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不動産テック企業の最新トレンド/事例、ベンチャー投資傾向を読み解く

ベンチャー企業が創り出す新市場や産業の未来を考えるヒントをお伝えする「FUNDINNO未来産業レポート」の第三弾です。

今回は「不動産テック」をテーマにお伝えしていきます。

※以下掲載のURLから遷移するWebサイトは、全てFUNDINNOのものではありません(YouTube動画を除く)。

不動産テックとは?

一般財団法人不動産テック協会の定義を引用します。

「不動産テック(Prop Tech、ReTech、Real Estate Techとも呼ぶ)とは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」

不動産テックのカオスマップ

不動産テックと聞くと内覧VRなどを想像されるかもしれません。しかしその範囲は広く、一般財団法人不動産テック協会が発表しているカオスマップでは12個のカテゴリー分けを行っています。

不動産テック カオスマップ(出典:一般財団法人不動産テック協会)

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ベンチャー企業の実態把握は難しく一概には言えませんが、カオスマップを見ると、管理業務支援(85件)、仲介業務支援(59件)と業務支援ツールが多くみられます。
その一方で、ローン・保証(13件)、不動産情報(16件)、クラウドファンディング(23件)、価格の可視化・査定(26件)、リフォーム・リノベーション(26件)が少なく、「ローン・保証」など、主に金融に関わるような分野における進出が参入障壁があってか比較的少数である印象を受けます。

不動産テック業界が拡大する背景

不動産業界を数字から理解していきましょう。

-日本の市場規模
45兆3,835億円(2019年売り上げベース)

-売上高営業利益率
9.39%(平均値)
全産業平均4.41%を大きく上回る水準

※財務総合政策研究所財政金融統計月報第811号より計算

これほどの巨大産業でありながら、労働集約的な特性から多くの非効率な部分が根強く残り、デジタル化が遅れているのが不動産業界の特徴です。

デジタル化の遅れは日本に限った話ではありません。

2012年米国コンサルティング会社PwC Strategy&(当時Booz & Company)は欧州の15分野の産業を調査しデジタル化度を発表しています。

その調査結果によれば、一番高い金融業界では53.5%なのに対し、不動産業界は38.6%しかありません。平均が43.92%ということからも他の産業と比較してかなり遅れていると言えます。

図1 欧州における産業のデジタル化

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Booz & Company(現PwC Strategy&)「The 2012 Industry Digitization Index」

ここまでの内容から、不動産業界は、テクノロジーの力で大きな変化が起こる可能性が高い、つまりは成長可能性性が高いと理解することができます。

世界の不動産テック投資状況

この不動産業界のデジタル化浸透度の遅れを背景に、世界では多くのスタートアップ企業が既に参入し多くのユニコーン企業が誕生しています。

2015年から2019年の間に
・スタートアップへの資金調達額は約4倍に増加
・投資案件数は約61%増加

と毎年増加傾向にあります。

2020年の資金調達額は、コロナウイルスの影響から約84億ドル(約9100億円)と前年度より減少を見込んでいますが、中長期的な上昇傾向は続いていると考えられます。

不動産テックへの投資金額の推移(2020年8月11日時点)

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米国調査会社Venture Scannnerが各国の不動産テック企業数を2017年3月時点まで国別集計した結果を発表しており、
近年これまで誕生してきた不動産テック企業は米国中心、次いで欧州や中国が続いていることがわかります。

不動産テックの分布(2017年3月時点)

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世界の代表的な不動産テック企業

世界の不動産テック企業のなかには、既にユニコーン企業が誕生しています。

代表例が、民泊ビジネスで一躍有名となったAirbnd, Inc.です。

Airbnbは2007年設立後、家の空きスペースを貸し出したい人と宿泊したい人をアプリやウェブサイト上でマッチングすることで保有する住宅を宿泊へと変えるビジネスを展開し、欧州や日本を含めた220カ国・地域で物件を扱っています。

日経新聞2020年12月11日の記事「Airbnb上場、時価総額一時10兆円 買い殺到で初値2倍」によれば、Airbnbは「10日、米ナスダック市場で新規株式公開(IPO)を果たした。上場初値は146ドルとなり、公募・売り出し価格(公開価格)の2倍超になった。時価総額は一時985億ドル(約10兆2000億円)に達した。」と発表しAirbnbへの投資家の関心の高さを伺わせる内容となっています。

Airbnbのスマートフォン画面

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Airbnb” Shareholder Letter Q2 2021”より

また、ソフトバンクグループが出資していた米国不動産テック企業OpendoorがSPAC(特別目的買収会社)を通じて上場したことがニュースとなりました。

Opendoorの事業について説明します。従来の住宅市場では、売手は不動産業者を通じマーケットに出品し買手を探し契約を結ぶ必要があります。

これに対し、Opendoorは売手と買手をつなげるプラットフォームを行うのではなく、独自のアルゴリズムを用いて住宅を査定しOpendoorが直接買い取り、修繕を行った上でタイミングを見て買手に再販する事業を展開しています。その結果、売主は短期期間でかつオンライン上で売却まで済ますことができます。

図6 Opendoorの手続き

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Opendoor HPより

不動産テック発展への課題

一般財団法人不動産テック協会の代表理事である赤木正幸さんは編著者の一人として書かれている「不動産テックを考える」では不動産テック業界の課題を8つ指摘しています。

①ユーザーとオーナーの分離
②不動産テックの維持管理費と更新費
③不明瞭かつ複雑な利益構造
④複雑なサービス対象
⑤必要とされる回転数
⑥小口化の運営問題
⑦情報源の問題
⑧不動産テック人材の必要性

