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BOARD GAME RESORT GAW JOURNAL #01 「はじめまして、GAWです」

2024年5月1日、ついに開館を迎えたボードゲームリゾートGAW。
Webマガジン〈GAWジャーナル〉では、GAW発起人であるアナログゲームマスターあだちちひろと、共同発起人の樋口太陽がGAWに込めた思いを語るほか、時にはゲストをお迎えしてボードゲームの知られざる可能性を様々な角度から探求・発掘していきます。
第一回目は、「GAW」とはいったいどんな施設なのかを紐解く回。

都心から電車や車で約2時間半。八ヶ岳の大自然に囲まれたGAWだからこそ体験できる、“大人のための”ボードゲーム空間とは――。

構成・文/GAWジャーナル編集部


GAWのシンボルの一つでもあるボードゲーム棚には約600個のボードゲームが並ぶ。

一日一組。完全予約制。
フルオーダーメイドのボードゲームプログラム


あだち:ついにGAWが完成しました! 

太陽:ついに、だね。

あだち:第一回目のGAWジャーナルは、GAWのことをちゃんと知っていただく回にしたいんだけど、GAWに込めた想いって本当に本当にたくさんあって……。話し出したら止まらなくなるけど大丈夫かな。

太陽:しかも、GAWのことを説明するのって本当にむずかしい。僕たちが知る限り、世界中、どこを探しても同じコンセプトの施設はないし、「ボードゲームリゾート」と言うと、「リゾート感あふれる施設で、好きなだけボードゲームができる」と思う人も多いと思う。

でも、GAWはちょっと違う。ちょっとというか、かなりか。GAWでの過ごし方を具体的に紹介していくのがいちばん分かりやすいかな。

あだち:OK! まず、GAWは完全予約制、一日一組様限定のご案内になります。そして、予約完了後、私と事前のオンラインミーティングをさせていただきます。
 
太陽:事前ミーティングが必須のボードゲーム施設とか、聞いたことないよね。

あだち:ミーティングでは、今まで遊んだことのあるボードゲームの種類や、利用される方々の関係性(家族、友人、同僚など)、目的(レジャー、親睦会、研修など)などを、できるだけ細かく打ち合わせさせていただきます。

「ボードゲームは全くやったことがない」とか、「『カタン(CATAN)』と『ナンジャモンジャ』は家にあります」といった経験値的な話や、GAWでの理想の過ごし方、例えば「レジャーとしてボードゲームで盛り上がりたい」「社員同士がコミュニケーションを深める場にしたい」などのリクエストを細かくお聞きしていく。

そして、その情報をもとに、お客様に合ったプログラムを私がお作りして、当日お迎えします。

太陽:つまり、プログラムはフルオーダーメイド。ここは、GAWの大きな特徴です。どんなボードゲームを使うかも、こちらで事前に厳選させていただく。


3層のボードゲーム棚は八ヶ岳の山々をイメージしている。縦に陳列するのではなく、やや角度をつけてボードゲームを飾ることで少し不思議な感覚に。

あだち:世の中にはものすごく沢山の種類のボードゲームがあるんですが、商品によって参加人数もゲーム時間もレベルも違う。5分で終わるものから、10時間くらいかかるものもある。

「気になるものはいろいろあるけど、じゃあどれからやろう?」となった時、自分たちだけで選ぶのってすごく難しいんです。最近発売された話題のゲームが、そのチームにとってもっともフィットするとは限らなくて、知名度のないゲームが最適なこともある。
 
事前にこちらで絞り込むことで、滞在時間の最初から最後までボードゲームに没頭していただく。もちろん当日は私がルール説明、司会進行などのナビゲーションも務めさせていただきます。一日一組、完全予約制なのもそのためなんです。お客さまにフルコミットするため、5時間のゲーム体験の料金設定はすこし高めの、お一人あたり1万8000円とさせていただいております。

八ヶ岳の自然に囲まれて、5時間ボードゲームに没頭(焚き火タイムあり)


あだち:当日の流れの一例はこんな感じです。

11:00 受付 ※スマホなどの電子機器類をお預かり
11:15 簡単なボードゲームでウォーミングアップ
12:00 ランチタイム(GAWオリジナルサンドイッチ、スナック、ドリンクなどが入った「GAWバスケット」を1人1個ずつお渡し)
13:00〜15:00 ボードゲームタイム
15:00〜16:00 屋外でチルタイム(焚き火を囲んで一日の振り返り。オリジナルGAWビール付き)
終了

デジタルガジェットケース

太陽:ボードゲームに集中いただけるよう、受付後に電子機器類をお預かりさせていただくのですが、もちろん強制ではありません。事前の打ち合わせでもあらかじめご説明させていただきます。

