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【検証コロナ禍】東京都の重症者病床使用率100%? 厚労省の発表値は都と大きく乖離

 厚生労働省が昨年12月以降、毎週発表している東京都の重症者病床使用率が、著しく不正確である可能性が高いことがわかった。
 厚労省は、今年1月以降、都内の重症者病床使用率が80%以上で推移し、一時期「113%」と発表。ところが、都が発表していたのは最も高い時で「62%」だった。
 原因は、重症者の定義・基準が厚労省と東京都で異なることによる混乱だ。厚労省は毎週、各都道府県に重傷者数と重症者病床確保数の報告を求め、その回答を発表している。都は、重症者数については厚労省の基準で報告していたが、重症者病床確保数については東京都の基準で報告していたとみられる。厚労省も問題を認識し、都に修正を求めているが、是正されていない。
 だが、NHKをはじめとする大手メディアは、厚労省が出している不正確な情報をもとに報道しているが、都は是正せずに放置しているのが実態だ。
(冒頭写真=2月19日放送のテレビ朝日「報道ステーション」より。重症者病床使用率が「100%」となっているが、要注意だ)

重症者病床使用率に2〜3倍の開き

 東京都内の重症者病床使用率は、厚労省と東京都がそれぞれ発表している。昨年11月以降の発表情報を比べると、大きく乖離していることがわかる。
 例えば、12月29日時点では、厚労省の発表だと76%、東京都の発表だと38%だった(厚労省の資料は1月5日に発表。都は12月30日のモニタリング会議で発表)。

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 厚労省の発表のピークは1月26日時点の113%。重症者数が確保病床数を上回ったかのように見える。
 ところが、都の発表のピークは1月19日時点の62%で、その後は低下し、2月16日時点で28%。しかし、厚労省発表値では86%と約3倍もの開きがあった。
 なお、最新の2月22日時点の情報では、都の発表では重症者76人。重症者病床使用率は23%になっている。

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(1月26日時点の東京都の病床指標率は「113.4%」と表記していた。厚生労働省の1月29日発表資料より一部抜粋。赤の丸印は筆者)

国と都で異なる重症者基準

 なぜ、これだけの食い違いが起きているのか。厚労省の新型コロナウイルス対策本部の医療体制班の担当者に聞いた。
 すると、担当者は、東京都から報告を受けた「重症者数」は厚労省の基準でカウントしたものだが、「(重症者用)病床確保数は厚労省の基準ではなく、東京都の基準によるものだと(都から)説明を受けている。現在、厚労省の基準で報告するように求めているところだ」と明らかにした。
 要するに、厚労省が発表している東京都の重症者病床使用率は、分子は厚労省基準の重症者数だが、分母は厚労省基準の重症者病床確保数ではなかった、ということを意味する。

 そもそも「重症者」の基準が厚労省と東京都で異なることは、かなり以前から指摘されていた問題だ(2020年8月25日付NHK記事:なぜ「重症者」の基準が2種類に?参照)。この食い違いは今も解決されていない。
 厚労省は、ICU等で管理しているか、人工呼吸器やECMOを装着している患者を「重症者」と定義
 東京都は、人工呼吸器やECMOを装着している患者を「重症者」と定義し、それに該当しなければICU等で管理していてもカウントしない方針を貫いている(都の説明資料)。
 ただ、都は、厚労省に対しては、厚労省基準での重症者数を別途、報告している2020年8月19日付東京新聞参照)。
 他方で、病床使用率を算出する際の分母となる重症者病床確保数については、厚労省の基準で報告していないことが、今回判明した点だ。

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 しかし、厚労省の発表資料を詳しく調べてみたところ、東京都は昨年(2020年)9月29日時点から現在まで、重症者病床確保数をずっと「500床」と厚労省に報告し続けていたこともわかった厚労省の発表資料資料一覧ページ参照)
 これは東京都が独自に発表していた数値とも異なる
。東京都がモニタリング会議で報告したのは9月29日時点の病床確保数は150床だった。
 では、東京都が厚労省に5ヶ月近く報告し続けてきた「500床」は何を意味するのか。都福祉保健局感染症対策部の担当者に約1週間前から質問をしているが、「都議会で忙しい」という理由で、回答は得られていない。

厚労省は「重症者病床確保数」が不正確と認識したのは1月中旬ごろか

 厚労省の担当者は、都が報告し続けてきた「重症者病床確保数」が厚労省の基準とも、実態とも異なることを認識しているとみられる。
 担当者にいつ頃から問題を把握しているのかを尋ねたが、明確な回答は得られなかった。
 だが、厚労省の資料を詳しく調べれば、問題を認識したとみられる時期は推測できる。
 1月12日分の発表資料(15日更新、19日差し替え)

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(1月15日時点の東京都の病床使用率は空欄で、東京都が発表している「56%」を注記していた。厚生労働省の1月19日発表資料より一部抜粋。赤の丸印は筆者)

 それ以降の発表資料には都の病床数・使用率は再び掲載されるようになったが、「重症者数は本調査のために国基準で集計されたものであり、確保病床数と単純に比較できない」との注釈が毎回入るようになった
 厚労省の担当者によると「東京都のところだけ空欄にしておくわけにいかず、注記を入れて掲載することにした」という。
 このことから1月中旬ころには厚労省としても問題を認識し、国基準での重症者病床確保数を出すよう都に要請しているとみられるが、1ヶ月近くたった今も改善されていない。

 整理すると、こういうことだ。
 東京都は国基準の重症者数を報告していたが、病床確保数(昨年9月以降ずっと同じ500床)については国基準ではなかった。
 したがって、これを分母にして病床使用率を算出しても、国基準の重症者病床使用率が算出されるわけではない。控えめに言っても、厚労省が発表している都の重症者病床使用率は、信頼できるデータではない
 厚労省もその問題を認識しつつ、注記を入れて不正確なデータを発表し続けている。

大手メディアの特設サイトにも不正確な情報

 この信頼できない厚労省の発表値を、大手メディアは、そのまま「東京都の重症者病床使用率」とみなして報道してしまっている(冒頭写真参照。2月12日公表資料に基づき「100%」と報道)。

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NHKの特設サイトより。過去のデータもさかのぼれるが、厚労省のデータと同じものが使われている。2月3日時点の東京都の重症病床使用率は「113%」と出てくる)

 NHKの特設サイトは、この不正確なデータをもとに、東京都の病床使用率は、緊急事態宣言の対象となる「ステージ4」(国基準で病床使用率50%以上の場合)と報道している。
 日本経済新聞の特設サイトなども同様だ。

 東京都の基準では、重症者病床使用率は23%、全入院患者でみた場合の病床使用率は39.8%(2月22日現在)。「ステージ3」(病床使用率25〜50%)かそれ以下の水準になりつつある。

 東京都は、昨年春の緊急事態宣言中にも、病床確保数を正確に発表せず、極めて逼迫しているかのような発表を繰り返して、延長の流れを作ったことがある(InFact=東京都、病床確保数も不正確と認める 緊急事態宣言延長前2000→3300床に修正)。
 今回も、都からは大幅に状況が改善しているデータを発表しているにもかかわらず、厚労省への不正確な報告を是正せず、結果として大手メディアの不正確な報道を招いても、見て見ぬふり、訂正しようともしない。
 小池百合子知事は、緊急事態宣言の解除をできるだけ先延ばししたいとみられ、医療提供体制が逼迫した状況は変わらず、解除を検討する段階にはないと強調している(時事通信参照)。

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東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

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