見出し画像

【全文公開】スタンフォードMBAに合格したエッセイを、5年経った今振り返ってみた(前編)~What matters most to you, and why? ~

あなたにとってもっとも大切なものは何ですか。
そしてそれは、なぜですか。

私は、これを超える問いかけに出会ったことがありません。

たった1000語にここまでの時間と想いをつぎ込んだことは、これまでの人生で一度もない。そう断言できるほど頑張ったエッセイのお題です。
何カ月もかけて、書いては直して、直しては捨てて、新たに書いて、を繰り返しました。
あれから5年。
今、私がこうして、やりがいのある仕事に出会ってワクワクしながら毎日を過ごせているのはなんでだろうなと考えていた時に、ふと、このエッセイのおかげなんじゃないか…ということに気づきました。だから、もしかしたら、これをさらけ出したら少しは誰かの役に立てるかもしれない。
そう思い、超悩んだ結果、思い切って全文公開することにしました。(原文は英語なので日本語に訳しています)

画像1

スタンフォード合格のための鍵を握るエッセイとは?

MBAに合格するためには、提出しなければならない応募書類がいくつかあります。GMATやGREと呼ばれる英語の試験の点数、大学時代の成績表、推薦状など。その中でも一番重要だといっても過言ではないのがエッセイです。

特にスタンフォードは、エッセイにものすごく比重を置いているんじゃないかな、と思っています。何といっても、そのお題が秀逸。

1. What matters most to you, and why?
(あなたにとってもっとも大切なものは何か。それはなぜか。)
2. Why Stanford?
(なぜスタンフォードなのか。)

この2問だけで、その人の価値観、経験、想い、夢、熱量、展望などを聞きだすことができるんです。スタンフォードの審査官はこの質問に対する答えをみることによって、400名という限られた枠を埋めるに値する人材なのかどうかを見極めています。

画像2

なぜ、今これを公開することにしたのか

私は今「誰もが自分らしく生き生きと輝けるにはどうしたらいいのか」という問いに日々向き合っています。

「夢」を持つことが大事なのか?
 (うーん、そうとは限らない気がする。)
「好きなこと」や「得意なこと」を仕事にするのが良いのか?
 (別に絶対条件だとは思わない。)

そんなことを考えている中でヒントになるかもしれないと思ったのが、5年前に必死に考えた、このお題だったのです。

What matters most to you, and why?
あなたにとってもっとも大切なものは何ですか。そして、なぜですか。

結局、自分にとってもっとも大切なことが分かっていれば、それを軸に生きていくことがもっとも自分らしいのではないか。ということは、この問いについて突き詰めていくことが、きっと何かヒントを与えてくれるのではないか。

じゃあもういっそのこと、全文公開しちゃえ!そして、当時どんな思考プロセスで考えたのかとか、5年経った今それがどう変わったのかとかを、自分なりに分析してみちゃえ!というわけで、今に至るわけです。

(私の現在の仕事内容などについては、こちらの記事をご覧ください:これからは「個」の時代だから。自分の「アニュアルレポート」を書いてみた

最初は、何も浮かばなかった。それから始まった戦い

一番最初にこのお題を見たとき、頭に浮かんだのは、
「・・・。」
Nothingでした。

私にとって大切なものってなんなんだ?!というのが、全然分からなかったんです。

当時の私は、社会人3年目。マッキンゼーで丸二年務めたあと、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」という官民協働プロジェクトの運営チームに、出向という形で参画し始めた頃でした。

自分の個人的なパッションと仕事が重なったような感覚をはじめて覚えて、「好きなことを仕事にする」ってこういうことか!という気持ちが芽生えだした時期でもありました。だからぼんやりと、教育にかかわる仕事がしたくて、そのための次の一歩としてスタンフォードに行きたいという想いもあった。でも、このお題への答えは出てこなかったんです。

