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ドラマプロデューサーたちばな やすひとさんに聞く「人を感動させる構成とテーマ」とは? #物語のつくりかた

noteでは、さまざまな角度から「物語」についてプロに学ぶイベントシリーズ「物語のつくりかた」を新たにスタートしました。

記念すべき第1弾のゲストは、ドラマプロデューサー・たちばな やすひとさんです。

Netflix『全裸監督』のプロデュースや情熱大陸、NewsPicksのドキュメンタリー制作などを手がけてきたたちばなさん。

今回のイベントでは、すぐにでもつかえる具体的な創作技術や独自の創作哲学について、多彩な事例を混じえて教えてくれました。いま「note創作大賞」への応募を考えているクリエイターのみなさんにも、さっそく参考にしていただける内容です。ぜひご覧ください。

たちばな やすひと / 橘 康仁さん
プロデュース会社「Nemeton」代表

ストーリーってなんだろう?

たちばなさん まず、「ストーリー」というものを理解するために、その構造を分解してみてみましょう。「ストーリー」は、以下の3つのレイヤーで示すことができます。

台形の最下層にあるのが物語の土台となる「テーマ」であり、「設定」や「世界観」。その上に、キャラクターや彼らの行動・セリフが位置します。

この「ストーリー」が発信され、受け手に伝わると「感情」や「共感」が生まれ、さらにうまくいくと「感動」が生まれます。

感動をもたらす物語構成 

たちばなさん 次に、物語の中でモノゴトが起きる順番を決める「構成」についてお話しします。

「構成」では、受け手に「きちんと伝わる」だけでなく、「物語の内容に興味をもってもらえること」を目的として、物語のスタートから終わりまでに起きるモノゴトを、もっとも効果的な順番で並べます。

以下に、具体的な構成の組み立て方をお伝えします。

1.魅力的なCQをつくる

構成を考える上での最重要概念に「セントラルクエスチョン(以下、CQ)があります。

CQとは物語における中心的な「問い」のこと。例えば、「果たして主人公は迷宮の謎を解けるのか」「果たしてふたりは結ばれるのか」など、受け手が何を期待してその物語を観ればよいのかを提示するものです。

物語は、最終的に受け手の心を動かせるかどうかが重要ですが、と同時に最初に興味をもってもらうための「つかみ」もまた大事。

そしてCQは、「つかみ」で示した目的を、主人公が最終的に達成できるのかという「クライマックス」につながっていきます。つまりCQは、主体の目的と達成の組み合わせでできているのです。

最初から最後まで受け手を物語に没入させる魅力的なCQに欠かせないのは、主人公が成し遂げたい目的の「切実さ」。それが切実であればあるほど、受け手はその行方を「見届けたい」と強く思うのです。

2.「V」字曲線

物語の流れを矢印で示します。

たとえば以下のように3つ同じ矢があったとき、一般的には、短い時間に対して上がり幅が大きい1番右の矢が好まれます。

また同じ右肩上がりでも、単調な調子で上昇しつづけた場合には、ひとは上がっていることに慣れてしまい、すぐに興味を失ってしまうんですね。

ですので、これらを踏まえると、1度下がってから再び上がる「V」字曲線を描く物語が、ひとの感情に訴えかけやすいということがわかります。

3.ドラマカーブと7つのポイント

以下が、ドラマの基本的な構成を「V」字曲線で現した図です。

①最序盤「これに注目して観てください」とCQを提示
②序盤のプチハッピー=少しいい感じになる
③(ピンチが訪れ落ちていく)ボトム=どん底の状態
④どん底からの再起
⑤ぐんぐん上昇
⑥クライマックス=CQの達成
⑦プラスα=連ドラでの次回への引っ張りや序盤で張った伏線の回収

これを映画版のドラえもんで例えると以下のようになります。

①異世界から現れたゲストのSOSを受け、のび太たちが冒険に出発
②新しい仲間ができ、ちょっと楽しくなる
(調子に乗りすぎてトラブルが起こる)
③敵が攻めてくる&仲間割れする
④友情を取り戻し、「一丸となって敵と戦おう!」と立ち上がる
⑤ドラえもんの道具が登場。敵にぶつかっていく
⑥敵を退治
⑦異世界のゲストと別れ、元の世界へ


受け手の満足度は基本的に③と⑥の高低差に比例します。そして、④がうまくいくと、受け手はグイッと作品世界にのめり込んで気持ちよく⑤⑥へと進んでいける。

逆に、無理な高低差をつけて④をおざなりに描いてしまうと、受け手が一気に白けることになるので要注意です。難攻不落の強大な敵が現れたはずなのに④でコロっと簡単にやっつけられたりすると、つづく⑤〜⑦は観る気がしなくなってしまいますよね。

悲劇が成立するワケ

たちばなさん これまで、CQが達成される瞬間が物語のクライマックスだとお話ししてきました。しかし、悲劇はどうでしょうか?