「なぜ焚き火?」と聞かれることがありますが、焚き火タイムは、GAWでのボードゲーム体験とリンクする要素なんです。これは、のちほど詳しくお話ししますね。

GAWのロゴは、建物そのものの形+まわりを取り囲む木々+色とりどりのボードゲーム
がモチーフ。カラフルな色は、さまざまな個性ある思考が集まる場所を意味している。
GAWの利用人数は最低6人。最大30人。
ボードゲームに没頭した後は、屋外で焚き火を囲んでチルタイム。

あだち:つまり11時から16時までの5時間は、ボードゲームにフルコミットするための時間。ちょっとだけボードゲームに参加して、疲れたから一人コンビニに買い出しに行って……という過ごし方はできません!(笑)。ランチも、ボードゲームの時間が優先なので、フォークやナイフでゆっくり食べるようなものではありません。手短かにパパッと食べられるように、オリジナルのサンドイッチをご用意しています。
 
太陽:利用対象年齢をお問合せいただくことがあるのですが、プログラムがこんなふうにしっかり決まっているので、このプログラムをご理解いただいて、一緒に楽しんでいただける年齢……中学生か高校生以上の方になるかなと思っています。でも、普段からボードゲームに親しみ、大人と一緒にゲームをプレイできる素養があるのであれば、もちろん小学生でも楽しめるプログラムだと思います。

「遊び」の先にある「学び」まで
GAWが生み出すボードゲーム体験とは?

 
あだち:一日の流れはなんとなくイメージしていただけたかなと思いますが、ここからが本題。

太陽:「大自然に囲まれた施設の中で、ボードゲームを思う存分楽しむ」というだけでも、十分ありだと思うのですが、僕たちが目指すのはそれだけにとどまらないというか。

なぜ、GAWをつくったか。そこをちゃんとお伝えしないとだよね。

あだち:どこからお話したらいいかな。

私はこれまで、アナログゲームマスターとして、個人のお客さまや企業の方から依頼をいただいて、様々なシーンでボードゲームの時間を共有させていただいてきました。

そこで私、気づいちゃったんです。世の中に存在する全てのボードゲーム体験は、人生における「学び」につながっているんだなって。

例えば、ボードゲームをしていると、負けることが多々ありますよね。それがいいなって。あの時、あの手を使っていれば……。さっき違う札が出ていれば……。そんなふうに、ゲームって思い通りにならないことがたくさんある。

でも、負けたり失敗したりするからこそ、「次の一手」を考える思考が生まれますよね。ボードゲーム中って、現実社会では起こり得ないくらい、短い時間の中で「負ける」経験ができる。ゲームの世界だからこそ、思いっきりたくさん負けていいんだって思うと、「負ける」経験が「学び」につながっていく。そしてそれは、現実社会でも必ず生かせるものだと思うんです。

太陽:負けるのがきらいな人ほど、ぜひたくさん負けてほしい(笑)。


チームワークを試される「協力型ゲーム」というジャンルもボードゲームにはある。

あだち:他にも、「全員にターンが回る」という体験にも、「学び」の種があると考えています。

例えば仕事の打ち合わせや会議などで、意見するのをためらったり、気がつくと立場が上の人の発言が多くなっていたりする経験ってないですか。知らず知らずのうちに、コミュニケーションに偏りが生まれていることってけっこうあるんです。

でも、ボードゲームって、必ず「自分の番」がまわってきますよね。自然とみんなに発言の場が行き渡るし、「◯◯さんは、次はどう攻めるのかな」ってみんなが一人一人に注目し始める。

企業の研修にボードゲームをおすすめしている理由の一つでもあるんですが、みんなでそんな時間を共有することで、日々の仕事においても、新しいアイデアや意見を出しやすくなると実感しています。

太陽:研修にボードゲームを取り入れるのは本当におすすめだよね。

あだち:研修の大きな目的の一つに、社員同士のコミュニケーションを深めるということがあると思うんですが、レクリエーションで単に盛り上がればいいというわけじゃないですよね。相手の考え方や人間性を少しでも知ることができる機会になるのが理想的。

ボードゲームは、盛り上がるだけじゃなくて、参加メンバーのいろんな部分を垣間見ることができる。ピンチの場面でも攻めるタイプだなとか、相手に作戦がバレないように進めるのが上手だなとか(笑)。

太陽:「遊び」の先にある「学び」まで、同じテーブルで同じ時間内に共有できると、満足感や達成感がものすごく変わってくるし、その感覚まで味わってこそ、ボードゲームの醍醐味だと思っています。

