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「もう決めたことだから」は理由になっていない

下記の記事を読んだことをきっかけに、以前から考えていたことをまとめる。

ぼくは去年の2月にダイヤモンド・プリンセス号というクルーズ船に入ったことがあります。そのとき、ある厚労省の官僚に感染対策の不備を指摘したのですが、彼は不満そうな顔でぼくにこう言いました。「だってもう、決めたことだから」。

「もう決めたことだから」というのは、一見もっともらしい理由に聞こえる。それを聞くと、人は「今からではもう変えられない」という諦めを抱いてしまう。

しかし、過去の判断は「そのときの限定された情報」をもとにしたものに過ぎない。その情報に不足があったことが判明したり、状況が変化した場合は、判断の根拠となる前提条件が変わってしまっている。それをもとにして、判断についても見直すべきだろう。

刻一刻と状況が変化していく世界においては、その時点での判断が完全なものではないということを理解し、後からいつでも変えられるようにしておくべきである。

かつてないほどの速さで出来事や変化が起こっているから、状況を細かく分析し綿密な計画を立てるのは、はかない現在を相手に格闘することに相当する。綿密で詳細な計画を立てるために多大な時間と労力を費やすことが、陳腐化の元凶である。
プランニングと呼ばれるものは、どこへ行くべきかを教えてくれない。今どこにいるか、いや、さっきどこにいたかを理解する助けにすぎない。われわれが立てているのは未来の計画ではなく、近過去の計画なのだ。

計画が綿密で詳細になればなるほど、計画外の予期せぬ問題への対応は難しくなっていく。「取るべき行動」が計画に定められているせいで、それ以外の行動が縛られるからである。その結果、最新の状況に応じて、最前線の人たちが臨機応変に判断することができなくなる。

最新の状況にもとづく行動を提案しても、当初の計画外であることを理由に却下されてしまえば、プロジェクトが成功する可能性は下がるだろう。そんな状況はつくるベきではない。過去に立てた計画を覆せないことで失敗のリスクが高まるという状況は、本来、計画を立てる側も意図していないものなのではないか。

では、計画を後から覆せるようにしておくには、どうすればよいのだろうか。

小さな意思決定を繰り返すようにする

一つの答えは、小さな意思決定を繰り返すことである。不確実性が高いプロジェクトにおいては、当初の段階では大きな意思決定をしないことが重要である。計画を立てることは意思決定のためではなく、その時点での状況を整理する手段に過ぎないと割り切るのだ。

たとえば、意思決定の大きさを小さくした上で、その結果を観察し、それを踏まえて小さな意思決定をするということを繰り返す。

2011年にアメリカの起業家であるエリック・リースは、『リーン・スタートアップ』(井口耕二 訳、伊藤 穣一 解説、日経BP社、2012年)という書籍に置いて、新規事業における小さな仮説検証の重要性を説きました。
(中略)
不確実性が高いプロジェクトには、仮説が検証できるまで大きな投資をせずに、大きな意思決定を遅らせます。
最小限の仮説検証が可能な、実用最小限の製品=MVP(Minimum Viable Product)を作り、それを市場投入し、仮説が検証されれば、追加で大きな投資をします。

最前線に意思決定を移譲する

ただし、小さな意思決定を繰り返すというのは難しい。迅速な意思決定というのは、最前線から遠く離れた指揮官にはできない。指揮官には情報の伝達が遅れ、その情報が届いたときには最前線の状況はさらに変わっている。

このため、各前線の個々のプレイヤーに判断の権限を移譲し、随時、小さな意思決定がされるようにしておくことが重要である。

意思決定の権限には責任が伴う

また、現場に責任の所在を求めるのであれば、同時にその問題を解決するための意思決定の権限を与える必要がある。上流側で立てた計画にもとづいて行動することを指示しておいて、結果の責任だけを現場に求めることはできない。

ただし、立場を置き換えて考えてみると、ここには逆のケースも想定される。現場が、問題があったときの結果責任を上流の指揮官だけに求めているが故に、意思決定の権限が移譲されていないというケースである。そのような状態では、上流からの権限移譲は実現されない。指揮官からしても、現場の意思決定によって生じた問題に対して、急に自分に責任が被せられてはたまったものではないからである。

意思決定を担う場合は、一定の責任を負う必要がある。結果責任(賠償責任)とは言わないまでも、遂行責任や説明責任を負うことは必要になるだろう。

スムーズな権限移譲を実現するためには、プロジェクトメンバーは頻繁にコミュニケーションを取り、権限と責任の期待値を揃えておくことが大切になる。


Photo by Vladislav Babienko on Unsplash

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