春に押されて
先週から急に暖かくなって陽射しの強い日が続いていたけど、森はいつも涼しくて静かだ。木の根元に腰を下ろし、ほっと息を吐く。
このところ、娘が幼稚園に入る関係でバタバタしていて、スケッチは毎日していたものの、文章を書いたり絵を発表したりする気持ちにはなれなかった。
それでも、幼稚園グッズに押す名前のハンコを彫ったり、新しい暮らしの道具を揃えたり(近所に引っ越すので)と、案外楽しんではいた。
そうしている間に、陽射しも木々も鳥たちも、もうこんなにはっきりと春を告げていたんだなぁ。
春は変化の季節だ。
草花は芽吹き、鳥は囀り、地中から虫たちが出てくる。
人の世界も、卒業に入学に就職に引越しに新年度に…何かと慌ただしい。
昔はそういう勢いに圧倒されて、ついていけないこともあったけど、今はちょっと心が浮き立っている。それだけエネルギーが戻ってきたということかなぁ。
この間、しばらくの間一人で歩いていなかった91歳の祖母が、家族の目を盗んで命がけの冒険(散歩)に出てしまったことがあったけど(家族は大変)、本人はヘロヘロでも満足そうにしていた。
春はすべての命に平等で、何か行動を起こさせる力があるんだなぁ、とそのとき思った。
これから、どんな暮らしが待っているんだろう。
3年間ずっと一緒だった娘は初めて私のもとを離れる。
寂しいし不安もあるけど、最近力を持て余すようになった彼女を見ていると、ちょうどいい頃合いなんだとも思う。
私は少し余裕ができるといいなぁ。料理もしたいし、絵も描きたいし、まずは暮らしを心地よくしたい。久しぶりに友だちにも会いに行きたいなぁ。やりたいことがたくさんある。
少し前まで、外に出たり人と関わったりすることを恐れていた自分が、今こんなことを考えているのが不思議だ。
娘が私を育て、外に引っ張り出してくれているんだなと感じる。
休みたいときは休めばいいし、慌てる必要は全くないけど、何かやる気に満ち溢れているときは、その思いが失速する前に行動に移した方がいい。
私もやってみよう、春に背中を押されて。
©️綿草ひろこ
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