見出し画像

2024 J2第12節 ファジアーノ岡山 VS 清水エスパルス の雑感


スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

清水の絞るSHに苦慮する岡山

 大型連休、そして天候にも恵まれて大入りのシティライトスタジアム。アウェイながら多く訪れた清水エスパルスサポーターのシンプルかつ統率された応援に負けることなく、一体感とホームの圧力を感じるサポーターの応援に押されるように、ファジアーノ岡山の選手たちは立ち上がりから積極的にプレッシャーをかけに出ようとする。

 バックラインからの清水の保持に対して当初岡山が想定していたであろうプレッシャーのかけ方は、清水の 2CB(高橋・住吉)に対して岡山の3トップ(グレイソン・岩渕・木村)が 2CH(中村・宮本)への中央のコースを閉じながら第一のプレッシャーをかけて清水のボール出しをサイドに誘導。少し低い位置で引き取ろうとする清水のSB(山原・吉田)にWB(末吉・柳貴)が第二のプレッシャーをかけることで清水に長いボールを蹴らせ、それを回収するという形であったと思われる。要は岡山がやるいつもの形である。

 これに対して清水は、矢島とルーカス ブラガの2枚のSHを内側に絞らせることで岡山の狙いを外してきた。矢島が清水の2枚のCHの近くで、ブラガが清水の2トップ(北川・カルリーニョス ジュニオ)の近くでそれぞれプレーするというのが基本的な形であった。清水のSHが内側に絞る4-2-2-2、4-3-3ぽくも見える形は、本来3-4-3でプレッシャーをかけに行きたい岡山のWBと2枚のCH(藤田・輪笠)にとって非常に難しい振る舞いを迫られることになっていた。

 岡山は前述したように3トップが清水のバックラインに対してプレッシャーをかけようとするのだが、それはCHとボールサイドのWBの縦横のスライドがあってこそ機能する形である。清水は特に左サイドの山原-矢島のラインから保持→前進を図っていたのだが、本来山原にボールが出たところでプレッシャーに行きたい柳(貴) は内側に絞る矢島の存在を無視して縦にプレッシャーに行くことができずにいた。ならばCHの藤田や輪笠がスライドして柳(貴) を押し出せば良いのではとなるが、ただでさえ矢島が入って3CH気味のところに2トップの北川やカルリーニョスが下りてボールを引き出そうとするアクションを見せるので、岡山としてはCHから押し上げることもできないなかなか難しい展開となっていた。

 こうして左サイドを起点に低い位置での保持を落ち着かせた清水だが、岡山陣内への前進の手段としてはミドルゾーンから繋いで前進していくというよりは、2トップや高い位置を取るブラガをターゲットにした、岡山の最終ラインを下げさせるようなボールを増やしていた。そのため清水の攻めの形は、左で作って右から攻めるというのがメインとなっていた。中央から右に流れるカットアウトの動きを増やすブラガに左サイドCBの本山が下げさせられて対応することが多くなり、それのカバーに末吉が下がるので、後方から攻め上がる吉田がフリーでボールを受ける形が多くなっていた。

 このようにして高い位置からのプレッシャーをかける形が難しくなっていた岡山は暑さも考慮してか、15分を過ぎた辺りからむやみに高い位置からプレッシャーに行かないミドルブロックを敷く形がメインとなっていた。ただ最初からハーフラインを起点にして5-2-3のブロックを敷くというよりは、清水陣内にボールがある時は左サイドは左シャドーが吉田をケア(⇒WBの末吉はブラガの位置に合わせて最終ラインに常駐)、右サイドは山原への牽制を考えて柳(貴) がCHと同じ列に立つ4-4-2っぽい形を取って、そこからボールの位置に合わせて5-2-3⇔5-4-1のブロックを敷くという守り方をしていた。

 このように一度ブロックを敷く形となった以上、ミドルゾーンを越えて岡山陣内での展開が多くなるのは仕方ない。岡山としてはそれでももう少し清水の大きな展開を阻害するようなプレッシャーをかけたり、ターゲットに当てた形からのセカンドボールにプレッシャーをかけたり出来るように中央の田上を中心に最終ラインから押し上げる形を作りたいところではあった。しかし岡山の3CB(田上・阿部・本山)からすれば、前線でプレーする2トップ+ブラガの対応で手一杯な部分はあったと見えるのでそれがなかなか難しく、ブロックを押し下げられる展開が多くなってしまっていたのも致し方ないところはある。

 それでも岡山の自陣深くでの守備は、清水にとって危険なスペースをあまり与えずに守る形を作ることが出来ていたと思う。簡単にファールをするのではなく粘り強くサイドに誘導してクロスに持ち込ませる(その結果のCKを与えることは致し方なし)、そして入ってきたクロスやCKのボールに対しては先に触ることを徹底する、というのはしっかりと守れていた。しかし、あまり強いクリアが出来ずに清水に二次・三次攻撃を許してしまっていたこと、そもそも簡単にボールを出さずにできることならマイボールにしようとするプレーで繋がらずに清水にボールを渡してしまっていたことも多かった。疑惑のPKシーンはまさにその前者の部分、強いクリアが出来ずに岡山のBOX内でアバウトなボールが続いたことから起きたと言える。