MBAの受験なのだから、かっこつけなきゃ。アピールしなきゃ。実績やビジネス経験をモリモリに詰め込まなきゃ。世界を変える夢を語らなきゃ。

そんな気持ちが邪魔をしていたんですよね。

でも、スタンフォードが知りたいのはそこではない。
私にとってもっとも大切なもの、を聞かれているんだ。

そこで、カウンセラーの力も借りながら、もっともっと深ーいところにあるものを探す旅に出かけました。
「子供のころ、どんな子だったっけ?」
「なんで教育にビビッと来たんだろう?」

中でも、一番自分にとって衝撃だったのは、
「なんでダンスが好きなの?」
という質問を聞かれたとき。ダンスなんてただの趣味であり、ビジネスウーマンとなった今はもうただの若かりし頃の思い出でしかない、なんて思っていた私にとって、「ダンスが好きな理由」がまさか「スタンフォードに行きたい理由」とつながるなんて思ってもいなかったのです。

でも、結果として、エッセイのオープニングを飾ったのは、ダンスの話でした。

私にとってMBA応募に向けた準備期間は、キャリアとかビジネスとか実績とか、そんなの関係なしにして、「本当の自分」ととことん向き合うことのできた、すごく有意義な時間になったのです。

…おっと、本題にたどり着くまでが長すぎました。
でも、上記のような状態から試行錯誤を経て書いたんだという視点で読んでいただけると、面白くなるのかなと思います。

画像3

お待たせしました。エッセイの全文を公開します

以下の文章は、スタンフォードMBAの応募エッセイの一つ目のお題である "What matters most to you, and why?"に対する当時の私の回答となります。

***

What matters most to me, and why
(私にとってもっとも大切なものとその理由)

卒業前のダンス公演のタイトルは「LINK」だった。その物語を通じて伝えたかったメッセージは、「人とのつながりは、新たな扉を開いてくれる」というものだったのだが、これこそが、私個人にとってのテーマともいえる。のちに、「日本人を世界と"つなげる"」という自身のキャリアゴールを形づけることにもなった。

そのダンス公演自体、「つながり」の究極体験のようなものだった。3,000人の観客を前にしてステージに立つと、ダンサーとお客さんとスタッフさんとの一体感が生み出すエネルギーに圧倒されそうになった。ゼロから1年間かけて準備をし、朝9時から夜9時までの練習に明け暮れた私たちの想い。それを、「ダンス」を通じて届けたら、受け取ったお客さんは大きな拍手で返してくれた。言葉のないコミュニケーションのようだった。その化学反応に身震いがして、興奮の涙が流れた。

なぜそれが私にとってそんなにも衝撃的だったのか?
私の価値観の原点は、「つながり」がない世界を体験した幼少期の思い出にまでさかのぼる。8歳のとき、ある日突然家族と共にイギリスに引っ越すことになり、現地校での生活がはじまった。クラスメートが話していることなんて一言も分からず、自分はここにいるべきじゃないんだと感じていた。
2週間もの間、毎朝、毎晩泣いていた。苛立ちと恐怖と孤独感の涙だ。そのことを考える度にお腹がきゅーんってねじれるような感覚を、今でも鮮明に覚えている。
ある日、母親が教室の中までついてきた。そして驚くことに、私の横の席に座り、折り紙を折りだしたのだ。次の瞬間には、教室にいた女の子たちがワーッと集まってきて、ただの紙ぺらが動物に変身していく様子を、ワクワクしながら見入っていた。しばらく見とれていた私も、勇気を出してゆっくりと折り紙を一枚手に取り、クラスメートたちに折り方を教えてあげた。女の子たちは、私がやっていることをそのまま真似をした。そして目が合ったときに、彼女たちは微笑んでくれたのだ。初めてつながりを感じた瞬間だった。
その日以降、私は涙を流すことはなかったという。折り紙が化学反応を起こし、私の中にあった壁を取り除いてくれて、クラス内に居場所を作ってくれた。私に自信を与えてくれた。視野を広げてくれて、世界は思っていたよりも小さいのかもしれないと気づかせてくれた。

