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42、それは究極の疑問の答え。

「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」

知的生命体。それはどうしようもない絶望と崩壊に満ちた世界を認識し、それでもその世界の中に答えを求め続ける存在。

「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」

すぐれた知性をもった生命体がこの謎を解き明かすために、スーパーコンピューター「ディープソート」による750万年の計算を行い、その答えにたどり着く。しかし、それに満たされない彼らは、全時代、全世界を通じて最大のコンピューターを作り、数十億年の時間をかけてさらなる答えを求め続けることとした。そのコンピューターこそ惑星地球である。

1979年にイギリスで出版された「SFの歴史に燦然と光り輝く超弩級の大傑作」とも言われる小説のプロットである。

知あるものが、混沌に満ちた世界の中に答えを求め続けようとする絶えまない渇望は、どこまでも果てることがない。

横浜アイデンティティクライシス

「ハマっ子でもないのにベイスターズファンでいられるほど、私マゾじゃありません。」と彼女は笑った。

僕らの失った時間、ベイスターズにとっての失われた10年。暗黒時代、それでもファンの心に光を届け、火を灯してくれた優れた選手たち…

内川、村田、吉村、藤田、金城…

本来であれば、90年代の終わりにようやく手に入れたチームとしての強さを、受け継ぎ、育て、さらにその先の世代へと引き渡していく主役となるべきはずだった彼ら。こうした強い光が、いつのまにか消え、気づくと他の宇宙の輝ける星となっている。残されたものは、体験としての喪失であり、歴史としての断絶である。喪失と断絶。ベイスターズファンにとって21世紀最初の10年はそんな時間だった。

僕らが愛するこの球団は、この頃よほどなにか理由がなければファンでい続けられないところまで沈んでいた。たとえそれが傍から見れば些細なモノ、コトであっても、多かれ少なかれ自分自身のアイデンティティと関わるような物語やつながりがない限り、「ベイスターズファンでいられる」ことは困難であった。単に強いから、単に楽しいから、単にカッコいいから、という理由で応援することを許してくれない、そんな存在。さながら迫害される異端派宗教集団、NPBという荒野をさまよい続けるカルト少数民族。
そして多くのベイスターズファンにとって、チームと自身を結ぶつながりであり物語であるアイデンティティの根拠、横浜という約束の地すら、このチームは失おうとしていた。「ハマっ子でもないのにベイスターズファンでいられるほど、私マゾじゃありません。」彼女の言葉の表層は自虐的な冗談であっても、その本質は多くのファンのアイデンティティに関わる、いわば魂の叫びであった。我々ベイスターズファンにとって、2010年代のはじまりは、スターもない、ベイですらないという、暗黒を超えた絶望、二度と元の形には還らぬ崩壊の予感とともにあった。

ベイスターズ2020

ベイスターズの2010年代は結果として、絶望と崩壊の淵から立ち上がる時間となった。継承と革新の旗印のもと、新たな歴史を刻み始め、新たな地平にたどり着いたのである。もはや僕らは荒涼としたセ界で迫害される流浪の少数民族ではなく、読売、阪神、中日、広島、ヤクルト、という古豪ひしめく平原にあらわれた、誰からも一目おかれる新興勢力である。

 なによりも、失われた10年の断絶を乗り越え、90年代の終わりにつかみかけて手のひらからこぼれたままだった輝ける熱い星が、ふたたび「手を伸ばせば届くもの」と感じられるところまでたどり着いた。僕らの歴史は大洋から、横浜大洋を経て、マシンガンや大魔神の伝説を生み、暗黒の時代を乗り越えいまに続いている。そう確信できること。いまのベイスターズのファンになるのには、強いから、楽しいから、カッコいいから、という理由で充分なこと。いま、僕らのいる地平は、限りなく理想郷に近い。

そんな2019年。しかし、またも巨大な星の輝きがベイスターズを去る。このチームの革新の象徴であり、あらたな歴史そのものともいうべき存在、筒香嘉智が。

ベイスターズの2020年代。歴史は繰り返すのか。僕らはふたたび、星の輝きを失い続け、理想の地から果てしなく遠のき、それでもさまよいつづける流浪の民にもどってしまうのか…。

「一生残る、一瞬の検索」

スーパーコンピューター「ディープソート」が出した「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」を知っていますか?

1979年に出されたそれは、2019年のいま、実は、誰にでも得られる解となっている。現在の地球における最大のコンピューターとでもいうべきgoogleにこの言葉を打ち込むだけで、それは得られてしまうのだ。

 時間というものは、本当に恐ろしい。ありとあらゆるものを変えていく…。

星に祈りを

 横浜に流れる時間。星の時間。どんな星もいつかその輝きを終えること、しかし、また新しい星が輝き始めること。僕らはそのことを知っている。いま、ひとつ大きな星が、この夜空から別の宇宙へと飛び立とうとしている。しかし、僕らはそれを恐れる必要はない。いま必要なものは祝福だけだ。
なぜならば、10年の断絶、新たな輝き、その時間をつなぎ、ベイスターズの歴史を散り散りとなった砕けた星々ではなく、一つの銀河のまとまりとして紡いでくれる語り部がそこにいるから。暗黒時代をともにもがき、新たな歴史の始まりに苦しみ、その両者をつなぎうるベテランとなった彼。究極の疑問、なぜ僕らはこのチームのファンでありつづけられるのか、の答えを象徴する存在がここにいるから。

「ディープソート」が出した「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」それは「42」。

石川雄洋は、ついに背番号42の男となった。



※この記事に刺激されて書いてみました。

DeNA石川 背番号を7から42に変えた理由
https://www.nikkansports.com/baseball/news/201911160000074.html

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