なので、そこまで持っていけるように、さっきお話したフルオーダーメイドというプランである必要があるし、例えば建築もどんな内装がいいのか、屋外スペースはどう活用すべきかなど、少しずつGAWがかたちになっていったんだよね。

あだち:最初はリゾートっぽいというより、サーカス小屋みたいなものとか、洞窟っぽい空間とか。小さい部屋がいくつかあるより、一つの大きな空間の方がいいとかね。本当にいろんなアイデアがありました。

非日常空間でボードゲームをする理由


太陽:「学び」というキーワードが出てくると、ちょっと勉強会っぽいというか、硬い印象を持った方もいるかもしれません。

あだち:急に緊張してきちゃいますよね。

太陽:そう! だから、八ヶ岳につくったんです。


秋の風景
冬の風景
春の風景

「みんなでゲームをする」という目的なんかのために、わざわざ大人たちが都会から、この高原地帯まで足を運び、大自然に囲まれた場所でボードゲームに没頭する。夕方には外に出て、焚き火を囲む。八ヶ岳のクラフトビールブルワリーであるエイトピークスブルーイングとコラボレーションして開発したオリジナルのGAWビールを飲みながら、みんなで過ごした時間を振り返っていく。

GAWビールは一般販売はせず、現地でしか手に入らない予定。

「何か意見を言わないと」ではなくて、楽しかった思い出を自然と語り合いたくなるような空間にしたいと思ったとき、「非日常空間」であることがとても重要だと思ったんです。

あだち:ゲームが終わった瞬間って、高揚感とか達成感でいっぱいなんですよね。それを解散して帰り道で各々が口にするより、同じ体験をした人たちが全員で、ゆったりとした空間の中で話すことで、その時間もボードゲームの大切な思い出になってくれたらすごく嬉しいなって。

太陽:焚き火を囲むチルタイムはGAWで過ごす最後の1時間。最後の最後まで、人と人とのコミュニケーションを活性化させたいという仕掛けなんです。

GAWオリジナルビールを飲みながらゲームの振り返り会。


最高の出会い方をしてほしい


あだち:ボードゲームにどう出会うかって、すごく大事だと思っていて。

例えば、初めてボードゲームをした場が、異様にゲームに詳しい人たちがたくさんいて、専門用語は飛び交ってるし、ルールも質問しづらい雰囲気で脱落した……とか、子どもが好きそうで買ったら自分には簡単すぎて物足りなかったとか、そういう出会い方だと、それから先、ボードゲームとは無縁の人生になってしまうんじゃないかなって。

私、15歳の時にアメリカに留学したんですが、言葉が通じないストレスからホームシックになってしまったんです。その時、ホストファミリーがボードゲームを出してきてくれてみんなで遊んだら、言葉が分からなくてもすごく楽しめて、本当に元気になれた。その経験が今も私の中ですごく大きくて。

太陽:ボードゲームの魅力や可能性に気づいてもらうためにも、ボードゲームと最高の出会い方ができる空間を作りたいというのも、GAWをつくろうと思ったきっかけだよね。

あだち:GAWでいい出会いをしてくれたら、きっとその先の人生も誰かに「一緒にボードゲームやろうよ」って、言ってくれるじゃないかなって。


大人の嗜みとしての価値も伝えたい


太陽:ボードゲームって、お正月やパーティとかで、誰かが持ってきてワイワイやるものというイメージないですか? 参加したい人は参加して、お酒を飲んでる人は、「俺は今、飲んでるからいいや」って横目で見てるというか(笑)。

あだち:分かる。そういうシーンだとお酒に負けちゃうんだよね(笑)。

太陽:そういうのもよいけど、全員が集中してじっくり向き合えば、ボードゲームってまた違う味わいがある。「大人の嗜み」としてのポテンシャルもあると感じているんです。

「ボードゲームって、イケてるし、素晴らしいカルチャーなんだよ」って、自信を持って示せる場所を作りたかった。


日が暮れて、建物がライトアップされると幻想的な雰囲気に。

あだち:GAWのゲーム棚に並んでいるボードゲームはパッケージデザインが美しいものを選んでいった結果、ほとんどが海外でリリースされたままのオリジナルパッケージのものになりました。

日本語版としてローカライズされたパッケージデザインだと、海外のボードゲームの雰囲気が100%は伝わらないということもあります。箱を開けて遊ばずとも魅力が溢れ出すような、パッケージが醸し出している雰囲気はとても重要だと思っています。 

