忘却された兄妹 2巻
学校が夏休みに入った。それでも新聞配達のアルバイトは続けていた。
早朝の新聞配達では、アルバイト同士がおしゃべりする暇はまったくない。
だから正哉と話す暇もなかった。
そんな、新聞配達を続けていたある日のことだ。
新聞配達を終え、正哉がボクに声かけてきた。
『自分と俺、同じクラスやん。』
『そうやで、俺たち同じクラスやで。』
『なんで、こんなバイトしているん?』
『それは、金がないからや。』
たわいのない中学三年生の会話から始まった。
『俺、前からなんや自分を見たことあるで。』
『俺も見たことあるで。あのな、自分なんで学校に出てこんの?』
『あぁ。俺の家、おやじはおるけど、おかんがおらんねん。それに、2つ下に妹がおるから、妹の世話せなアカンねん。』
正哉の家が父子家庭であることを知った。
正哉の妹も小学生の頃から不登校であることも知った。
『もしかして、自分引っ越してきたん?』
『いいや!引っ越しなんてしたことないよ。』
ボクが正哉に思っていた疑問を投げかけると、正哉が他所から引っ越してきたものではなかった。
こんな日々を送っていると、呆気なく夏休みが終わってしまった。
二学期が始まってからも、正哉が学校に姿を見せることはないままである。
そんな正哉は、早朝から始まる新聞配達だけは休まなかった。
なのに学校へは出てこない。
ボクは何気なく正哉に声をかけてみた。
『正哉、学校に来たらいいのに。』
『学校かぁ…まぁ、いけたらいくわ。』
正哉からの返事は気のない返事だった。
『それより今度、俺の家に遊びにおいで。』
『正哉の家はどこなん?』
『俺の家、新聞屋のすぐ近くやで。』
この正哉の返事にボクは驚いた。
ボクの家から歩いて5分もかからない場所が、正哉の家であったからだ。
ボクは、『今度、遊びにいくわ。』と正哉に返事をした。
それから数日後ボクは放課後、正哉の家を訪ねてみた。
そこでもボクは、正哉がこんな近くに住んでいたなんて。なのに、正哉を他所の学校であると、信じて疑わなかった小学五年生の頃を思い返していた。
正哉の家の玄関には、プランターが山積みされ、その玄関の隣にシャッター付きの車庫があった。
家の玄関と閉じられているシャッターになぜか、ボクは違和感を覚えた。
そんな正哉の家のチャイムを鳴らすと、正哉の家の2階から、ひょっこと正哉が顔を出した。
※つづく
※『ひよこ』
※ノンフィクション
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