新型コロナウイルスに空気清浄機が有効である@学校など
論文タイトル:Molecular detection of SARS-CoV-2 and other respiratory viruses in saliva and classroom air: a two winters tale
著者:Banholzer N, Bittel P, Philipp Jent P, Furrer L, Zürcher K, Egger M, Hascher T, Fenner L
責任著者:Fenner Lukas
掲載誌:Clinical Microbiology and Infection
掲載日時:2024年3月8日
リンク:https://doi.org/10.1016/j.cmi.2024.03.002
論文の研究目的は、2 つの冬の間で唾液およびバイオエアロゾル中の SARS-CoV-2 および他の呼吸器ウイルスの蔓延を比較し、さまざまなウイルスについて教室の空気からウイルスが検出される確率をモデル化することです。
皆さまはこの論文を空気感染する傾向の強いタイプのウイルスに、HEPAフィルターを使用したいという根拠に使用できます。
説明するときの結果の解釈です。図1は各ウイルスの流行状況を表し、図2はウイルスの検出状況を表します。図2を第三者への説明に使用すると説明的になり困難が予想されます。結果を統計処理した図3が、説明に使用するのに明確で良いです。
研究方法
2021/22年と2022/23年の冬に7週間にわたってスイスの2つの中等学校(14~17歳)で、唾液、空気、空気清浄機HEPAフィルターのサンプルが分析されました。
空気は、2 台のバイオエアロゾル サンプリング デバイスを使用して浮遊ウイルス粒子を収集し、毎日のバイオエアロゾル サンプルは、サンプリング デバイスに対してプールされ19 の呼吸器ウイルスおよびウイルス サブタイプのパネルの PCR 分析を実施されました。空気感染ウイルスの検出確率は、調整されたベイジアン ロジスティック回帰モデルを使用してモデル化されました。
図1. 唾液検査で検出されたウイルス
2021/22年度は、学生58人中51人(84%)が毎週の唾液検査に参加した。 研究中に陽性の唾液サンプルが21件あり、そのうち19件がSARS-CoV-2、1件がA型インフルエンザウイルス、1件がアデノウイルスでした (図1. 左)。
2022/23年度には、学生38人中37人(97%)が隔週の唾液検査に参加した。 陽性の唾液サンプルは 50 件あり、そのほとんどがインフルエンザ B ウイルス、ライノウイルス、アデノウイルスでした (図 1、右)。
図2. 陽性サンプルの分布1 @バイオエアロゾルで検出
2021/22年度は、陽性のバイオエアロゾルサンプルは 10 件、新型コロナウイルス が 9 件、アデノウイルスが 1 件ありました (図2)。
2022/23年度には、陽性のバイオエアロゾルサンプルが 2 件あり、1 つはライノウイルス、もう 1 つはアデノウイルスでした (図2)。
図2. 陽性サンプルの分布2 @HEPAフィルターで検出
2021/22年度は、空気清浄機の HEPAフィルターに陽性サンプルが8件あり、内訳は新型コロナウイルスが6件、A型インフルエンザウイルスが1件、アデノウイルスが1件ありました。
2022/23年度には、空気清浄機の HEPA フィルターには、B 型インフルエンザウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、新型コロナウイルス の 4 つの陽性サンプルがありました。
全体として、同じ週に同じ教室で同じウイルスが空気中と唾液サンプルから 6 件見つかりました (4 件の SARS-CoV-2 ウイルスと 2 件の非 SARS-CoV-2 ウイルス、図 2)。
図2 の見方です。クラスと年度によって大きく4ブロックが表示されています。各ブロックの上側が唾液中で、下側が大気中からの検出を表します。
最下部に記載の数字は研究週数を表します。(例:1週め、2週め、…)
新型コロナウイルスを黒いドットで表しています。
色分けは、赤がHEPAフィルターで空気清浄をした。緑がマスク着用、灰色が何もしない、です。
唾液中陽性の感染者が教室にいないのに大気中から検出されたケースを赤丸で囲いました。唾液中ウイルスの検出感度の問題でしょうか?
唾液中ウイルスが陽性の学生がいたにもかかわらず大気中で検出されなかったケースを青四角で囲いました。
圧倒的に多数の新型コロナウイルス以外のウイルスは防御なしでも大気中で検出されませんでした。
図3. 空気中 (バイオエアロゾル) にウイルスが検出される確率
図2を調整されたベイジアン ロジスティック回帰モデルを使用して解析が行われました。
新型コロナウイルス は、他の呼吸器ウイルスよりもバイオエアロゾル中で検出される可能性が高かった (事後確率 97%、調整後オッズ比 4.8、95%-CrI 2.6-9.0) (図3)。
空気中にウイルスが検出される確率は、SARS-CoV-2 では 34% (95%-信頼区間 [CrI] 22%-47%) であったのに対し、非 SARS-CoV-2 ウイルス では 10% (95%-CrI 5%-16%) でした (図 3)。
著者の結論
新型コロナウイルスはスーパーエアボーンでした。研究期間中の集団内でのウイルス循環の違いに加えて、もっともらしい説明は、SARS-CoV-2が長期間空中に留まり、それによって長距離感染を促進するというものであり、超拡散現象の観察と一致します。これは、私たちの研究では空気感染の検出がまれであることが判明した他の呼吸器ウイルスとは対照的です。
これはSARS-CoV-2 ウイルスと非 SARS-CoV-2 ウイルスの間のウイルスの特性の違い、例えば空気中の浮遊粒子中のウイルスの分布と生存によるものである可能性がある。ただし、2021/22年の冬に教室にSARS-CoV-2に感染した感染力の高い生徒(スーパースプレッダー)がより頻繁に存在し、より多くのバイオエアロゾルを放出した可能性があるなど、他の未観察の要因も空気感染検出の違いを説明できる可能性がある。
まとめ
日本は衛生環境が優れているとコロナ禍前に思っていたはず。どうやら手を洗う習慣のない人がいたらしい、ということは置いておいて
空気が清浄であるために少し努力できるようです。短期的にはHEPAフィルターなどを使用できます。長期的には電力不足が予想されるようですから、より良い方法の発明が期待されます。
満員電車は我慢しているのですけどね
おまけ
HEPAフィルターとは?
