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春の水窪・森歩き その2      ~登頂よりも花よりも~

 (その1からの続き)
 さて、しかしながら、だんだんと草木の花が見当たらなくなってきた。そもそも地面の草は増えたシカにかなり食べられてしまっているようだし、ヤシオやドウダンといったツツジの仲間の花には少し時季が早かったようだ。そして、メマトイがいよいよ耐えがたくなってきた。この調子ではおちおち座って弁当も食べられない。早めに引き返し、メマトイが寄ってこない車のなかで昼飯にするか、なんて考えが頭をよぎる。標高はまだ1300メートルあたり。1685メートルの麻布山山頂上ははるか先である。気を入れ直せば頂上を踏めたかもしれないが、このあたりが中年となった証か、快適に昼飯を食べ、帰路につきながら道端の花でも探そう、という気になった(ひさびさの登山で足にもきていたし)。

 ただ、中年になって気づいたことがある。それは、同じ道を往復しても行きと帰りとでは見える景色が違う、ということだ。行きは表側を見、帰りはその裏側を見る、という面もあるのだが、比較的狭い行き(登り)の視界と帰り(下り)の視界が違っている、ということがあるのかもしれない。とにかく、行きでは目に入らなかったものが帰りには目に入る、ということがあるのに気づいたのだ。なので、早々に引き返すのも必ずしも悪くはないぞ、なんて自分に言い聞かせたりする。すると、

やっぱりあった。ツクバネソウ。

ほんとうに目立たないが、よく見るとちゃんと可憐な花が咲いている。

以前はユリ科だったが、いまはシュロソウ科に分類されているようだ。ただ、この日は帰りもあまり目新しいものに出会えない。ん~きょうはあまり収穫なしか、とやや沈んだ気になっていると、

ありました。本日一の収穫、ヤマウツボ。ご覧のとおり、一見、植物とは思えないキノコのような姿をしていますが、

よく見ると、ちゃんと花が咲いているのです。ただ、葉もつけないし、葉緑素ももたない寄生植物。個体数も少ないだろうから、初めて見ました。こんな代物、どうして行きに気づかなかったのかと思いますが、どういうわけか目に入っていないのですねえ・・。まあ、これぞ往復の醍醐味、としておきましょう。とにかく見つけられてよかった。ハマウツボ科というグループに分類されています。

突き出ているのが雌しべで、ほとんど見えていないが雄しべも中にあるらしい。

なにかの木の根に寄生しているようです。独特の存在感。

 さて、メマトイの来襲を車のなかで避け、昼の弁当を食べたあと、あらためて歩きはじめると、

やはり咲いていました。純白でやや小ぶりの花が繊細で美しい、カスミザクラ(かな?)。大きく開けた林道沿いを歩いたので、陽当たりのいい場所を好むこうした植物の花に出会えたようです。

 お次は一見、花には見えない

ハウチワカエデの花。カエデの仲間は秋には注目されるけど、その花が愛でられることはまず、ないのでは。

小さいけれど、ちゃんと虫をおびき寄せて受粉を達成する虫媒花です。

 さらにはこちら。薄黄色で形も愛らしく、わたしにはなぜか”砂糖菓子”という言葉を連想させるツリガネツツジ(ウスギヨウラク)の花。

ほかにはあまりない色と愛嬌のある形から、けっこう好きな花の一つ。マルハナバチの仲間が蜜を吸いによくやって来ます。

 やや湿った斜面には小さく愛らしいフモトスミレ。

 最後は地上の青い星、フデリンドウ。あたりを見回してもほかに見当たらなかったので、ずいぶん株が減ってしまったかな。

 さて、いよいよ花もなくなって、ゆっくり帰路に着くかな、と思ったところでまたしても、車を停めて思わず写真。

 きょうは登頂よりも、草木の花よりも、この新緑の山肌にやられたようです。さすがにこればかりは行きにも帰りにも目についてしまいました。


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