 カルリーニョスのPKはブローダーセンが見事にストップして事無きを得た岡山であったが、その直後といって良い時間帯で失点を許してしまう。権田のロングキックから自陣でのセカンドボールの争いで後手を踏み、岡山の最終ラインが押し上げるか構えるかで曖昧になったスペースをカルリーニョスと北川とのワンツーで攻略し、最後は北川がフィニッシュして清水が先制に成功した。

前進が縦に「速すぎる」岡山

 次は岡山のボールを持った時の振る舞いについて見ていく。ボールを持たない時の基本フォーメーションが4-4-2の清水は、高い位置から強いプレッシャーでダイレクトにボールを奪うというよりは、広いエリアを守れるCH~対人に強い最終ラインの迎撃でボールを回収するというのが基本形なのだが、これに対して岡山は3CB-2CHが近いポジションを取って前を向くことが出来たら基本的にグレイソンに当てるかもしくはシャドーの岩渕や木村を走らせるか、いずれにしても早い段階で3トップに展開する形を狙っているようであった。なおこの時3トップに出せない場合はWBが一度ボールを引き取って、ワイドで時間を作ろうとしていた。

 清水の2トップ+SHはもちろんプレッシャーに行ってはいたものの前述したようにそこまで強度があるという感じではなかったので、岡山としてはもう少しバックラインで3CBが広がって落ち着いてボールを保持することが出来れば良かった。しかしそうではなく、バックラインがそれぞれ近い距離でボールを持つことが多かったので、清水の2トップは岡山のバックライン→CHへのコースを消すのがそこまで難しくなかったというのが実際のところであった。

 こうなると清水はCHの役割を、相手CHへの縦へのプレッシャーはそこそこに、岡山がバックラインから縦に展開した3トップへのボールに対するケアをメインに回すことが出来るようになる。ただでさえ清水の最終ラインは4枚ともが対人に強い選手たちであるので3トップがボールをキープしてそこから打開するのは難しいのだが、清水がそこでこぼれたボールへのケアに2枚のCHを回すことが出来てしまうと、岡山としては相手陣内でボールを保持して連続攻撃をすることが難しくなってしまう。

 バックライン or ブローダーセンからダイレクトに3トップに展開する形が多くなり過ぎると、岡山は望まない縦の間延びを引き起こしてしまう。そうなると本来優位に立ちたい、というか立たなければならないはずのトランジションの部分、ミドルゾーンでのセカンドボールへのプレッシャー合戦でも後手に回ることが多くなる。そして岡山がバックラインからダイレクトに3トップに展開してくることが分かっていれば、清水の最終ラインからすれば迷うことなく出てきたボールに対してアタックすることが出来る、というわけである。

 それでもこの試合での岡山の3トップは、後方からの援護が少ない中で個人でボールを引き出して、収めて味方を押し上げる時間を作ろうとする形を作ることが出来ていた方だったと思う。そして個人的に良かったと感じたのが、バックラインからダイレクトにボールが展開された時の3トップがお互いに関わろうとするリンク意識であった。グレイソンに当てるボールに対して岩渕・木村のシャドーが背後に飛び出そうとするのはもちろんのこと、シャドーのどちらかが引き出したボールに対してグレイソン→もう一人のシャドーと繋がってボールを保持、そこからボールサイドのWBが関わって清水陣内でプレーするという展開を作ることも出来ていた。

 このようにして、3トップが連携してボールを収めることが出来たり3トップが個々で粘ってマイボールのスローインに出来たりして清水陣内でボールを保持する時間を作ることが出来た時の岡山は、サイド(特に右サイド)を起点にして清水のBOX内に侵入する展開を何度か見せていた。形としてはこれまでもよく見られた、サイドCB-WB-シャドーの関わりにCHが加わってニアゾーンに飛び出して行くというのがメイン。右ワイドの守備では難しい対応を迫られていた柳(貴) が攻撃では粘り強くキープすることが出来ていたので、阿部や藤田辺りがそれを利用してニアゾーンに飛び出す形が何度かあった。

 しかし全体的に見ると、岡山はバックラインから清水陣内に押し上げようとする展開をなかなか作ることが出来ず、そのためこうした3トップを使った攻撃の形を連続して出すことが出来ずに単発に終わってしまうことが多かった前半であった。やはり単発では権田+強固な最終ラインを持つ清水を崩すことは困難である。それでも岡山としては0-0で折り返すことが出来れば全く問題なかったが、つくづく先に失点した、1点ビハインドで折り返すという事実が痛い前半となってしまったと言えるだろう。