悲劇とは、主体が目的を達成できないまま終わる物語。でも、ときに我々は悲劇にとても感動します。それはなぜか。これは物づくりをする上で、とても重要な問いだと思います。

実はCQには、外的CQと内的CQの2種類が存在します。

外的CQとは、物理的に達成するための外部目標。対して内的CQとは、主人公が心の中で本当に求めていること。キャラクター像を構成する大事な要素です。

もしも主人公が③のどん底で自分と向き合い内的CQを発見したなら。④でその障害となっているものを克服できたなら。そこには相当なカタルシスが訪れます。そうなると、もしも最終的に⑥の外的CQを達成できなかったとしても、人々は十分に満足し、感動することができるのです。

作品テーマとは、つくり手の心からの「問い」

たちばなさん では、作品のテーマとはいったいなんでしょうか。

私は、テーマとは、つくり手が心の底から抱く「問い」や「世界のあるべき姿」の提言であり、心の内側にある切実な「悩み」だと思っています。

みんなが興味をもっていることだからとか、この角度から掘り下げたらいいストーリーができるんじゃないかとマーケティング的に考え出すものではなく、自分の中からどうしようもなく生まれるもの。それがテーマです。

テーマである「問い」に対して、つくり手が真剣に答えを出そうとしている姿勢やプロセスが、物語を通じて受け手に届いたなら。そのときにはじめて受け手の共感を呼びうるし、だれかの人生を変える力になりうる。そう信じて、みなさんには創作活動をしてほしいと切に願います。

創造性とは自分への扉

たちばなさん  テーマとは、自分自身から生まれ出る「問い」だと言いましたが、この「問い」を見つけるのは実は大変です。自分の中に深くもぐり、内的CQをきちんと理解しなければならないからです。

ただし、自分を完全に理解してからでないと物語が書けないのかというと、そうではありません。つくり手が暗中模索しながら、わらにもすがる思いで何かを生みだすという行為やその姿勢自体が尊く、それが形になる瞬間に発露されるものこそが人間の創造性なのだと思います。

どうぞ自分を見つめて、自分の中から生まれた「問い」を愛してください。「問い」に真摯に向き合い、考え続けることで、あなたならではの物語がきっとできると思います。

最後にみなさんへのメッセージは、ぜひ「何かつくってみてほしい」ということです。「つくること」には深い楽しみも、充実感もありますから。

いまnoteでやっている「創作大賞」をきっかけに、何かかたちにすること。尺が短くたって構いません。自分を見つめてものづくりをすることで、あなたの人生が前より少し良いものになるのではないかなと思います。

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イベント当日は、映画『鬼滅の刃』、『タイタニック』、Netflix『愛の不時着』や三谷幸喜脚本の魅力、ディズニーアニメ、W・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』など、数々の具体例を挙げて説明してくださいました。ぜひ、アーカイブ動画やたちばなさんの著書にも目を通してみてください!

▼アーカイブ動画はこちらからご覧いただけます

登壇者プロフィール

たちばな やすひと / 橘 康仁
プロデュース会社「Nemeton」代表

東京大学卒業後、有線ブロードネットワークス(現USEN)を経て、2004年にドリマックス・テレビジョン(現TBSスパークル)入社。主なプロデュース作品は、Netflix『全裸監督』、テレビ東京『オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~』、NHK『マリオ〜AIのゆくえ〜』など。ほかに、『情熱大陸』やNewsPicksでのドキュメンタリー制作、『暁の帝』『クローバーに愛をこめて』など舞台プロデュースも手がける。現在、noteでサークル「ストーリーラボ」を運営中。近著に「『物語』の見つけ方」がある。
note / Twitter

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noteでは、オールジャンルの作品を募集するコンテスト「note創作大賞」を開催中です。作品の形式はテキスト、画像、動画のいずれでも、またはそれらの組み合わせでも構いません。大賞および優秀作品賞に選ばれたクリエイターとは、賞を授与した協力会社(KADOKAWA、幻冬舎、ダイヤモンド社、テレビ東京)とともに書籍化や映像化を目指して話し合いを進めます。

イベントも参考にしながら、ぜひコンテストに応募してみてください。

▼note創作大賞について、詳しくはこちらでご確認いただけます

text by いとうめぐみ

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