見出し画像

ポケモンSVのサントラを聴く

2024年2月27日、「ポケットモンスター ソード・シールド」、「Pokémon LEGENDS アルセウス」、「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」のBGMをそれぞれ収録したサウンドトラック3種が同時発売されました。このサントラを聴きながら、オープンワールドによって表現されるシームレスかつインタラクティブなSVのBGMを改めて「曲」として振り返り、私が感じたことを整理したいと思います。本稿の内容はSVのネタバレを含むため、未プレイで気にされる方は注意してください。

作曲者の顔ぶれ

本編の作曲者は、ゲームフリークの増田順一さん、一之瀬剛さん、足立美奈子さん、元ゲームフリークの佐藤仁美さん、UNDERTALEのクリエイターToby Foxさんといった剣盾にも参加したメンバーに加えて、スーパースィープの谷口輝雄さんとカプコンの前馬宏充さんが参加しています。前馬さんはレジェンズアルセウスに引き続きの参加です。また、タイトル画面で流れるメインテーマは吹奏楽の編成で編曲されていますが、これは羽深由理さんによって編曲されています。

まず気が付いたのはToby Foxさんの関わった曲の多さです。もともと一之瀬剛さんと交流があり、剣盾やリトルタウンヒーロー(ゲームフリーク開発のRPG)で曲を提供していたToby Foxさんですが、SVでも音楽に関わっています。サントラ発売前の時点で、いくつかの楽曲を作曲したことが自身のメルマガで明らかになっていましたが、いざ蓋を開けてみると後述する南エリアをはじめ、かなり重要な曲を作曲されています。また、Toby Foxさんが作曲した曲をゲームフリークのメンバーが編曲するという形式も見られます。作曲者と編曲者を変える試みは「共鳴」をテーマにしたBW2では積極的に取り入れられていましたが、前作の剣盾ではDLCの一部の曲を除いて見られませんでした。作曲者の特徴が出やすかった剣盾の音楽と比較して楽しめる部分かなと思います。

DLCでは、これらの作曲者の他に村山礼さんと添田悠さんという方が参加されています。このお二人についてはあまり詳しいことはわからなかったのですが、村山礼さんは本編のスタッフクレジットを見るとマッププランニングのリーダーにむらやまれいという名前が載っています。100%同一人物という保証はないですが、もしそうだとしたら本職はそちらで、サウンドもできるということでしょうか?テラパゴス関連の曲を担当されています。添田悠さんも同様に本編のスタッフクレジットを見る限りサウンド開発サポートとして名前が載っています。ブルーベリー学園のトレーナー戦やスター団追加イベントの編曲を担当されています。

また、サントラ未収録ですが、エンディング(スタッフクレジット)にEd Sheeranの「Celestial」が使われたことにも触れるべきでしょう。シンガーソングライターによる書き下ろし曲を採用するというのは、ポケモン本編では初の試みとなります。このエンディングは終盤のシナリオも相まってかなりエモい演出で、個人的にはこういうスタイルもいいなと感じました。

3つのメインテーマ

SVでは事実上3つのメインテーマがあると言えます。1つ目はタイトル画面で流れる「タイトル」です。最早説明不要ですが、これはポケモン赤緑のタイトルのアレンジで、ポケモン全作品を通してのメインテーマになっている、いわゆるドラクエの序曲ポジションです。タイトル画面ではゲームの進行度に応じて吹奏楽版とピアノ版が流れます。

吹奏楽版は、吹奏楽部の合奏をイメージしたつくりになっていて、チューニング→指揮者の棒叩き→合奏という構成になっています。このアレンジはSVがいわゆる学園ものであるという部分と結びついており、SVの3rdトレーラーの音楽に大阪桐蔭高校吹奏楽部による爆速アルヴァマー序曲の演奏が採用されたところからもわかりやすいかと思います。

2つ目のテーマは今回のコンセプトとなるアカデミーのテーマになります。ゲームを開始して最初に聴くことになるキャラセレクトやその後のアカデミー紹介の場面で流れる「パルデア地方へようこそ!」という曲の中でアカデミーのフレーズが使われています。アカデミーは恐らくゲームをプレイする中で最も長い時間を過ごす施設だと思うので、かなり印象に残っています。

3つ目は南エリアです。ゲーム中では「パルデア地方へようこそ!」の次に聴くことになる「パルデアの空を駆けて」(ミライドン/コライドンが空を飛んで墜落するまでの曲)で早速南エリアのフレーズが登場します。その後アカデミーへ向かう場面で本格的に流れる南エリアの曲ですが、先述のアルヴァマー序曲が使われたことも相まって、吹奏楽の序曲的な印象をかなり受けました。