「型」そのものは悪くないが

 後半になってからの岡山は、3トップからのプレッシャーを再び強めてできるだけ3-4-3で高い位置から守ろうとする形を作るようになっていた。前半のように清水にサイドに展開されて、そこからの長いボールで2トップ+ブラガを走らせる形を出されても、できるだけ最終ラインの3CBが高いラインを維持して対応するようにしていた。また後半になってからの清水は、試合をコントロールするためか、ミドルゾーンでボールを繋いで保持しようとする意図の見えるプレーを増やしてきていたので、岡山はこれに対して清水の受け手にCHと最終ラインがプレッシャーをかけることで長いボールを蹴らせて回収する形が前半よりも出来るようになっていた。

 こうしてバックラインとCHが前向きにボールを回収する形を増やすことが出来るようになってきていた後半の岡山。保持に関しても、バックライン-CH間でボールを出し入れして時間を落ち着かせることでバックラインから押し上げる形が見られるようになってきていた。清水のSHがなかなかプレッシャーに行けなくなっていたという事情はあるだろうが、おそらく前半の状況でも出来ていたはずなので、個人的にはやはりもう少し早くこういう展開を作りたかったという気持ちはある。

 保持でボールを落ち着かせる形を作り始めた岡山は、清水の2CHの周辺のスペースを起点にした前進の形を作っていくようになる。そのスペースで岡山はCHやCB、もしくは下りてきたシャドーがボールを受けて清水のミドルブロックを引き出すことで、前半よりも高い位置を取れるようになったワイドに展開して大外から複数枚でフリーを作る or 縦突破でニアゾーンを取る形をメインにしつつ、3トップが清水の最終ラインの背後を狙う形を作り出そうとしていた。また後半になってから早い段階でCHのところに輪笠に代わって竹内が入ったことで、バックラインからの保持がある程度スムーズになり、加えて藤田が前半よりも高い位置でサイドでの展開に関わることが出来るようになっていた。

 しかし清水は岡山の作り出してきた展開に対して慌てることなく、矢島→原の交代で3-4-3にシフト。自陣では5バックでガッチリ受け止めることで岡山に対してスペースを作らせないようにしていた。岡山の保持に対して3トップからプレッシャーをかけるというわけではなかったのだが、その分ワイドへの展開に対してすぐにWBが対応して縦へのスペースを消してきたので、岡山としてはサイドから前進させようにも時間がかかる、3トップに展開しようにも3CBに迎撃されるという状況に陥ってしまっていた。

 清水が積極的に高い位置からプレッシャーをかけてきてはいなかったので、岡山はバックラインから押し上げる形(≒全体を前向きにコンパクトにする形)自体は継続して作ることが出来ていた。そのためバックラインからの3トップへのダイレクトな展開を交えながら、基本的にはサイドに展開してそこから粘り強く前進させて何とか清水のBOX内にボールを入れていこうとする形がメインとなっていた。岡山は大外に流れたシャドーやWBを起点に、前向きの状態でニアゾーンにボールを入れる形を何度か作ることが出来てはいたが、入れたボールは清水の最終ラインに先に触られてしまうのがほとんどであった。また、そもそもその手前で詰まってしまってやり直しになることが多く、味方に合わずとも清水の選手にぶつけてなんとかCKは確保するという形もなかなか作ることが出来ていなかった。

 終盤にはルカオと齋藤の同時投入、そこに柳(育) を加えて有無を言わせぬパワープレーを繰り出そうとした岡山であったが、清水の5バックでの横幅を目一杯使った保持に対してパワープレーのためのロングボールを出すためのマイボールの時間を作ることもままならず。5分のATを含めた最後の約10分間を完全に溶かし切った清水がそのまま1-0で勝利した。

まとめ

・岡山の3-4-3でのプレッシャーを外すためのSHの立ち位置、ミドルゾーンでのプレッシャーの差し合いを交わすための長いボールを使った展開 & 最終ラインからの迎撃戦略、岡山の3-4-3の保持→前進が上手く行きだしたところでの5バックシフト。このように岡山の出方に対して対応し続けた清水に対して、この試合の岡山は自分たちの型である「攻守ともに縦志向」をある意味で額面通りにやり続け、最終的には体力切れ & 時間切れ。空手競技でいう実際に対戦相手のいる「組手」をやったのが清水ならば、岡山は仮想の対戦相手である「型」に終始してしまったと言えるだろうか。試合後にすごくモヤモヤしてしまったのだが、やっぱりそこが一番の要因だったのかなと思う。

・その「型」に終始してしまった試合でも、仮想ではなく実際にいる相手に対してしっかりと守ることが出来ていたし、高い位置からのプレッシャーを外された時もカバーリングでスペースを与えない形も作ることが出来ていたし、3トップを使った攻めもある程度道筋自体は作ることが出来ていたのも事実。やはり相手を見た応手をもっと効果的に、早い段階で出せるようなチーム力を積み上げていく必要があるのかなと思う。それができないわけではない(⇒この試合でも実際に後半には出せていた)のだから。

・焦って再発はしてほしくないけど、それでも怪我人早く戻ってきておくれ。

試合情報・ハイライト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?