出典先


このなかでも特に陥りやすいと考えられる、3つの課題を詳しくご紹介します。

①ユーザーとオーナーの分離
「不動産業界においては、サービス利用者であるユーザーと、サービス購入者であるオーナーが分かれている場合が多い。」

「このために、ユーザーである利用者のことばあかり考えたサービスでは、オーナーがメリットを享受できないというミスマッチが発生する。」
③不明瞭かつ複雑な利益構造
「サービスの利用料といった不動産テック自体の収益だけでなく、不動産売買による収益が大部分を占める業者もある。また、IT企業と同様に、広告収入やデータ販売収入を収益源とするなど、不動産業者としての関与方法がいくつも存在する。」
⑤必要とされる回転数と付加価値
「不動産を一旦借り手から、シェアリングのために転貸する場合が該当する。転貸である故に、得られた収益の大部分を賃料として支払わなければならず利幅が小さいため、十分な利益を確保するためには高回転が必要となる。しかしながら、高回転が可能な好立地であれば、シェアリングではなく月額固定にする方が安定収入となる場合もある。一方で、高回転だけではなく付加価値を高めることで立地や築年等の不動産固有の価値以上の収益を得ることも可能であり、ビジネスモデルやビジネスアイディアの巧妙さが重要になってくる。また、自己所有ではない不動産への過大なイニシャルコストが必要とされる場合もあり、投資回収機関が長くなるなどのリスクも付随することになる。」

不動産テックでは関係者が多岐に及ぶことが特徴です。

ユーザー、オーナーの他に、地方自治体や大手ゼネコン、金融機関など異なる分野のプレイヤーを関係者とする場合も多く影響は広く及ぶことから、関係者それぞれどのようなメリットがあるのか整理することが事業の発展や継続につながります。

特に地方自治体では近年厳しい財政事情から事業の効率性や公共事業の向上、地方活性化を目的として、建設テック(Con Tech)と含めてPPP/PFI(Public Private Partnership/Private Finance Initiative)など官民連携を図るケースや民間企業と包括連携を結ぶケースも見受けられます。

さらに、関係者が増えることに伴い、「どのような利益構造を図るか」といった点もまた重要となります。「どこから収益を稼ぐのか」、「どれくらいの金額にするのか」、「それに伴う法律関係や税金の整理」は他分野でも共通の問題ではありますが、不動産テックではより重視し事業を構築する必要があります。

日本の不動産テックベンチャー企業

最後に、FUNDINNOで資金調達をしたベンチャー企業を3社紹介します。

① 株式会社Minoru

先述した不動産テック業界では少数とみられる「ローン・保証」に近い事業を行っています。
株式会社Minoruはマイホームを希望されるユーザーへ、借りながら持ち家にできるという譲渡型賃貸住宅「家賃が実る家」 の運営を手掛けています。

「家賃が実る家」は、ユーザーがスマホ上で「家を建てたい場所」「間取り」「外装・内装」「設備オプション」を選ぶことができ、オリジナルの家をプランニングすることができます。そして建築後、一定期間家賃を払うことで最終的にマイホームになります。

また、住宅ローンではなく賃貸契約になる点が最大の特徴で、住宅ローンを組むことなくマイホームを持つことができます。

Fundinnoでは2回募集を行い合計8,820万円調達しています。

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事業内容の詳細はYouTubeをご覧ください。
<youtubeのリンク>

② リーマ株式会社

先述したカオスマップでは「マッチング」のカテゴリーに入る企業です。

リーマ株式会社は不動産を保有する法人の株式譲渡型である「不動産M&A」に特化したマッチングプラットフォーム「ReeMA(リーマ)」を運営しています。

「不動産M&A」は通常の不動産売買に対して、不動産を所有する法人の株式を売買することで、高い節税効果を中心に買主・売主双方に大きなメリットをもたらすスキームとして近年注目されています。

「ReeMA」は、売主(不動産を所有する法人オーナー)、買主(収益不動産市場に参入する投資家、事業者等)だけでなく、M&Aに精通した会計士、税理士、弁護士、宅建士等の各種専門家や金融機関等が交流するプラットフォームです。

弊社の位置づけはあくまでプラットフォーマーであり、双方に有益な情報を提供します。マッチング成立に対する仲介手数料は一切いただかず、案件掲載後、マッチングした際に利用料のみを売主からいただき、公平かつ円滑なマッチングをサポートしていきます。

Fundinnoでは2,820万円調達しています

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③ 株式会社OH YEAH

先述したカオスマップのカテゴリーでは「管理業務支援」に入る企業です。

株式会社OH YEAHは不動産オーナー(以下、大家さん)がスマホで簡単に賃貸管理を行えるツール「raQkan(ラクカン)」を開発しました。「raQkan」は、大家さんの賃貸管理を丸投げできる、いわゆる『オンライン賃貸管理会社』です。

 株式会社OH YEAHは、不動産業界の中でも最もDX化(デジタルトランスフォーメーション化)が遅れているといわれる賃貸管理業務の課題を「Prop-Tech」で解決したいと考えています。

 賃貸物件のオーナーとなる自主管理の大家さんが行う賃貸管理業務は多岐にわたり膨大です。そのため、賃貸管理会社などに業務を委託して物件を管理する大家さんも多いのですが、賃貸管理会社もまた、多くの業務を掛け持ちしていることから、未だ作業の効率化が進んでいません。

株式会社OH YEAHは、これらの課題を「raQkan」の提供によって解決します。メッセージアプリの「LINE」を活用することで、賃貸管理業務の自動化を可能にしました。

Fundinnoでは3,980万円調達しています。

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まとめ

①不動産業界はそもそもの市場規模が大きく、テクノロジーによる変革余地が大きい
②海外では不動産テックベンチャーのIPOが続いている
③ビジネスモデルを見極めるためには、不動産業界特有の慣習を理解することが大切


最後まで読んでくださりありがとうございました!


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