリングを改めて行ったんですね。

五十嵐:はい。元々は病院からのスカウトが届くようなサービスをイメージしてプロダクトを作っていました。でも改めてユーザーに聞いてみると、彼らが欲しがっているのはもっと生々しい情報だということが分かりました。自分が思っていたようなサイトではなかったんですね。これはイチから作り直す必要があるな、と思いました。

でも思わぬ収穫がありました。学食に居座ってヒアリングをしていると、続々と人が集まってきて、自分が作っているサイトが出来たら学年LINEで投稿してあげる、と言ってくれる人が何人かいたんですね。
これは全国の医学部を回れば全国の医学生が登録してくれるんじゃないかと思い、残りのお金を全部使って全国82の医学部全てを回りました。

全国の医学部を回る...お金は足りたんですか?

五十嵐:正直きつかったですね。友達の家に泊めてもらったり、いらない服をもらったりしながら何とか乗り切りました。
全国の医学部を行脚し東京に戻ってきた時には、初めは5人だった会員が500人になっていました。そこでエンジェル投資家にプレゼンしたら1000万円がすぐに集まりました。驚いたのは、ペットの事業の時には出資してくれなかった投資家もその時は出資してくれたことです。一度のチャレンジで諦めてしまう起業家も多いので、投資家は起業家の諦めない姿勢も見ているんだなと気づかされました。

ペットのプロダクトは失敗に終わりましたが、この時の医学生向けのプロダクトは今はどうなっているのでしょう?

五十嵐:今は「HOKUTO resident」として展開しており、医学部就活生の8割が使うサービスに成長しました。弊社では現在医師向けの臨床支援アプリを主力のプロダクトとしていますが、HOKUTO residentのユーザーがそのまま臨床支援アプリを使ってくれたりと、重要なユーザー獲得基盤となっています。また、一度ユーザーに使われるプロダクトを作れたという実績は大きく、その後の資金調達にも大きな影響を与えてくれました。

スタートアップとして存在し続けるために

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最後に、スタートアップとして存在し続けるために一番大事だと考えていることを教えてください。

五十嵐:一番と言われると難しいので、いくつか答えさせていただきますね。
一つは、自分が思い入れを持てる事業に取り組むことです。「なぜ自分がやらなきゃいけないのか?」という問いに自信を持って答えることができるのか、は重要だと思っています。最初のプロダクトには思い入れを持てず、結局誰にも使ってもらえませんでしたし、メンバーも離れていきました。
今作っているプロダクトは強い思いを持って取り組んでいますが、ローンチから2年で全医師人口の10%である3万人の医師に使っていただいています。そして何より、自分の思いに共感してくれた優秀な現役医師やメルカリの創業メンバーといった最高の仲間に囲まれて仕事ができています。

もう一つはユーザーの声を聞くこと。プロダクトを作っていると、自分の作りたい像やこだわりが出てきてしまうものですが、私自身はやり方に固執せず、ユーザーの欲しいものをどうやれば作れるかということにフォーカスしています。そのためにも、ユーザーヒアリングには全社的にこだわって取り組んでいます。

最後に一つ加えるとすると、やはり手数の多さでしょうか。スタートアップは時間もキャッシュもリソースが限られた状態で大きなチャレンジを成し遂げなければいけません。そのためには、やれること全部やるという気合いで取り組むのが良いのではと思っています。

プロダクトへの思い入れ、ユーザーの声を聞くこと、手数の多さ、これはスタートアップに限らず、事業に取り組むにあたって大事なことだと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました。


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株式会社HOKUTOでは、「より良いアウトカムを求める世界の医療従事者のために」というビジョンに共感していただける仲間を募集しています。ご興味ある方は是非弊社採用ページをご覧ください。
採用ページ:https://corp.hokuto.app/recruit

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