ペットボトルを海に捨てない
はっと目覚めると朝はまだ早い時間で、普段ならもう少し寝るところもう起きた。
時間に余裕があり息子の弁当を首尾よく作って機嫌がいい。
料理が得意でなく好きでもないのでお弁当は面倒で面倒で面倒でしかないのだけれど、やってしまえば手は動くもので、「億劫だけどやりさえすれば案外いける、しかもやや楽しい」物事の多さはなんなのかよと思う。
脳よ。
なかよくやろうぜよ。
弁当をつかんで息子は早々に学校へ出かけ、いっぽうよぼよぼ起床した娘は朝でまだ顎が動き出さないと、焼いて皿にのせておいた食パンにピザソースを厚く塗ってふやかしていた。
焼いたパンが顎にかたいなら、明日からはトーストせずにレンジで温めるほうがいいかねなどと相談しながら、娘はぼんやり、おう、おうと答えてパンにとろけるチーズを乗せるととろけさせずにそのまま食べて「うまいっす」と言っている。
顎の動かない朝の味覚は常時とは違うんだろうなと思った。
娘も出かけ、私は今日も在宅勤務。
除菌、換気、マスク、距離を開けるを続けて手ごたえを得、近ごろは対面の打ち合わせが少しずつ増えてきた。
来週などは会社や外での打ち合わせの予定で埋まりつつあって、すると今日のような在宅勤務が以前同様、珍しい側の日に戻っていくのかなと思う。
風が強く、洗濯物が物干し竿を窓の右から左にツイーっと渡った。
「風がわたる」と言う、その様を目撃したなと思った。強くはためき物干し竿を離れていってしまわないように取り込んで部屋に干しなおす。
こまごましたことを次々に片づけていくような日で、どんどん集中した。昼は餅を焼き、きなこと砂糖をまぶして食べた。うまいし、餅を食べ終え残ったきなこにお湯をかけて練って食べてこれもうまい。
部活のない息子が午後早々に帰宅し、弁当うまかったと言ってくれて、おおそうか、ご飯に鮭のほぐし身をたくさん乗せたからな。
「それに、甘夏の種が取ってあったところにも愛を感じたよ」
そうそう、デザートにつけた甘夏の薄皮がぶ厚かったから、時間もあったし、むきやすいように房の上を切って種ものぞいておいたんだ。
昨日は時間がなくて甘夏の外皮をむいただけでバーンとタッパーに入れて渡した。今日はぐんと手間がかかっている。
喜んでくれてよかった、やったあ、と心臓をでんでん太鼓式にどこどこ鳴り打たせながら、薄皮をむきやすくカットしなかった昨日も愛してはいたんだけどな! とも思う。
もしや愛というのは(早く起きて時間もあるし、薄皮むきやすくしといてやっか)みたいなところに宿るものなのか。やや愕然とした。
愛を伝えるということは、とても面倒だと判明してしまった。
私などは通常甘夏の薄皮なんか適当に弁当に入れて「生きろ!」という強いメッセージとともに渡しているわけで、しかしだからといって愛していないかというとそうではない。いつでもどこでもむちゃんこ愛しているんだよ。
もちろん息子の言う「愛を感じた」は実際に愛を感じたというよりも感謝の意でそう言ったのだろう。
単純に、手をかけた甲斐があったなという話かもしれない。
夜は冷凍のエビチリを粛々と解凍した。解凍するそばで、帰宅したばかりの娘が、今日SDGsの授業があったんだよ、と言う。
ひとりひとりが、努力によりどんなことが達成できるか考えて班に分かれて発表したのだそうだ。
娘の一番仲の良い友達に順番が回り、友達は勇んで「ペットボトルを海に捨てない」と発言した。
聞いた班のメンバーは一瞬「……ん?」という様子でざわついて、そのうち班員のひとりが「そもそもペットボトルは海には捨てなくないですか」と気がついて、その友達も「本当だ、確かにそうだ」となって輪が沸いたという。
すごく良いシーンだ。
私たちはペットボトルを海には捨てない。
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