それ以来、私にとって心躍る瞬間は常に「他者とのかかわり」の中で生まれてきたし、人と人とをつなげることが大きなモチベーションになっている。それこそが私にとってもっとも大切なものである:つながりを通じて、変化への扉を開くこと。

10年後、マッキンゼーにて。クライアントのグローバル化に向けたサポートをする中でも「つながり」が今度は自分のキャリアの一部となっていった。大手製造会社でのコスト削減のプロジェクトだった。私たちの分析の結果、現状の国内の仕入れ先から東南アジアの仕入れ先に切り替えることによって、調達コストを大幅に削減できるということが明らかになった。海外メーカーへのアプローチをサポートさせていただけるということにワクワクしていた私。しかし、クライアントはその真逆ともいえるような反応だったのだ。「彼らとはビジネスなんてできるはずがない。僕たちは英語がそもそもできないからね…。」そう言い放つクライアントを目の当たりにしたときに思い浮かんだのは、教室の中で孤立し、金髪のクラスメートたちと目が合わないようにドキドキしていた小さい頃の自分の姿だった。あの恐怖感、あのお腹がきゅーんってなるような感覚が、日本企業の成長機会をも阻んでいるということを知った。

あの時折り紙でつながりを作ってくれた母のように、自分に今やるべきことはあるはずだ。そう思い、クライアントさんが自分たち自身で英文メールを設計したり、直接価格交渉ができるようにサポートした。主体となるのはあくまでクライアントだ。中には、英語のメールなんて初めて書くという方だっていた。私たちは、その進捗を分析しながら、さらなるネクストアクションへとつなげていった。最終的には、海外の仕入れ先に切り替えることでコストを20%削減することに成功した。これまでの実績の中でも達成度合いはかなり高い。プロジェクトの最終日、クライアントの一人に「あなたがいなかったら、国境を超えてみるなんて勇気はなかったと思う」と言われた瞬間のことは、二度と忘れることはないだろう。なぜなら、その瞬間に私の中で何かが目覚めたからだ。

そのような状況は日本中のいたるところで起きている。だからこそ、それを私の力で少しでも変えていきたい、と思うようになったのだ。人と人を、国境を超えてつながれるような、そんなプラットフォームを作りたい。それによって、視野が格段に広がり、世界に居場所があるという感覚を知ってもらいたい。そう思うようになった。

この想いが、私を文部科学省のトビタテ!留学JAPANというプロジェクトへと導いてくれた。この想いが、教育へのパッションへと導いてくれた。そして、この想いが、私の歩みを加速するために必要となる「スタンフォード留学」に挑んでみようと思わせてくれたのだ。

The end.

***

いかがでしたでしょうか。
うーん。やっぱり、恥ずかしいです。(笑)

ちなみに、実際の応募書類では、この次に"Why Stanford?"というお題のエッセイにつながっていきます。
私の場合は、
・日本と世界とをつなげる手段となる「英語教育」に変革を起こしたい
・そのためにスタンフォードでビジネス×教育×イノベーションを学びたい
・さらには、変革を実際に起こせるようなリーダーシップを身に着けたい
・だからスタンフォードのMBA×教育学のジョイントプログラムに入りたい
というような感じで2つ目のエッセイをまとめました。

つまり、2つのエッセイを合わせることで、自分にとって大切なもの(現在)とその理由(過去)が、スタンフォード(未来)によってどう進化するのか、ということを問われているんですよね。ほんと、秀逸。

皆さんもよかったら、考えてみてください。

なお、次の記事では、この後スタンフォードにてどんな留学生活を送り、そしてその5年後となる今日、私の中でこの答えがどう変化しているかという話をしていきます。(一言でいうと、答えが「つながり」じゃなくなっています)

"What matter most to you"への答えは、変わっていいんだと思います。それは、「ブレてる」とか「軌道修正」とかではなく、「進化」なんだと思います。そんなお話です。良かったら是非お読みください。


画像4

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?