太陽:たしかに、僕も20代でボードゲーム専門店に初めて行った時は、ずらっと並んだ海外ボードゲームのパッケージのなんとも言えない空気感に、「おもちゃ」とは一線を画すような魅力を感じました。初心者にとっては中身の前に、まずパッケージがある。考えてみれば、ワインとかウイスキーとかのお酒でも、アナログレコードでも、中身を味わう前にパッケージで世界観を感じ、それがカッコよいと思えるか、そこに飛び込む価値があるか否かが残酷なほどに直感で決められてしまう。パッケージは、おそろしいほどに重要な要素ですね。

GAWでは、ボードゲームが元から持つポテンシャルを最大限に感じてもらいたい。照明や棚の工夫で、よりオシャレにディスプレイしていくことも大事ですが、「そもそもカッコよいパッケージである」ものをセレクトして並べていくことが基本的な考え。

ひとつひとつに各々の国のセンスや美学が込められたパッケージ。それが一斉に表の顔を向けて並ぶこのゲーム棚には、ある種の威厳さえ感じ、棚の前に立つと、背筋が伸びるような感覚になります。

世界各国のデザイナーの思いが込められたパッケージデザイン
GAWオリジナルデザインのゲームテーブル。
椅子は長い時間座っても疲れないようソファタイプにし、
人数に合わせて組み合わせられるデザイン。


薪ストーブで暖まったポカポカの部屋から眺める極寒の世界。


ゲーム棚はカラフルなモザイク。
対照的にテーブルとソファはモノトーンカラーのモザイク。

地域とつながり、
原村の魅力も発信する場所へ


あだち:「GAW」って「Get along with(仲良くなる)」の略。「仲良くなるを止めない」という思いが込められています。

太陽:最初に説明することだったかも(笑)。

あだち:確かに……。でもとにかく、GAWがきっかけで、人と人がつながる瞬間がたくさん作れたらって思っています。

太陽:そういった意味でも、GAWがある、ここ原村という地域もどんどん巻き込んでいけたらいいなって思っているんです。

原村は、2017年から僕たちが2拠点生活を始めて、2023年春に完全移住を決めたほど、本当にいいところ。自然が豊かで、温泉もあって、標高が高いので、夏でもクーラーがなくても過ごせるくらい過ごしやすい。ここに来るだけでも非日常感を味わっていただけるくらい。


原村から見える北アルプス(撮影時は雲海が出ていた)
GAWへ向かう林道

ただ、高齢化の問題があったり、2拠点生活の人は多いけれど、例えば30代、40代でここに完全移住するには、雇用や働き方などでハードルがあったりと、課題もある。

GAWが小規模ながらも雇用を生み出す場所になれたらという思いもあるし、僕たち自身も、GAWをきっかけに地域の方々と交流の場が持てたら嬉しい。そんな場所になるための企画もいろいろ考えていきたいと思っています。

あだち:GAWで過ごした後は、原村をはじめとした八ヶ岳エリアを観光していただきたいですね。気軽に立ち寄れる温泉施設がたくさんあって、ぜひ訪れてほしくて、GAW温泉タオルも作っちゃいました。

泉州タオルとコラボレーションしたGAWタオルは3色


オリジナルのネームタグには「ゲームの後は、お風呂につかろう。」のメッセージ。一般販売はせず、GAW現地でしか手に入らない予定。

あだち:あと、今後は子どものためのゲームマスター養成塾イベントもやりたいと思っています。ゲームで遊ぶことによって得られる「学び」を体験することで、人生もきっと豊かになると思うから。

太陽:ゲームの必勝法を教えて、ゲームが強い子を育てるための塾じゃなくてね。

あだち:そう。例えば、みんなが楽しくゲームをするにはどんなふうにルール説明をしたらいいのか。ルールが分からない時ってどんな気持ちになるのか。そんな人に、どんな声のかけ方をしたらいいのか、みんなで考える。ボードゲームって、コミュニケーション能力をものすごく伸ばしてくれるんですよ。

太陽:自分の子どもが、ルールを上手に説明したり、その場を盛り上げていくって想像したら、すごく嬉しいよね。

あだち:そう。そのためにも、やっぱりまずは、大人が心からボードゲームというものに価値を感じられるような、象徴的な場所を作っていきたいなって。

太陽:GAWをつくった理由って、話し出すと改めていろんな思いがあったね。いろんな話をしてしまったけれど、どうだろう、GAWのこと、分かっていただけたかな。

あだち:GAWジャーナルでは、今後も、GAWのこだわりや利用者様の声などをご紹介したり、専門家の方を招いてボードゲームの知られざる魅力を伝えていきたいと思っています。次回もお楽しみに!

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