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映画「パーフェクト デイズ Perfect Days」を見て来ました!

映画「パーフェクトデイズ Perfect Days」を見て来ました!

「パーフェクトデイズ Perfect Days」2023年日本・ドイツ(@109シネマズ箕面)

公開3日目に鑑賞。大阪駅前にこの映画の大きな看板が設置されていた。新阪急ホテルの壁面に。

劇場は8割の入りだった。役所広司さんがカンヌで俳優賞を受賞された作品。上映時間2時間2分。この映画は何と16日間で撮影が行われたらしい。かなりの強行スケジュールで78歳?になられたベンダース監督も67歳になった役所広司さんもほんま大変やったのではないでしょうか?こうした人たちの活躍を見ていると61歳の私などまだまだ「ひよっこ」やなと感じるのです。平山という男の役を役所さんが演じる。東京都の渋谷区だと思うのだがトイレ掃除を日々行っている。朝、近所の寺社だろうか?の周辺の道路を掃き清める音で目覚める役所さん。ここには目覚まし時計などはないのだろう!木造2階建ての旧いアパートで長屋のように1階と2階がつながっているという住宅。1階には小さな台所と奥に物置になったような部屋。2階には和室が二間ある。外光が射すベランダ側には平山が集めて来た植物が古い日本の湯飲みなどに植えられている。2階のもう一つの部屋で平山は日々を過ごす。あるのは中くらいの衣装ダンスのみ。そして手作りのような本棚が置かれそこにはたくさんの古本と音楽のカセットテープ、ラジカセなど必要最低限のものが置かれている。今風に言うとミニマリストな生活と言うのか?鴨長明の方丈記のような暮らし。極限までそぎ落とされた平山の生活は禅僧の修行を思わせる.
美術の詳細はスタッフの桑島さんの記事がここに!

 朝起きて、1階の台所の流しで歯を磨き、トイレ掃除のつなぎを着て鍵や財布、小銭などをポケットに入れる。玄関を出たところに駐車場があり、平山はそこにある自販機で毎朝缶コーヒーを1本買う!平山の営業車兼自家用車は古いダイハツの軽バンのハイゼットの紺色。ここに、トイレ掃除の道具が満載されている。運転席で缶コーヒーを空け一口飲んで、おもむろにダッシュボードの上にある棚から数本の音楽のカセットテープを選んでカーステレオに入れる。音楽が流れ出し、その曲をバックに東京スカイツリーのある墨田区の自宅から首都高経由で渋谷区のトイレの掃除に向かう。
 そのカセットの音楽の中の1曲が映画の題名のような「Perfect Day」というルー・リードの曲である。また、アニマルズの「朝日のあたる家」やニーナ・シモンズの「Feeling Good」などなど。ベンダース監督がパリテキサスという映画で流れたライ・クーダーの曲に合わせて米国の町を車で走るシーンを髣髴とさせる。ベンダースの映画にはどこか異邦人が異国の地で彷徨っているような雰囲気がある。
 本作の脚本はベンダースとの共同脚本として高崎卓馬さんの名前があった。予備知識ゼロで行ったので。それを見て「ええええっ」あの高崎さんこれにかかわられているのか!?と驚いた。電通でクリエイティブの仕事をされていてその名声は私たち制作会社の人間たちはみんな知っているお名前の方。
 また本作の制作にはCM制作会社である「SPOON」がかかわっている。あの会社がこの映画をやっているというのがとても腑に落ちた。SPOONさんらしい映画と言えるかも知れない。大桑P小林Pの名前がクレジットにあった。

 そもそも本作はユニクロの柳井さんの息子さんで現在、取締役をされている柳井康治さんが個人プロジェクトとして行われているTokyo Toiletを渋谷区と行うこととなり、その一環でこの映画が始まったことを見た後に知った。いろんな建築家やデザイナーの人たちが渋谷区に新たな美しくデザインされたトイレを設置しようと言うプロジェクト。ガラス張りで人が入って扉に鍵がかかると透明だったガラスが曇りガラスになり用を足せるというトイレは有名になったので知っている方もおられるのでは?この10数年で我が国のトイレの美しさは世界最高レベルにあるのではないか?と感じる。それは福岡や札幌に行っても感じるし、今住んでいる関西の京都や大阪、神戸なども同じ。シャワートイレなどは日本じゃなければ生まれなかったのかも知れない。
 役所広司演じる平山は毎日、そのトイレの掃除を行っている。作業は早朝から始まり夕方には終わり帰宅する。自転車で近所の銭湯の開店を待ち、風呂に入って汗を流し、自転車で隅田川を渡って浅草の地下街にある居酒屋でチューハイとささやかなつまみを食べる。夜は早めに帰宅し自宅で古本屋で買った本を読み、床に就く。その日常の繰り返し。
 小津映画の特徴は反復である、とは多くの批評家がおっしゃっていること。そこにヴィム・ベンダースという異邦人の独特な視点が加味された。禅僧のようなストイックな生活からあふれ出るまさに「完璧な日」が日々過ぎていく。実は「完璧な日」とは何もない日常のことを言うのかも知れない。と、この映画は教えてくれる。
 休日の平山は洗濯物をコインランドリーに持って行き洗濯し、その前後で犬山イヌコが店番をやっている古本屋で100均の本を買う!パトリシア・ハイスミスの短編集「11の物語」や幸田文の「木」など。週に1回のペースで石川さゆりがやっている近くにあるスナックに行くのが唯一の楽しみという日常。
 この平山の日常に時々、他者が介入して平山の人生のペースが変化したりする。豪華な共演者の数々は見てのお楽しみ。その他者との関係から平山の人生が見えてくる。
 役所広司が以前出演した「素晴らしき世界」という西川美和監督の映画を思い出す。あの作品の中でもムショ帰りの元ヤクザの男である役所広司は規則正しい生活をしてまじめに障害施設で働く職員を演じていた。
 また、日々の繰り返し、という意味ではジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」という映画も想起させる。何事もない日常が最高に幸せなこと。       それを映画で描いてもいいんだ!というのを最初にやったのは小津安二郎監督だったのかも知れない!それは小津監督が戦争に従軍したこと、そして仲の良かった松竹の監督の同僚たちを戦争で亡くしたことなどはその大きな原動力だったのではないだろうか?小津安二郎監督生誕120年そして没後60年の年に、さらには命日である12月にこの映画が公開されたことは決して偶然ではないだろう。
 最後に、ずいぶん昔MBSの長寿番組「情熱大陸」で画家の石井一男さんのことを取り上げていた。石井さんの詳細は後藤正治の著書「奇蹟の画家」に詳しい。清貧で美しい生活を行っておられるその姿が本作の平山を演じる役所広司に重なって見えて仕方がなかった。


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