*「HEPA」とは、「High Efficiency Particulate Air」の頭文字です。
HEPAフィルターとは、花粉やほこり、ウイルスなど、空気中のごく小さな粒子を捕集することができる「高性能な微粒子エアフィルター」のことです。
JIS規格の規定では「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有しており、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」とされています。
HEPAフィルターは、もともと、精密機器や半導体の製造工場などの換気装置用フィルターとして、微細なほこりを取り除くために開発されました。家庭用においても、空気清浄機などにも搭載されているものがあります。
HEPAフィルターは、直径1~10μm以下のガラス繊維濾紙を何重にも折りたたんだものです。
HEPAフィルターで捕集することができる粒子サイズ
スギ花粉は直径約30μm、黄砂が約10μmです。カビの胞子、ダニなど、ハウスダストの大きさは、2~5μm以上です。大気汚染物質のPM2.5は、直径2.5μm以下の微細な粒子のことです。これらはHEPAフィルターで捕集することができます。
HEPAフィルターに使われているのは、直径1~10μm以下のガラス繊維濾紙ですで、濾紙には数十μmの隙間があるりますが、何重にも折りたたんだ状態になっているため、空気中の微細粒子が複数回繊維にさえぎられて捕集される仕組みになっています。
HEPAフィルターでウイルスの捕集はできる?
インフルエンザウイルスの直径はおよそ0.08~0.12μm、新型コロナウイルスはおよそ0.06~0.14μmといわれています。ウイルスそのものの大きさは、残念ながら0.3μmよりも小さい。
ウイルスはサイズ的にフィルターをすり抜けそうですが?
(1) HEPAフィルターは、何重にも折りたたまれた複雑な構造をしている。
(2) 微粒子は空気の流れや静電気の影響も受ける
このため、複雑な構造のフィルターをかんたんにはすり抜けられないと解釈されています。出典:パナソニック
(3) サイズ以外のファクター:フィルター繊維の物理的な大きさによるさえぎりやブラウン運動のほか、慣性衝突重力沈降といった微粒子の挙動を複合的に利用して、より小さな粒子を捕らえられるとしています。
HEPAフィルタの対象の粒子径は、1μm以下が代表的です。より大きな粒子であれば、HEPAフィルタでなくエアフィルタを使用します。微粒子の付着過程としては、繊維と微粒子が接触し吸着したり、衝突後のブラウン運動を経て吸着されたりすることがあります。HEPAフィルタの場合、0.1μm~0.2μmの粒子においては捕集効率が悪いため注意が必要です。
小さい粒子は静電気の影響を強く受けるため、静電力を利用して微粒子を引きつける静電HEPAフィルタも存在します。これにより、微粒子の捕集効率を高めることが可能です
HEPA フィルター の初期圧力損失
クリーンルームで使用されるルナクリーンの初期圧力損失のグラフです。
フィルタに空気が通過するとき、空気の流れが妨げられ抵抗が生じますが、フィルタをある処理風量で使用したときの空気圧(静圧)の差圧値(低下値)を『圧力損失』といい、Pa(パスカル)で表示されます。新品のフィルタに定格風量を流した時の圧力損失を「初期圧力損失」といいます。 そして使用していくと埃がたまり、それが抵抗になって圧力損失が上昇していきます。 各メーカーが定めた圧力損失の限界点の値を「最終圧力損失」といいます。
ルナクリーンは0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率です。
HEPAフィルターよりも高性能なULPAフィルター
ULPAフィルターとはUltra Low Penetration Air Filterの略です。
ULPAフィルターはJIS規格で「定格風量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」です
ただし、しかし、空気清浄機の性能は、フィルターの性能だけでは決まりません。風量・吸引力、センサーなども影響します
フィルター交換時期
フィルターの適正な交換時期は、「空気を清浄する時間が初期の2倍以上になったとき」、つまり、性能が初期から50%低下したとき。出典:一般社団法人 日本電機工業会の規定
フィルターの手入れ、交換時の注意
フィルターに付着しているウイルスによる二次感染に注意する必要があります。十分な換気のもと、マスクや手袋をつけるなど、感染対策をしてから行いましょう。出典:パナソニック
パナソニックの加湿空気清浄機は、約10年フィルター交換不要
DAIKIN グループの日本無機株式会社のHEPAフィルタ製品のページ↓
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