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自然を食べる

夕方どこかのお宅からカレーの匂いが漂ってきて、娘が「パパ(の)カレーたべたい!」と言い出した。

うちのカレーは夫が作る。
というか、子どもを産んでしばらくしてから私は料理ができなくなった。

料理は、家事の中でも最も頭を使う作業だと思う。
飽きのこない献立、主菜に副菜に汁物、栄養のバランス、家族の好み…。食材を腐らせないようにうまく使って、調味料を工夫して、私たちと娘の食べられるものは違うから別に用意して…。複数の鍋を同時進行。これを煮ている間にこれを切って、下ごしらえをして…。
食器の準備から後片付けに至るまで、タスクが多すぎる。書いているだけで頭が痛くなってきた。

もともと刺激を多く受け取りやすい上に一つ一つを深く考える性質の私は、いくつもの作業を同時進行するマルチタスクが苦手だ。
娘の安全に常に気を配りながら、彼女の予測できない行動に対応し続けるだけで精一杯なのに、その上家族みんなの料理まで作るエネルギーは私にはなかった(掃除と洗濯と、娘の簡単な食事の用意はできた)。

幸い夫が料理好きだったので週末に作り置きをしてくれたり、私が本格的に体調を崩してからは義母や実母に助けてもらってきた。

それでも、心のどこかでずっと「いつかまた作れるようになりたい」と思っていた。
娘に母親の料理をもっと食べさせてやりたいし、一緒におやつを作ったりもしたい。
だけどそれ以上に、「自分で食べるものは自分で用意する」という動物としての根源的な自信みたいなものを取り戻したい。

そんなことを思っていたら、少しずつ余裕ができてきたのか、久しぶりに包丁を握れた。
手に掴んだ旬の野菜からじんわりエネルギーが伝わってくる。
「ああ、楽しいな」
しかも、できたものを食べられる幸せ。

料理は一番身近で根源的な、自然に触れる行為だ。
たしかそんなようなことを料理研究家の土井善晴さんが言っていた気がする。
見て触って嗅いで味わって…私たちは他の生き物のエネルギーをいただいている。

できるところからでいいから、自分の体が食べたいと感じるものを、美味しいと思える形でいただけるようになりたいなぁ。

©︎綿草ひろこ

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