ブックレットのコメントによると、もともとはアカデミー用の曲としてToby Foxさんによってラフ音源がつくられたようですが、それを聴いた一之瀬さんとディレクター大森さんが、これをSVの代表的な曲にしたいということで一致し、冒険開始のタイミングで流れるフィールド曲になったという経緯があるそうです。特にザ・ホームウェイではこの曲のフレーズが使い倒されていて、「戦闘!■■■■」(ラストバトル・楽園防衛プログラム戦)でも、開始26秒あたりから旋律が使用されているほか、その後のシーンで流れる「ザ・ホームウェイ」や「より道して帰ろう」でもピアノやストリングスによる美しいアレンジを聴くことができます。極めつけは、なんとエンディングでもCelestialに続いて流れます。まさにメインテーマにふさわしいSVの象徴的な音楽となっています。

南エリアがSVの象徴的な音楽と言えるもう一つの理由は、この曲がSVのもう一つのコンセプトである、オープンワールドに対応した音楽であるという点です。例えば南エリアの場合、足立さんによる編曲で南エリア(ライド中に流れる曲)、プラトタウン、戦闘!南の野生ポケモン、南エリアを歩く(歩いているときに流れる曲)などが南エリアのアレンジになっています。つまり、そのエリアを旅している間は、ポケモンセンターにいる場合などを除いて、基本的にはそのエリアのフレーズが流れ続けるということになります。戦闘曲ですら同じフレーズであるという点には驚きました。

異質なスター団関連の音楽

SVの敵組織スター団のBGMは基本的に谷口さんが作曲されています。敵組織の音楽の作曲者を統一するという方式は過去の作品でも使われていて、XY~剣盾までの作品では敵組織の音楽といえば足立さんでした。SVではスター団の曲はピーニャ(DJ悪事)が作曲しているという設定があるため、雰囲気を統一するためにも、曲に個性を持たせるためにも、これまでのポケモンの曲を作っていない谷口さんに任せるということになったのだと思います。

中でも戦闘!カシオペアはかなり異質でサントラのブックレットの作曲者コメントにもあるように、ガバキック(キックドラムにディストーションをかけたもの)が全体的にかなり印象的に使われています。これは音楽ジャンルでいうとハードコアテクノで、RPGの戦闘曲というより音ゲーに近い性質を持っています。

個人的に取り上げたい曲

エリアゼロ

Toby Foxさん作曲、一之瀬剛さん編曲です。ブルガリアンボイスと反響音のあるドラムが「エリアゼロの空間」という特別感を演出しています。今作ではBGMを聴くために思わず立ち止まってしまう箇所がいくつかあったのですが、最も長い時間立ち止まっていたのがエリアゼロに足を踏み入れた直後でした。ザ・ホームウェイはめちゃくちゃいいストーリーでしたが、散りばめられたエリアゼロのフレーズがその面白さに一役買っていたことは言うまでもないでしょう。

戦闘!ジムリーダー

体感としては、前作の剣盾のジムリーダー戦で取り入れられたインタラクティブな演出がより強化された印象です。全体を通して、ブラスセクションの活躍が目立ちます。こればかりはサントラで聴くよりも、実際にプレイしながら聴いた方が圧倒的にいいと思います。

カラフシティ

今作の町の曲は、プラトタウンのようにそのエリアのテーマのアレンジをしているパターンと、ハッコウシティなどのように独立した音楽になっているパターンがあり、カラフシティは後者になります。ピアノの高音域を用いたイントロからサックスの中音域を用いたメロディに入ることでスタイリッシュさを効果的に演出しています。

サザレのテーマ

佐藤さんらしい軽快な曲ですが、注目すべきはLEGENDSアルセウスの「集落」の副旋律が使用されているという点です。ちなみにその「集落」にはDPのクロガネシティのコード進行が使われているそうです。情報量の多さだけでご飯が進みますね。

ドーム・コーストエリア

テラリウムドームは4つのエリア+センタースクエアでそれぞれ同じ曲が異なるアレンジで流れるのですが、曲の後半になるとBWの音楽がアレンジされるという粋な演出があります。それぞれのエリアでそれぞれ異なる曲のフレーズが使われており、個人的にはホドモエシティがアレンジされているコーストエリアが一番好きです。作曲者の欄には、BWの元ネタ曲を作曲された方の名前も記載されており、景山将太さん(BWのサウンドリーダー)の名前を久しぶりに見つけて嬉しくなりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?